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異世界に転生してきたやつ全員ブチ〇す  作者: 今夜が山田
序章 招かれざる客
18/26

第17話 展望




無と有の区別に、


私たちはどれだけの意味を探すのだろう。


0と1の隙間には、


どれほどの差が生じるのだろう。


×××


にべもなく地面に打ちつけられた無数の打痕により開かれたその一帯は外界から強制的に隔絶された空間として成立し、境界上には異質な濃霧が展開されていた。


覗き込もうにも、その霧には内側から多重に及ぶ高位結界が施されており、そこに佇む二者を除き何者の侵入、監視、干渉を拒絶して、さながら一時代の決闘場を呈していた。


消えかかりそうな鼓動が1つ。


確かにその場に在りはする。

しかしながら、その絶望的な状態を覆すほどの余力はその青年には無いように思える。


目は虚ろに、目標を捉え───


刹那、轟音と呼ぶにはその発信はあまりにも大きすぎる。常人であれば鼓膜どころか臓物が破裂するほどの異常な音量。


巨大な質量を持つ鋼鉄が超高速でねじ切れるような残響を起こしながら、空気を裂く。


神はまるで弄ぶかのように、息を呑む刹那に、眼前から姿を消し反芻するように死角から幾度も生命を断ちうる打撃を容赦なく放つ。


身体の中心が崩壊するような痛みを伴うそれらを受けながら、無けなしの意識を震わせて振り向きざまに拳を、脚を、反射的に必死に投げ出すように振り返す。


しかし無残にも力なく空を切るその全てを以て、跳ね飛ばされるように

受けた打撃のベクトルに向かい空中を彷徨いながら、連鎖的に繋がれた死の線上を往来し、傍目から見るにそれは文字通りの手玉に陥っていた。


どれだけの時間が経過したのか。


どれだけの攻撃を耐え忍んだのか。


長く及んだように感じる。


一息の間に行われたようにも感じる。


口を開く気力もない青年は、柄にもなく人前で弱音を呟いた。


「……っ。」


ごく微かな声量で、短く囁いたその言葉にはまだ眠りきれない忸怩たる意志の波動が宿っていた。


『らしくない。とでも言ったものか。擬似的に創り出した最善を自動的に選別する機能(プログラム)も判別の基準がまともじゃなくなってるようだね。つまらない仮定の話は嫌いだけど…もし勝算がキミにあるとすれば、残された選択肢を一つ一つ着実に実行に移すべきだと言えるだろうね。』


「そうだな。これが最期になる気がする。……少し、試したくなった。今から行う総てを持ってアンタを地に伏せられるかどうか。」


両手にて発動したその能力はありったけの力を込め、圧縮させた虚火。

無色透明な火の粉の本質は、存在を消滅に追いやるまで滾ることをやめない。

瞬発的に拡散し、直ちに空間一帯に無造作に開け放たれたそれらは害悪を超えて凶悪な代物に成り代わる。


「おのれぇぇええええ、、、小癪な……っあぁぁああああああ」


身につけていた戦闘着、皮膚がみるみる焼け焦げていく。

がしかし、容赦を知らぬ地を焦がすその炎は途端、消失した。


『なーんちゃって。虚火は君の専売特許だが、履行に関する方程式を組み上げたのはこの僕だ。いくらボクの根源を無造作に割けるからって、その浪費(むだうち)は回収に要する時間と比較して、なかなかに高くつく』


「消し去ったわけじゃねぇ…よな。身に降りかかる能力(ひのこ)を無効化したのか。なんでもありってわけかよ。」


『権能:重』


『あらゆる魔術的効果を、強制的に上書きする原初の力。神の名を冠する者のみが使用を赦された無二の特権。それがこの特別な選ばれし始まりの権能の力だ。』


(ここだ……綻びを生む僅かな点のように小さな可能性。全てが、俺の思う通りに運べば勝機はある。)


ニヤリと、ただ静かに口元を上げた。

そこには熟考を重ねた、先般の結果を創り出す算段があった。

微かでもゼロではない、そこには総てを掛ける価値があるかもしれないと男は感じていた。


『ここにきて、よもや……。漸く余裕が出てきたのかな。代行者くん。それとも、ただのブラフかなー?』


「埋め込まれた宿業とも云うべき、アンタの施した細工にはもう期待してねぇよ。どうせさっきの始まりの権能とやらですぐに掻き消されちまうんだ。」


(…回復に要した時間のズレに劇的な変化はこの戦闘中に感じられなかった。とすると、ジジイの施した仮不死の加護の効果がまだ生きていて、発動に至るほどの致命傷を喰らっちゃいないと推測するのが唯一のポジティブな点か。)


