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3.学園七不思議の噂

「そういう秘密の部屋っていうか仕掛けっていうか……ちょっと不思議な噂だけでもいいんだけど。ある?」

 翌朝ミサからの戻り際、さっそく桜子と涼に聞いてみた。

 二人は一瞬顔を見合わせた。

「あるわよ」

「でもそれは」

「ああら、桜子さんじゃありません?」

 桜子は笑顔を顔に張りつかせて振り返った。桜子はこの山之内うららにはいつも微妙な笑顔になる。

「あら、うららさん。何か御用かしら?」

「用ってほどでもないんですけど、たまたまお見かけしたものですから。クラスが別れても元気でいらっしゃるのかと思って声をおかけしたんですわ。なにしろ私たちが離れるのって十二年ぶりのことですもの」

 桜子と山之内さんは幼年部・小等部・中等部とずーっと同じクラスだったらしい。

「まぁ、わざわざありがとうございます。でも私、かえって調子が良いくらいですの」

 満面笑顔でやりとりしている二人だけど、間に流れている空気は凍りそうだ。桜子とうららはお嬢様同士、長年のライバルなのだと涼から聞いた。

「桜子、早く行かないと小テストが始まるよ」

 涼の姿に気づいた山之内さんはぱっと顔を輝かせた。

「おはようございます涼サマ。今日もいいお天気ですわね」

 きらきらした笑顔で答える涼。

「そうですね。でもうららさんの輝きには負けますよ」

「まぁ涼サマったら」

「では私たち急ぐので、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 さっすが涼。

 名残惜しそうな山之内さんを残して、私たちは急ぎ足で教室に滑り込んだ。

「はい、では教科書しまって! 小テストを配りますよ」

 さっきの話はまた後でね、と桜子に耳打ちされテストに向かう。

 そう、朝は忙しいのだ。

 朝ミサの後すぐに小テスト。終わったら即授業が始まる。

 今日の小テストはリーダーだ。小テストには合格点があって、足りなければ昼休み再テスト、さらに足りなければ放課後再々テストとなる。ちなみに合格点に届くまで再テストは続く。ヘタすると2つも3つもたまってしまい、昼休みがなくなっていくのだ。

 それは嫌なので、みんな一回で終わらすための努力を惜しまない。もちろん私も二時間の満員電車ですら教科書と首っ引きだ。

 解答を書き終えざっと見直す。うん。とりあえず合格点はクリア!

 鐘が響き、やれやれと答案用紙を前にまわしていると、一緒に手紙が届いた。

『くわしい話は昼休みにね』

 桜子からだ。

 一言だったけど、すごくすごく嬉しかった。

 だってこれが記念すべき、高校に入って初めてもらった手紙なのだ。


 中学校時代、私とハル、ミカとユミの仲良し四人グループはいつも一緒に行動していた。

 二年生から受験勉強を始めた私と違って、ハルはバスケ部、ミカとユミは演劇部で活動を続けていたけれど、私たちは仲が良かった。授業中まわした手紙は数え切れない。

 さらに毎日、尽きることなくいろんなことを話した。私がドラマ断ちをしていたときは、ミカが筋を教えてくれたりもした。

 ここまで私たちが仲良くなったのは、小学校時代の小さな冒険がきっかけだった。

 卒業する前に一度でいいから七不思議を深夜に調べたい、というハルの強い希望で、私たちは静かに学校に潜み、真っ暗な校内を探検したのだ。

 他にも声をかけたのだけど、他の友達は色々な理由で来なかった。来たのは私たち四人だけ。

 暗くなっただけで、いつも見知った校舎の雰囲気がガラリと変わった。まるで昼間の明るい学校は仮面で、夜こそ本音をさらけ出しているかのようなあの不思議な空気を今も覚えている。

 でも懐中電灯を手にみんなとくっつきながら歩いたのは、たった一棟の三階分。すぐ警備のおじさんに見つかって怒られたからだ。その後先生や親にも散々しかられた。

 叱られたことも含めてもすっごく楽しかった。なんでもないことだったけれど、私たちにとっては大冒険だったから。

 中学校は同じ公立で三年間一緒に過ごした。

 それから私は家から遠く離れたここ聖クロスに。ハルは近くの公立高校、ミカとユミは同じ遠くの公立高校へ入った。

 高校に入っておおよそ一ヶ月。

 今も連絡が続いているのはハルだけ。

 ミカとユミは帰りが遅いことが多くて、電話がつながらないのをきっかけに連絡が途絶えたままだ。通学時間が長いし部活の関係もあると思う。

 だけど『電話があったこと伝えておくわね』とおばさんが言っても、かかってくることがだんだんなくなっていって。私からも前ほどは電話しなくなった。ラインやメールはちょこちょこあるけれど。学校が違ったら仲が良かったのも昔の話になっちゃうのかな……。


