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魔術:魅了 〈ワルドー編 その2〉



「此度の糜爛(びらん)の魔女討伐ご苦労であった」


ワルドーは今、王の御前で勲章を授与されているところであった。


あれからシェイネの森には行っていない。

結構可愛かったけどな。ひょい、で飛ばされちゃうんじゃ行っても無駄。


今はワルドーの手の届く所に街娘が3人ほどいる。


充分かな。


「リリンを、こちらに!」


大きな声が響いたのでワルドーは気を取り直した。


全身がピンクまみれの女の子が、これ以上は無理という限界まで細かい歩幅で、こちらに向かってきていた。


すげぇな、よく突っかかんないな···。ワルドーが感心して見ていると、目の前の王が待ちきれず口を開く。


「この(どの?)第二王女を、お前に(めと)らせる。栄誉あることだ、畏まって、受けるが良い」


ワルドーは片眉を上げた。

え、それってつまり。俺、王族の縁故になんの。


まぁいいか。あれなら、どうにかなっても余裕で逃げれそう。


ちょこちょこちょこ。王女はまだ歩いていた。



ワルドーは一人、王城を歩いていた。

第二王女の夫となり、地位はそれなりだけどやることはあまりない、という宙ぶらりんな立場で暇を持て余していたのである。


街に行くかなぁ〜、でもあんま馬鹿っぽいのはもう釣れないしなぁ。ちゃんと立場わきまえる女って身持ち硬いんだよねぇ〜、王族とか失敗したかなぁ〜。


ぶつくさと考えながら廊下を歩くと、やがて書庫にたどり着く。


ワルドーはあまり本は読まない。

でもなぜか、きっとよっぽど暇だったのだろう。この時は興味を惹かれてその書庫に入っていった。


今はもう離れてしまったが、ワルドーは元々兵士隊長。そのせいで、城の兵士の私記を見つけたとき、なんとなく気になって中身を開いた。


『私はもしや、大きな過ちを犯してしまったのではないだろうか。

男爵の家からスタイレーン殿を搬送するとき、彼は確かにきちんとした意識を持っていたように見えた。

大魔女シェイネに、魅了でかどわかされているという報告であったが、実際のところ魅了を受けた人間を、私は見たことがなかったのだ。

兵士となるべく受けた教育でも、そんな教えはなかった。

なるほど普通に見えて、それでかどわかされているのであれば、魔女の魅了の恐ろしさも頷ける。

私はそう自分を納得させ、彼を牢屋に押し込んだ。

残虐にして冷徹な魔女シェイネは、赤子にすら手をかけたという。

私も子を持つ親であれば、そんな非道は許せるはずもない。

魔女討伐は当然のことであった。任務さえなければ、私自ら剣を取り赴きたいほどであった。

魔女討伐を知ったスタイレーン殿は、心なし一回り体が大きくなったような気がした。

私の気のせいであろう。

彼はそれほどに怒り狂っていたのだ。

シェイネがどれほど街を想っているか

どれほどの人を癒やしたか

どれほど心清らかであるか

彼は全身全霊で訴えかけてきた。

私はそれで初めて、これが魅了か、と頷きかけたのである。

だが、違っていた。

シェイネが魔力を放出し、我々に直接訴えかけてきたのを感じた。

その恐ろしさは凄まじく、地のそこから湧き上がるような恐怖を感じた。

特にスタイレーン殿は名指しで呪いをかけられ、私の目の前で操られた。

彼から放出していたエネルギーが途切れ、目は虚ろになり、そして呆けたように微笑んでいた。

そう

それが魅了だ。

ならば、今までは?

魅了でなかったとしたら、彼の言うシェイネ像は?

もしも彼の言うことがすべて真であったならば、罪を背負うは我々人間ということになる。

そんなはずはない。私の知る街は清らかだ。

人は優しく、暖かく、慈愛に満ちた街である。

きっと私の間違いであろう。

だが心に残るこのしこり。いつまでも抱いて生きていくしかないのだろうか』


スタイレーン···だと···。

ワルドーは顔を上げた。


俺の祖先が、シェイネに名指しで呪いをかけられた···?

俺の祖先は、シェイネを知っていた···。


それから毎日、ワルドーはこの書庫に通いつめた。



シェイネはため息をつきつつソファから立ち上がった。

目の前にはスタイレーンの子孫。


「やぁお嬢さん。ご機嫌はいかがかな」


「やっかいな魔力ですこと」

そう言うとシェイネは手をひょい、と動かそうとする。


が、

ワルドーが、す、と動いてシェイネの手首を持った。

「まぁまぁ、そうつれなくしないで。お話するだけだからさ」


ワルドーはシェイネの手首をそっと掴んでいるだけだ。だが、シェイネはすごく痛そうな顔をしている。

「早く、離しなさいっ!!」


おぉう、結構ウブな反応。にじゅうまる。

にっこり笑うワルドーの頭に、やっと手のひらの痛覚が到達する。


「うあったっ!いってぇ!!!」


思わずシェイネの手首から離してその手のひらを見る。

そこは、じゅぅぅぅ···と、煙が出そうなほどに焼けてしまっていた。


「う、わ、なんだこれ···」


ととと、と、ワルドーから離れたシェイネは、息を上げながら言った。

「シェイネに触れると焼けただれる、と、聞かされなかったのですか!?」


いや、聞いたけど。ってか聞かされて育ったけど。

「本物なんだ···。俺のじーちゃんかそのじーちゃんを知っている?」


自分の手首を持っていたシェイネは、その握る手を強めた。ぎゅぅぅぅ、と。

「さぁ」


「君に呪いをかけられたって」


「どうかしら」


「どんな呪い?」

ワルドーは、再びシェイネに近寄る。


シェイネは首を振って後ずさった。

「駄目、駄目よ。糜爛の術はもう消えない。私に触れたら必ずただれる。触らないで、お願いだから」


ワルドーはずい、と最後の距離を詰めた。

「ならなぜそんな呪いにした。傷つけるつもりがないのになぜ傷つく呪いを自身にかけた」


ふるふる、と、シェイネは首を振る。

「触れるつもりがないからよ。お願いだから出て行って」


ふ〜ん。と、ワルドーはソファに座った。


「いい家だ。俺も住む」


シェイネは息を呑む。

「驚いた。貴方本当にジャンの子孫?図々しいったらないわ。出ていきなさい、ここは貴方の住む場所じゃないわ」


ワルドーはシェイネに手を伸ばした。

シェイネはちょうどワルドーを森入り口に飛ばすべく手のひらをかざしている所だった。


「駄目ったら!」


「フェアにいこう。触らないから飛ばさないで」


シェイネはため息をつくしかなかった。



次回から、再び舞台はミイナのいる現代へ戻ってきます。

活動報告にて、少しだけ内容の説明も行っています。説明になっているかどうかは疑問ですが···。合わせてお楽しみ下さい。

次回11月28日公開予定です

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