(たださっきからのクソガキは殺意を確実に感じる攻撃を放っている。他者の痛覚、恐怖の感度を上げてるのか…?殺す気はなく、あくまで平伏させるのが目的だと仮定すると大筋の辻褄は合うか?…)


理論の構築を最大限の注意を払い組み上げる最中で、あたかも時間稼ぎのようにミスリードを誘った。


「ところでよ、そのガキを容器として現界したオマエが、どうして一思いに俺を殺さないのか不思議でならないな。本来の力を発揮出来ずにおめおめと、この世界の支配者から爪弾きにされちまうかもしれないってのに。」


一呼吸を躊躇って、前髪を直しながら少女は語る。


『ふーん、代行者くんにしては鋭いじゃん。次元の壁を自由に闊歩出来るのは、特権ではなく、あくまでもその世界に足を踏み入れる渡航許可の権利を獲得しているからだ、よほど忌まれるような間柄の相手が支配者として君臨しない限りは僕らのような部外者でも簡単に立ち入ることを赦される。』


この間水面下にて、認識できない脅威の襲来は、予想だにしない速度で押し寄せていた。それをこの情報の遮断された結界の中で知ることはない。そこにこそ、彼の勝敗を決する不確定な可能性があった。


『ところでさ常々、ボクが思っていることがあるんだけど聞いてくれる?…人間というのは実にユニークだよね。目の前の欲望を満たすために平気で今大事にしなければいけないものを犠牲にしてしまう。生物の遺伝子単位に刻まれた悪癖とでも言うのかな?どんな過酷な状況であろうと、すぐに自分にとって都合の良い解釈を求めたがる。そういうところがさ────』


『ボクって、心底キライなんだよね~』


満面の笑みで全能の存在は雄弁にその台詞を吐き捨てた。


「……何が言いたい?」


『このお話の詰まるところは、君がいちばん今まさに痛感しているはずじゃないの?自分がかつて、何者だったのか。嘆かわしいかな、今のキミは、人間というものの本質に魂が引っ張られてるよ。』


「そうか?俺からしたら、お前の方こそ、およそご立派な完全たりうる生物だとしても、君臨者としての定義が歪んじまってる気がするぜ」


『代行者君はまだまだ、何も。理解できないでいる。いいかい?君臨者が所有する特権は、自身が例外なく絶対であることを知らしめることに他ならない。僕の決めた制約に従って君を含む遍く生命は定められた自由(うんめい)を全うできる。』


爆散した後に消えかかった虚火は、消し去るべき対象ではなく霧の中に張り巡らされた結界に向けて放ったものであった。


自動化された術式は、炎の影響を受けて脆弱になった箇所を自律的に強固にするように組み込まれていたが、概念を焼却するという性質の速度が結界再生の速度を僅かに上回っていた。注意を凝らさなければ気が付かない程に僅かながら、結界の瓦解を待ちわびた彼に勝利の風向きがほんの少し傾いた。


『んー?調子が良くないなぁ。』


「ベラベラと喋りすぎたな、バーカ。俺は元から、高位結界の術式という概念を焼き払ってたんだよ。術式の組成は簡易的にあしらった突貫工事だってことは、モロバレだぜ?再展開する時間までに余裕で霧を突破できる、根源をお前から毟りとった満タン(フル)の状態の今ならな」


両足に力の全てを込めて真後ろに跳躍し、濃霧を抜けんとした瞬時、天空に青白い稲光が走り始めた。


「あぁ……間一髪ってやつか。いつもはクソの頼りにもならない、まぐれの千里眼が今回ばかりは上手く噛み合った。」


本来、認識阻害の効果を持った、擬似的な固有空間の中央に、まるで忌むべき存在を葬り去るが如き一撃が天から堕ち、同等以上の防御力を持った術式が、ついぞその消耗しかけた効果の尽くが打ち消され霧は瞬く間に消え去った。


