第21話 宿命
己が心に、一片の慢心も傲りもなく
この純粋な力の奔流をぶつけられたなら
どんなに心地が良いのだろうと
願わずにはいられなかった。
×××
十三騎士達のそれぞれの肉体に宿った、伝承にて語り継がれる古代の超人、天才、旧神と呼ばれるもの達の嘗て存在した再現された魂。
起動した者に与える能力は、一つことを成し得るには足り過ぎたる力。
しかし──────
「この短い刻限で考えうる、最も可能性の高い手段を取らせてもらう。生命を賭してでも、いや我らの生命で事足りるならば、なんと安いことか。」
第十三席次の騎士トリオン=レイアンドロの身体に宿った調停者アルカナ。
持ちうる異能は空間を限定した、対等の条件を相手に強制する効果を持つ。
「ぐっ……持たねぇかッ……あと少し……」
捻切れそうな手足の鈍痛は、徐々にアーサーの意識を奪っていく。
両手に抱える絶望は、ジリジリと最期の時に向かって推進していく。
「あらゆる存在は、生存条件を満たした空間にしか存在できないよう設計されている。まずはお前の呼吸を暫しの間止めるとしよう。」
対神結界により星の外側からの干渉が、少なからず阻まれている中で、アルカナの力により完全に根源の供給を断絶させた。
「この世界の基準であるとはいえ、旧神の異能とやらを持ってこられるとちょっとばかり厄介だねぇ。他世界に対する外的干渉効果に関する力は、ボクに比べて皆無に等しいが…この力場においての条件については遺憾ながら、彼らに歩がある。」
この場に限り、神という位においては寧ろ力を十全に発揮することが可能な、十三騎士の身体に融合した彼らの能力が優先される事も考慮しなければならない。
「だが、意識が何らかの理由で操作されたせいか発動した権能は僕のコントロールを離れて自律的に動いている。君たちは発動者であるボクの術の解除を頼らずに、アレを全力で止めなければならないし、そして結果的には僕自身もフリーで動けるようにしてしまったワケだ。」
即時に事態を把握した十三騎士の第一席次、タナトスは直ぐに他の者たちの指揮を始める。
「なら我々も二手に別れよう。あの超巨大な隕石を可能であれば完全に破壊、出来なければ威力を極力減らす方向で。質量をまずは削る為の攻撃系スキルを片っ端からぶつける。その間に、第五、第八、第九席次のファルメ、ガゼルマン、ロンディエルはヤツの相手をしてくれ。」
三名は頷き、身体に蒼白の闘気を纏った女騎士は1歩前へ足を踏み込んだ。
その様子を後ろから援護する形で、鉛色の重厚な鎧を着たダールトンより少し体格のいい大男と、鈍色の厚みのある鋼鉄で加工されたであろう鎧を着た人並みの体型の男が剣を抜いた。
「確かに対物よりは対人に特化した技を有した我々に適任であるな。」
「まずは、どれほどの実力であるか。我々三名の力を以て測らせて貰うとしようか。」
かつて正義の名のもとに殺し屠った、強大な魔獣、虐殺を繰り返した大悪党、国家転覆を目論む政治犯、 国家間の戦争で刃を交えた他国の英雄、剣豪、冒険者etc…
それらと比べ、何ら変わらぬ意識で彼らはその場に居合わせた。
ただ強いというだけでは、およそ勝つことが不可能に近い凶悪な三者によるハメ殺し(コンビネーション)が始動する。
第五席次、ファルメ・イズデル。極死老獪の持ちうる異能は「黒幕」
対象と自らの感覚器官を入れ替える術により、瞬時に視覚を奪い生まれた隙に第九席次ロンディエル・ウィンター、神聖殺しソルの異能「白滅の一」で全能神の体内に蓄積された根源の一部を吸収した。
「遠慮すんじゃねぇぞ、やれェ!!!」
ファルメの号令にすかさず反応したのは、第八席次ガゼルマン・オールニコスの不知火斬の異能「囚人斬首」。これにより、極死老獪の身体を堅牢な棺で拘束し背負った大太刀で棺を小間切れに斬断した。
入れ替えた感覚器官における痛覚の部分を、死を予感する痛みが支配した頃、矢継ぎ早に2度目の「白滅の一」が全能神の腹部に直撃する。先程と打って変わって相反する痛みのない吸収が不可解な不快感を与え、身体を動かすための根源を更に奪い取った。
大きく身体を仰け反らせ、致命傷に至るまであと一歩に見えた。
がしかし─────
「幾度か首を跳ねられた程度で死ねるなら、ボクは全能神じゃなかっただろうね。」
三名の騎士を見やり、そして端的に言葉を発した。
「死を超える程度の能力、神聖を殺す程度の能力、無を両断する程度の能力ってところか。この眼だと良く見える。君たちの異能の指す目的まで。」
