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魔女討伐 〈ワルドー編 その1〉

ここから、ワルドーの過去のお話になります。

まだ森に住んではおらず、焼けただれのひとつもない時代です。


「魔女討伐?」


ワルドーは兵士詰め所のソファに陣取り、一方の肘掛けに頭を、反対には足を投げ出しのんびりくつろぎながらそう聞いた。


「はっ、城からのお達しによるとそのようです」


対照的にキチッと姿勢を正した兵士が、両の手を腰に当て答えた。


ワルドーは渡された用紙を見る。


「シェイネ?糜爛(びらん)のシェイネか、あれって本当にいたの」


「いますよ、俺のじっちゃんのおじさんが見たって」

同じく休憩中の兵士がそう言う。


そこには4,5人の男が思い思いの格好で休んでいた。

「火傷の跡があった最後の人も、いつだったか亡くなりましたよね」


ワルドーはそちらを見やった。

「へぇ、ただの言い伝えだったかと思ってたよ。触られて、生きてたんだ?」


「3人だったかな。皆生きてたみたいで」


「俺、5人が一瞬で蒸発したって聞いたけど」


「自分が聞いたのは、赤子を食い散らかしたっていうので」


ワルドーはため息をつく。

「おい、いるのかよ本当に。まぁいいか、暇だしな」


ワルドーたちは王直属の兵士であった。

つい先月まで、辺境の地での配属で、領土を巡っての戦争に参加していたのである。


血とホコリと爆薬にまみれ、やがて疲弊し膠着する。


どちらも生きものであれば、無限というわけにもいかない。

ワルドーの部下たちは次々に倒れ、ワルドー自身も腹に5針も縫う傷を負った。


がた、と、詰め所にまた一人男が入ってくる。

ワルドーは手を上げた。

「ようニッケ。足はもういいのか」


ニッケはワルドーを見て会釈した。

「へぇ、おかげさまで」


「うっわ、ニッケ災難。隊長にやられたの」


「隊長の骨折処置地獄だよな···」


うぇ〜、っという顔の部下を、ワルドーは横目で睨む。


「骨折はズレた骨をどれだけ元の位置に戻すかでその後の経過が変わるんだ。あのあと1ミリ!が大事なんだよ」


「あぁ···」

ニッケは遠くを見るような顔つきになった。

「あの最後の···痛いんだよなあれ···」


魂が抜け飛ぶような雰囲気のニッケは、そのまま詰め所の奥へと入っていった。


「ほらぁ〜」

「隊長鬼ぃ〜」


ぶうぶう言う部下を無視して直立不動の伝令さんに笑顔を向ける。


「スタイレーン隊受諾。詳細求む。あ、馬とかも欲しいな、山ん中だろ?」


伝令さんは敬礼し「ははっ!」

と言って外へと出ていった。


「うげろげろぉ〜、俺彼女できたばっかっスよぉ」

部下の一人が嘆く。


ワルドーはひょいっと伸ばしていた足を曲げ、立ち上がった。

「なんだお前、彼女いたの。紹介しろよ水クセぇな」


「ぜっっったい、嫌です」


部下はそっぽを向いた。


「なんだよ」

ワルドーはふくれる。


「隊長会わせたら絶対そっちいきます。俺ふられます!絶対嫌です!!」


いいじゃん別に。

ワルドーは思う。


女なんて飽きっぽいし、とっかえひっかえの俺くらいがちょうどいいじゃん。


ワルドーは男爵の家に産まれ、顔もよく、スタイルもよく、頭も悪くなく、剣の腕も立ち、上司の覚えも悪くなく、順風満帆な人生を送っていた。


ここ最近の不満といえば、戦争から引き上げて、傷も癒えたのにちょっと暇だよね、ってことくらいか。


「なんにしても、骨折れてる奴いねぇだろ?いっちょ暴れてやろうぜよ」


スタイレーン隊隊員は、全員だらけながらも手を上げ


「了解」


と、言った。



シェイネの森

奥には残虐の限りを尽くした魔女、糜爛のシェイネが住まうと言われる森。

そこは針葉樹がうっそうと茂り、真昼間でも暗く沈む場所。


爽やかな陽光を浴びながら、ワルドーは首をひねった。

「暗くないよね。むしろサンサンと明るいよね」


周りの部下は可哀想な者を見るようにワルドーを見つめる。

「隊長···こういうのは薄気味悪い暗い森、っていう表現するんですよ」


え、そうなの···なんか俺だけ『馬鹿』みたいな雰囲気なんだけどマジで···。


「隊長!何ボケっとしてんですか、松明きちんと持ってください!」


「こんな危ない洞窟は初めてだぜ···」


キチンと整備された、整然とした垣根が両脇にある歩きやすい道で、ワルドーの部下たちは上や下を見回しつつゆっくりと先に進む。


俺···どうかしたのかな···。昨日きのこ食べたせいかな···。


ちょっと泣きそうな気持ちになりつつ、ワルドーは恐れおののき進む部下達の後を、すたすたとついていった。


「な···んだ、この城は···」

「でかいな···」

「荘厳だ···怪しげな雰囲気だな」


「······」

ごく普通の白い壁の一軒家だった。

窓がステンドグラスになってて、中は見えてないけど、雰囲気的には『赤ずきんちゃんの家』みたいな。

ワルドーは首をひねりすぎてそろそろ一回転しそうだった。


ぎぃーい、と扉を押して中に入る。

「た、た、た、隊長、危ないですから」


中にいたのは

「なんと恐ろしげな魔女!!」


ごく普通の女性だった。

黒い髪を真っ直ぐと背中にたらし、小さく可愛らしい唇がふっくらと艶めき、座っていたソファから立ち上がったが、その背はワルドーの肩にも届かないほど小さく可憐な女性。


女は小さくため息をつくと

「恐怖はやがて挑戦へとつながる、ということなの。一度負けたことにすれば、同じ過ちは繰り返さないかしら」


そう呟き、片手をこちらに向けかざした。一瞬視界が紫に染まったように感じる。


ワルドーは身構えた。

何かしてくる···っ!


すると

「やった〜!さすが隊長!」

「討伐しましたね!これでもう安心だ〜!」


部下たちが騒ぎながら家から出ていった。


へ···。

一人乗り遅れるワルドー。


部下たちはみんな、わいわいと沸き立ちながらも帰路につく。

ワルドーはただ一人取り残された。と、


構えた剣を腰に戻し、あー、ん!ん!と咳払いをし、女に向き直り微笑む。


「お茶でもどう?美人さん」


女は唖然と口を半開きにしていた。

へぇ、赤い瞳か、珍しい。


「綺麗な瞳をしているね。こんな山奥に一人で、不便じゃない?俺ん家来る?」


「貴方、名前はなんておっしゃるの」


ワルドーは手応えを感じる。いただきましたねこれは。

「俺?俺はワルドー=スタイレーン男爵。君の名は?」


女は口に手を当てる。

「スタイレーン···そう、あの方が。ワタクシの名はシェイネ。ご存じのはず。触られる前に去りなさい」


ひょい、と片手を動かす。

途端に周りに風が巻き起こり、気づくとワルドーは森の入り口に立っていた。

次回11月24日公開予定です

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