音より早く脳天に降り注いだ閃光に、意識が辿り着いた時に、想像の域を超えないといった平然とした、およそ全能なる者は状況を分析していた。


『んー?おかしいね、ボクってば計算ミス?幾度のトライアンドエラーを繰り返したって言うのに……存外大事な時にポカやっちゃうんだよねぇ。』


青年の逃げ去った方向を一瞥し、続ける。


『まったく…ボクから逃げたって無駄な事くらい知っているだろうに。まだキミの手の内だったらさっきの状況から盤面を好状況に返す手はあと5万通りは存在してたはずだ。』


一時的な退避は、次元の壁を越えられる者にとって些末な、取るに足らない、ごく容易な宝探しに近しい。


そしてさほど興味もない様子で、稲光のはれた宙に佇む者を見上げて口を開いた。


『ところで、君は誰?ボクの知らない顔だけど…その特別な権能は一体誰の差し金かな?魔術師風情。』


× × ×




厄介払いはごめんだと。

いつも、そう心の中では思っていた。

行き着く結末に、大した違いを求めている訳じゃない。


ただ、自らも1人の個人である以上は

当たり前の道を歩きたいと。そう願った。

苦労を知ることは、もう沢山だ。


「目の当たりにしてしまったか。お前の内に眠る強大な呪いを。」


突如として打ち明けられた、自身の出生に関わる一族の呪いを、その身一つで抱え込むには彼はあまりに若すぎた。


「……試練が不条理に押し寄せてくる世界、全てを押しのけて道理と成す。」


決して(はいぼく)は許されぬ因果。


その覚悟を四肢に、魂に刻み、何者より強く強く、ただ強くありたいと願った男の身体は都合600万の人々が集まる都の中で何者よりも酷く堅牢であった。




「さて……根比べといこうか。」




雷鳴轟く城壁近い荒野では、いや、かつて森の様相を呈していたはずの荒地は幾許かの草木を除き網羅的に地面の表層がめくれ上がり岩肌の切り立った無惨な状態と変貌していた。


屍も戦慄を覚えるほどの、想像を絶する電力で撃ち抜かれたその身体は爆散の後、およそ6秒程度のカウントで時が逆巻くように散らばった肉片が核となる臓器に吸われるように元に戻る。


歪な光景に似つかわしい夕闇が、晴空を紫炎色に染め上げて完全に近い不死身の肉体に奇妙な力を与えてるようにも見えた。


「もっとだ。そんなものではないだろう。」


雷撃を放つまでの充填に要する時間は、およそ20秒程度、再生の速度(サイクル)の優位性を盾にして、相手の魔力の底が尽きることを期待した所謂ゾンビ戦法はこの場合概ね有効な判断といえる。


ただ一般的な視点からいえば、このゾンビ戦法がとれるのは、前提として術者の魔力消費の限界を想定し、且つ苛烈な攻撃を受けて幾度となく立ち上がる常軌を逸した精神構造をもってすればの話。


不死体質は、死という現象すらも感覚として蘇生後に定着し続けるものである。


死を自身の中に修めることは、到底叶うものでは無い。幾度繰り返そうと、直面する死への恐怖の度合いに変化がある訳では無い。苦痛は常に蓄積され続け、こびり着くように蘇る死の瞬間の記憶が性懲りも無く手足の自由を奪うものだ。


そこには慣れなど介在しない、押し寄せる新鮮な悄然の余波に打ち勝つには、並大抵の覚悟では成し遂げ得ない不変の強さが求められる。


『……。つまらないわ。このくだらない意地の張り合い。』


権能の発動のため振りかざそうとした左腕を、そっと降ろし巨獣の頭上から騎士を見下ろし苛立ちを見せた魔術師。


『ねぇ、あなた。潔く負けを認めなさい。このまま続けてあげてもいいのだけど───』


終わりの見えない戦闘に、継続の意味を見いだせなくなった魔術師は次の目標へと向けて動き出そうとした。


「……ここに活路あり」


巨獣の前足が地面から離れかけた途端、空を駆る様に飛来した2本の大剣が魔術師の胸部背面と魔獣の眉間を貫いた。


動きをやめ、巨体はその場に時間をかけて崩れる。女は貫通した大剣を身体から引き抜こうとするが、まるで磔にでもされたかのように身動きが制限された。


「捕獲完了……。」


『空間支配の呪縛か。とく不思議な特性を持っているらしいわね?この剣はあなたの所有物かしら。』


真っ赤な血潮に塗れながら、宙に突き刺さった魔術師は問う。如何様な原理で成り立っているのかを、その青白く発光する特異な眼で見定めようとするが、呪縛とよばれる環境に干渉する力には不可解な点が残留した。


