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邂逅 〈エンド〉


人をただ癒やしたいと願ったシェイネ

そのシェイネをただ守りたいと動いたヨーン

そしてジャン

シェイネの孤独を知っていてただ傍にいたいと願ったワルドー

そのワルドーを救いあげたいと思うミイナ


貴方には誰が悪役に映りますか?



「黒魔術?」


一通りお小言を行ったあと、夕飯を並べていたワルドーはそう言った。


「えぇ、そう。そういう本とかないかなぁって」


「何が知りたいんだ?知ってどうなるもんでもないだろうに」


えへへ、と、ミイナは肩をすぼめて言った。

「根本とか、強さとか、そ、そういうのがあるのよ。実は私、ちょっとかじってて」


ぶ、と、ワルドーは笑う。

「黒魔術の根本は本名だ。魔力は産まれ持ったものだと聞いている。その人の持つ魔力に強弱はないだろう。ちなみに」


ワルドーは、ミイナから少し遠いおかずの皿をミイナに寄せてやりながら続けた。

「君の魔力は底辺だ。ほとんどないと言っていい。俺の本名を知っても、どうにもできないだろうな」


えー!と、目を丸くするミイナ。

くっくっく、と笑うワルドー。


最近、ワルドーの表情が豊かになった気がする。

頬は引き攣れ唇は幾何学な形をしていて、普通の人の笑顔のそれとは違う。でもミイナはワルドーが笑ってくれると、とても暖かく嬉しい気持ちになった。


「魔力など、人の街に降り戻れば必要のない代物だ。皆無でも問題ないだろ」


ぶぅ···。

ミイナはぶうたれた。

魔女に対抗するには必要だわ···。たぶん。


それから一週間経って、ミイナは杖をつき、ゆっくりとなら歩くことを許された。


「山道は、まだ無理だな。だがもう少しだ。よく頑張ったな」

よしよし、と、ワルドーがミイナの頭を撫ぜる。


ミイナはその手を取って、優しく軟膏を塗った。

「それは···」

ワルドーは動きを止める。


「このシェイネの森に入り込んだ時に採っていた薬草よ。もちろん、古い傷には効かないけれど、できたばかりの傷ならば、痛みを抑えてくれるはず」


ミイナは手を伸ばし、そっと、ワルドーの頬にも軟膏を塗る。

ワルドーは身を引くようにした。

「駄目だよ、汚いから」


ふるふる、と、ミイナは首を振る。

「そんなことないわ、あのね、私、貴方のこと」


す、と、ミイナが近付く。

「天使だと、思うの。本当よ、そう思ってる」


ワルドーは困ったようにミイナの腰のあたりを持って、その体を離そうとする。


そこへ赤い光がほとばしった。


「お邪魔するわ」

シェイネだった。


ミイナはワルドーに抱きつき、ギュウっとしがみついた。


「何をしているの、ミイネ。ワタクシが触れたらどうなるか、教えなかったかしら」


ワルドーは困惑した。

「おいイザボー、どうしたんだ。一体何の話をしている?」


ミイナはワルドーを背に庇い、シェイネに向き直った。

「シェイネ!魔女が!やはり貴女が縛っているのね、許さないわ」


「おい、待て。落ち着けミイナ」

ワルドーがミイナの肩を持つが、ミイナはシェイネから目を離さない。


不敵に笑うシェイネの周りに、ミイナはその時鎖を見た気がした。


それはシェイネを優しくも複雑に絡め取っており、そのままワルドーの元へと続いている。


助けるわ、苦しい思いは、もうさせたくないの!!


ミイナから、熱い想いが迸る。

「ミイネ=リナ=レインの名において発する。イザボー=シェイネ、そしてワルドー=スタイレーンの間にある鎖を、今ここで、断ち切ると!!」


パーン!!!


硬質な、高い高い破壊音が鳴り響く。


静かに、どこか諦めたような微笑みで、シェイネはそこに、ただ立っていた。


ワルドーは焦った。

「な、なぜだ。ミイナにはほとんど魔力がないはず。俺の黒魔術を破るなんて···」


シェイネは微笑んだまま答えた。

「魔力は誰もが有するもの。その根本は『その人の名』。威力は変化し、その最大効果を発するのは『愛する心』。かつて貴方が私を縛ってくださった。ジャン、そうだったわね」


そして、す、と、シェイネは手をかざす。


「ここまでよ。長かった。やっと、流れたわ。さようなら。ワタクシの雫たち」



ふ、と、紫の霧が晴れると、ワルドーとミイナは森の外に佇んでいた。

「あ、れ、やだ。なになに、なんでここにいたんだっけ。ワルドー、覚えてる?」


「それが俺にもさっぱり···何してたんだっけ···、ミイナもわからんのか」


はぎゃーー!

考え込むワルドーの隣で、ミイナが叫んだ。


「あ、あ、あ、足が痛いわ!左足っ!な、な、な、なんでぇ!?」


ワルドーはため息をつきミイナの足元にしゃがんだ。

「相変わらずうるさい娘っ子だな、どれ。あぁ、捻挫じゃないか?骨はくっついてる、って、添え木?折れてたの?」


「知らないわ?」


はぁ、ため息をつくワルドーの、すべすべした頬にミイナが触れる。

「貴方の顔、とてもハンサムなのね。ずっと見てた気がするのに初めて見た気がするわ」


ふふん、と笑うワルドー。

「脱いでもすごいぞ、見てみるか」

と、本当にシャツを上げ始めるワルドー。綺麗な腹筋が覗く。


「うにゃ〜!馬鹿ぁ!!!」


顔を真っ赤にしつつもそちらを見るミイナ。


あははは、と、明るい笑い声が響く。




さて、いつまでもここにいても仕方ないわね。


居場所はどこにでもあるわ。


  ひゃあ


···まぁ!


お迎えに来てくれたのね?


優しい子。ずいぶん待たせてしまったわね。


  ひゃあ


くすくす、わかったわ。




───今いくから。






優しい木々がそよぐ森。


人々を癒やす薬草の生い茂る野原。


人はやがて、その場を訪れ、その恵みを享受する。


癒やしは雫となり降り注ぎ、波紋は慌ただしく広がり水面がさざめく。


いつしか誰からともなくその森は、糜爛の意味を無くし、ただただ癒やしの施しとしての意味で、『シェイネの森』と呼ばれるようになっていった。




その後、『魔女シェイネ』をみたものは、誰一人としていない。




                 -fin-




これにて『もりの魔女さん』終了です。

おわかりのように、きっかけはあの有名な童謡の歌詞です。そして全体を通して童話っぽさを(せてるといいなと)してみました。

最後までお付き合い頂き、感謝感激でございます、ありがとうございました。



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