 昼休み、桜子と涼に外へと誘われた。

 山にある学校だからグラウンドは狭いけれど、座れるような石やいすが置いてある休憩場所がたくさんある。

 中でも二人に連れられてきたのは奥まった所で、自分一人では卒業するまで知らずに過ごしそうな場所だった。

「ここって穴場なんだよ」

「ピクニック気分を楽しめるでしょう?」

 桜子と涼は横長な石のベンチに座った。私もその隣に座る。初夏の風がふわりと吹いて山の緑がきらきら輝いている。ピクニック気分でのんびりお弁当を食べていると、確かにここが学校で平日だなんて嘘みたい。

 だけど山の中だけあって少し肌寒い。だってまだ五月になったばかり。他に外で食べている人がいないのも、きっとまだ寒いからだ。それなのになんだってこんな所でわざわざお昼を?

「さっき言っていた不思議ななにかね」

 お弁当をつまむ手を止めて、桜子が小声で切り出した。

「うんうん!」

「噂だよ」

 涼がさえぎる。

「噂でもいい!」

「あのね……」

「桜子!」

 再びさえぎった涼の声には、明らかに「言ったらダメ」という響きがあった。

 もしかして私、マズいこと聞いちゃったのかな? それとも……

「私が外部生だから話せない、の?」

 二人は意外そうに目を丸くした。

「え?」

「それは関係ないよ」

「だったら教えて!」

 私の勢いに涼は黙り、桜子がようやく話し出した。

「まずは一番よくある話で『誰もいないのに鳴るオルガン』」

「うんうん。ピアノでは『よくある話』ね。それでそれで? 他にもあるんでしょ?」

「……」

 桜子の向こうで、涼は不機嫌そうに黙ってお弁当を食べている。

 なんで不機嫌なんだろう? 涼って怖いの苦手じゃないって言ってたよね?

「次もよくあるわね。『音楽室で動く肖像画』」

「あるある! 小学校では『目が光る肖像画』があったもん。……あれ? 音楽室にあるのはピアノだったよね? ピアノは鳴らないんだ?」

「そう。講堂のオルガンが鳴るの」

 音楽室のピアノは鳴らなくて、講堂のオルガンが鳴るなんて変なの。

 それにしてもどこにでもありそうな話だ。私自身はあまり興味のない『七不思議』も、ハルのおかげで知識だけはある。『音楽室』とくれば、後は『勝手に動くトイレの扉』だの『理科室で踊る標本』だの『増える階段』だの続くのがいつものパターンだ。