依代であるテスラの、スキルを無理やり励起して発動させた心眼、千里眼により状況の把握をより鮮明にしたところで、「権能:星砕」の着弾猶予がもう間もない事を知り得た全能神は、口元を歪ませて続けざまに言い放つ。
「まがい物には分からぬだろう。今より穿つこの御業が、かつて遍く世界の頂点たりうる者の唯一つの威光で在ることを。」
「大権能:輝」
手のひらから、粒状の光が風に舞ってやがて一帯に広がる。
目を凝らすと、粒状でしかなかった光は次第に全長を倍数的に拡大していく。
その場が拡大した光で輝きに覆われた頃、それに触れている生命は存在そのものがその世界に存在していなかった事となる、つまりは大規模な事実の書き換えと言える代物であった。
「これは触れたもの全てを無にする業と言って差し支えない。死に抗う力、そんなたかが知れた即死耐性じゃ防ぎ得ようもないだろ?さぁそろそろ選別しようか、この苦境を乗り越えられる強者のみがボクの喉元に刃を突き付ける権利を持つ。」
無を操作する力と言って差し支えないその、全能性を用いた権能は使用するにあたり発動者自身の有する根源を強制的に二分の一減少するというリスクを伴っていた。
光の内側から逃げようとしたところで、被術者は拡張する光の向かう方向を察知する事は出来ない。つまりどの程度の距離、速度があれば抜け出す事が可能なのか全く情報のない心理的重圧に苛まれる。
そして、効果の現れる時間はそのものの魂の濃度によって決まっている。
強さという曖昧な基準ではなく、全能神より自動判別された存在価値の薄い無生物、生物から順に、まるで光に溶けるかの如く段階的に透明になって消滅するというもの。
その場一帯の視認できる範囲の知的生物が光の内に収まったことを確認し、終わりを告げる宣告を自身を監視する存在へ向けて言い放つ。
『少し手が空いた所だ、昔話が聴きたければ耳を貸しなよ』
『…見えざる手か。今はそう名乗っているらしいね?かつてボクと共に世界の調停を行った全能なる、そして無能なる神どもよ。』
ひたすらに、ただ嗤いながら。
その声色は何か思惑を秘めたように感じさせる。秘めたる真実が何であるか誰一人理解者の居ない全能神は続ける。
『僕はね、全ての世界を調停するなんて面倒な事を実行するのは正直言って、つまらないんだよ。初めから。ただアンタらが誰一人、有益で、効率を求めた完全なる世界を生み出そうとしないから代わりにその役目を買ってやったんだ。分かるだろボクの言いたいこと。』
『物分りの悪い老害を筆頭にした、運営規則の大幅な改訂を認めない保守路線の抱える、成長の止まったと評して過言のない下等な生命体を大量に野放しにして何を期待してるんだ。たいした根源の回収も望めない無価値な生物が自由なんてものを嬉々として語らうのに、もう辟易していたんだよ。』
『極論に聴こえるかもしれないが、あらゆる次元に存在する星が消えようが、残ろうが。ボクにとっちゃ同じことなんだ。全能であることはそれを認め得る者が居て初めてその言葉に意味を持つように、正当な進化を促す事を忘れたアンタらの役目はもう終わった。今だって何処かで徒党を組んでボクから座を取り戻す算段でも立ててるんだろ?勝てるわけないのに、手先の下っ端に権能なんて預けちゃってさァ。』
話の最中で、全能神の放った光の一部が消失しそこから、アーサーが現われた。
「ゴチャゴチャうるせぇよ…糞ガキ。価値がねェだとか、進化の止まった生命だとか。んなもん未来になんねぇと分かんねぇはずだろうが。星が終わっていい?じゃその前にテメェから、その神の座を奪ってやらぁ。あんまり人間舐めてるとぶち殺すぞ。」
殺気の篭った眼光で、上空から見下ろすそれを睨みつける。
『アッハッハッハッハッ!無理無理無理。というか代行者くん…君どっちの立場なんだい?少し前まで人間大嫌いだったじゃないか。何が君をそうさせたのかには少しだけ興味があるけれど、人間を殺すために君はボクに造られたんだからさ、もう少し謙虚な姿勢見せる事とか出来ないのかな?』
「死ぬような目に合うとな、肝心な時にクソの役にも立たねぇ信仰心なんざ取るに足らないほどくだらなくて、目の前で命を直接救ってくれる人間の温かさってやつの方が何億倍も有難く感じるもんなんだよ。」
「だからここに宣言する。テメェも今から必ず死ぬ程の目に合わせてやる。その時に命乞いしても遅ぇぞ?」
『あぁ、そこまで言うんだね。ならボクも温存はしない。そろそろこの依代も限界が近いようだしね。手始めにキミ以外の有象無象を、この場から消し去ってからにしようか。』
よろしくお願いします