「災厄の強者よ、今しがたは楔の贄となれ。じきに裁きが下る。それまでの間、自身の罪でも数えておけ。」


鞘のない長剣と、巨獣の遺骸に突き刺さった大剣を背に抱え重苦しい表情のダールトンは、テスラを捜索すべく平原に向かい足を動かした。


×××


同刻


─裁定の王槍にて─


管制室からの一報をうけ、最上階層に位置する緊急対策本部(オペレーションルーム)には有識者が招集され予測される被害規模や対策について議論が開始されようとしていた。


ザワつく空気の中で、取り沙汰されようとしているのは防壁にほど近い箇所での征伐対象の突発的な出現(ポップ)


さしあたって十三騎士主導の、作戦立案と指揮系統の確立を早急に支援するよう王城関係者からの依頼がありそれを受け事態を重く見た王槍の管理人ザッカルースは、会合の口火を落とす。


「件の事象の観測から1時間が経過した、観測は現在も滞りなく記録を継続しているが、やはり調査班を中心とした君たちの意見書通り世界各地で異質な事柄が発生しつつある。」


「結論から言わせてもらうと、この急転により予想される被害規模は当国の貨幣価値に換算しておよそ6兆ほど…既に荒らされた軛の森林区画の整備再建はほんの氷山の一角に過ぎないということじゃが…。征伐の対象とされる巨大な魔力の出現はやはり国政の面からも看過できるものではなく、我々にとって優先順位を変更してでも急いで対処せざるを得ないというのが当面の方針である。」


ザッカルースの異論のあるものはという声に、その場の者達は皆口を揃えて賛同をした。


「では、これより十三騎士もとより十二騎士主導の作戦指揮の補佐にとりかかる。既に小規模の災害が発生している近隣国の当該地域には当国から総勢6000名を超える連隊が派兵されたとの事だが取り組みの進捗はどうなっている?」


この問いにいち早く、声を上げたのは赤い髪がチャームポイントの軍事諜報部門 副管理者シスコ・レヨールであった。


「えーっとー、派兵された?数の半数が現地調査を開始?していてー、いい感じに事態収束に向かってるとか向かってないとかー?らしいでーす。細かいことはー、この場にいないうちの上司に聞いて下さーい」


間の抜けるようなシスコの話し方に、またヤツはサボっているのかと憤りを感じている暇もなく、ザッカルースは次の部門担当者へと矢継ぎ早に訊ねた。


「──つまり、征伐対象の制圧にかかる必要戦力を数値化して十二騎士の中から部隊編成を割り当てていくのがよいだろうが、現状は発生の兆候が各所で発生しており、対処に当たれる数に限りがあるということで間違いないか。」


「はい、しかしながら。今回の騒動は異質な点も多く究明にお時間を頂戴しそうでして…」


「というと?」


「はい、軛の周辺では明らかに征伐対象と異なる巨大な魔力の先触れが複数箇所で集中的に観測されています。これはいずれも所謂、厄災級の魔力量であることが現在判明している事実であります。そのうちのひとつが───」


「元十三騎士の英傑ダールトンの持ちうる、双大剣イヴァンドか。長らくこちらでも識確されていなかった呪いの宝剣を引っ張り出すとはな…。これから何が起ころうとしているのか。」


「あのぅー。」


独り言ともとれるザッカルースの考察に被せるように、シスコは声を上げる。


「どうした?」


「いえ、杞憂であればいいんですけどー。大規模な兵力を割いての作戦って、もしかしてー?オーラムから戦力を削るための?何者かの意図した謀略なんじゃないですかー?そうと仮定した場合、このまま作戦指揮をとってのさらなる戦力の分散は、仮想される敵勢力の思うツボ的な?」


「ふむ…だとしても、我々にはこの世界の観測と守護が最も優先されるべきことに変わりはない。」


滞留する問題に、頭をいくつ抱えれば良いのかは知る術もなく、時刻は破滅の序章を迎えようと迫っていた。


× × ×

久々の投稿です。いつになったら第一章が始まるのか結局私にも分かりません(投げやり)

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