「次は理科室とか?」

「そうね。『科学準備室で起こる放電』」

 理科室ビンゴ! でも……。

「放電?」

「そう。人がいないのにパチパチと音がするって準備室を覗いたら、電気の塊みたいな物が浮いていたんですって。放電とは厳密には違うかもしれないわね」

「ふぅん。でもそれ初めて聞く」

 新型だ。

「これはどう? 『忘れの川を渡る船の音』」 

「『忘れの川』ってレテのこと?」

 聖クロスに来てからまったく興味なかったのに神話や聖書にくわしくなっていた。おそるべし聖クロス。

「そう。渡ると記憶を無くす川。それを渡って迎えにくる船の音が、大きな病気やケガをする前に聞こえるんですって。でもその音を聞いたことも忘れちゃうとか」

「へぇ」

 これも初めて聞いた。さすが元洋館の学校だ。

「次はね、階段の踊り場にステンドグラスがあるでしょ?」

「うん。全部は見てないけれど、聖書の物語になっているんだよね?」

「そう。あれはね、一枚一枚、過去の卒業生が制作して寄贈したものなのよ。でもね、その中に一つだけ、どう考えても聖書とは関係ないデザインがあるの」

「ふんふん。『卒業制作の謎』ね」

 私が小学校の時は小さな板に自画像を彫った。卒業時、壁に一面小さな自画像がびっしり並んだ。

それが後で勝手に動くって噂になっていて驚いたっけ。時間がたてば何でもナゾになっちゃうんだよね。

 子供が作ったものだから仕方ないとはいえ、制作物が微妙に不気味なできあがりってことも影響しているんだろう。

「そのデザインのせいなのか、その階段には変な噂があるのよ。『階段で立ち止まっちゃいけない。立ち止まって振り返ると……』」

「振り返ると?」

 真剣に聞き返した私に、桜子は声をひそめて言った。

「どうなるのかは知らないわ。振り返ったことないもの」

「ふんんん」

 『増える階段』と似てる。あれは振り返ると誰かに追いかけられるんだっけ? どうなるのかわからないってことは、振り返った人がどうにかなっちゃったの? それとも噂のみ?

「最後にここね」

「ここ?」

「そう。ここってリスやうさぎをよく見るのよ。もっと暖かくなったら、毎日でも食べ物をもらいに来るわ。でもね、ある日を境に数が減っていくの」

「それは季節の変わり目とかじゃないの?」

「そうね。でもちょっと変でしょ?」

「う~ん」

 私はリスもうさぎも飼ったことがないし、自然の動物の行動なんてくわしく知らないから、不思議かどうか判断できない。

「これで私が知っている噂は全部よ」

 初耳のもの以外は、失礼だけど、いかにもうさんくさい『七不思議』って感じのモノばかりだ。この古い校舎にあるのだから、もっと大がかりで珍しいものを想像していただけに、正直いって、私は拍子抜けしていた。

 けれど私は、本当は怖いのが苦手なのだ。

 きっとほっとした顔になったんだろう。目の合った涼が微笑んだ。あわてて顔を作る私に、探るように目を細めて桜子がささやいた。

「奈美は『七不思議』に興味あるのよね?」

「う…………ん、うん」

 聞いた限りではそんなに怖くなさそうだし、ここまで聞いた手前、なんとかうなずいた。

「調べてみない?」

「桜子!」

 涼は再び桜子をにらんだ。

「いいじゃないの」

「ダメだよ。だって」

 涼は続く言葉をあわてて飲み込んで、

「とにかくあたしは反対! 先に戻るから」

と、声をかける間もなく帰っていった。そんな姿を桜子はあきれた顔で見送った。

「涼ったら。大丈夫よ、怖くないわ。私が一緒だもの。今日にでも行きましょうか?」

「今日? そんな急に?」

「もちろんいつでもいいけれど。今日を逃すとゴールデンウィークの後になっちゃうわよ?」

 そうだった。

 長い休みだから休み明けテストもあるはずだ。四月の実力テストが終わってすぐの今のようにゆっくりできないだろう。

「本当に、今日でもいいの?」

「もちろんよ。でも調べたからって必ず不思議な現象を見られるとは限らないけれどね」

「そだよね」

 私たちはくすくす笑った。

 むしろ怖がりな自分としては不思議現象なんて見られないほうがいい。ただ私は、前に四人で冒険したときのような、あんな感じになりたかった。


 二人で教室に戻ると涼はいなかった。

 予鈴が鳴ってから戻ってきた涼は、私と目も合わせてくれない。

 怒っている? でもなにに?

 私が不思議な噂を聞いた時からちょっと変だった。

 もしかしてヤバい七不思議なのかな?

 昔、その七不思議のせいで事件が起こってしまったとか。それですっかり表立って噂することを禁じられたとか? あんなに涼が嫌がってるんだから、きっと何かとんでもないことが!

 って、そんなことないか。

 そんな七不思議ならもっと噂になっているだろう。隠せば隠すほど噂になるものだし。

 だいたいここはミッションスクールなのだ。毎日ミサに参加しているからか、幽霊やなんかの怖いモノからは守られているような気がする。

 大丈夫、何も怖くない。

 それに何より、これをきっかけに桜子ともっと仲良くなれるかもしれないんだ。

ちょっとくらい怖くても我慢しよう!


 ぎぃいい


 え? なに? なんの音?

 耳をすませた私の耳に再び聞こえた。


 ぎぃいいい ぎぃいいいぃ


 聞き違いじゃない!

 遠くから響くような音に、あわてて机にふせていた顔を上げる。なんの変わりもないざわざわした教室だ。変わった様子の人はいない。

 振り返ると桜子が「どうかした?」と目を細めた。私の他には誰も音を聞いてない? しばらく耳に集中したけど、もうさっきの音は聞こえなかった。

 そうして本鈴が鳴り、先生が来た。

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