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異世界に転生してきたやつ全員ブチ〇す  作者: 今夜が山田
序章 招かれざる客
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第15話 始まりの終わり




殺される。



確実に殺される。



そんな確信が脳裏をよぎった頃には、もうアーサーの身体は生命を長時間維持させるだけの機能を持ち合わせていなかった。


周囲に立ち込める深い霧の広がりはもう果てのない距離に感じるほど、精神が朦朧としている。


僅かな期待などは、次元の異なる戦闘力を有した存在の前には風の前の塵に同じだということを身をもって体感していたアーサーはこの時、生に縋るという気持ちよりも、反旗を翻すという行動に信念を抱いていた。


全身を引き裂くような苦痛に悶えながら、アーサーは未だに、ただ1つの答えを変更しようとはしなかった。


『───君をそこまで駆り立てるものは、一体なんだ?自由か。名声か。それとも……』


×××


ただ、この場に立ち尽くす。


それは、怒りか。哀しみか。


強く振動する心に身体がうまく答えてくれない。


戦闘着(バトルドレス)のエネルギーの変換フィルターは最大の力まで効率を高めて、無意識下にあったとめどない感情を、ある1つの能力の発動へと誘おうとしていたが──


『……わ、私は、俺は、君は、ボク……は───』


溢れる想いの強さに、能力の発動以前に徐々に自我の崩壊が始まる。


『───……。』


刹那に、まるで初めてその身体の動かし方を知り試すように関節の可動領域や手足の反応速度を確かめる別人とも思えるテスラは、口調を変えて淡々と分析結果を声に出す。


『ふぅ……結合、いや移行がなんとか完了したか。容器にしてはなんとも言えない完成度ではあるが…まぁそこはそれ。及第点としよう』


テスラは獣の群がるその場所を一瞥(いちべつ)して、一言だけその場に残し森林の入口へとゆっくり歩み始めた。


『ただの人間の魂は、波動が微弱すぎて僕には判別がつかないんだけどさ。君はちょっとばかり特別な波動をしているから分かるよ。元々手を貸すつもりもないけど、その程度じゃくたばらないんだろ?』


テスラがその場から立ち去って数分後、肉を貪る獣はあることに気がついた。


もうとっくに骨だけになっていてもおかしくないはずの人間が、未だに意識を保ち時間をかけて挙動し始めていることに。


「底なしの欲望というのは、生物を破滅に追い込むものだ。」


死骸同然の……辛うじて人の形を保っていたその肉塊は確かに声帯を震わして、人の言葉を発した。


「...不死とは時に、摂理の対にありながら生を最も感じる事のできる瞬きである。」


「だからといって、」


強力な力を帯びた衝撃波が群れの中心から放たれ、獣の群衆はひとたまりもない奔流に為す術なく吹き飛ばされた。

血なまぐさい香りを纏いながらゆっくりと身体を起こした大柄の騎士は、巻き上がった土埃を払うように背負っていた長剣を一度(ひとたび)凪いだ。

酷く損耗していた五体はみるみるうちに傷が塞がっていき、その双眸は心做しか先程に増して殺意を感じるように見えた。


「一網打尽とはいかなかったが、手間を省くことはできただろう。」


なおも臆さずに集結してくる無尽蔵とも思える獣の数に、微かな異質さを感じ取ったダールトンは後退しながら、勢いよく向かってくるそれらを刹那的に素手で穿ち続ける。白さの代名詞ともいえた外套はいつの間にか返り血によって紅く染まっていた。


「さっきの自己蘇生...いや不死の特性か。加えてあの鏖殺ぶり……本当に人間かよ……」


それから間隔を落とさずに攻撃と回避を繰り出し続けるダールトンは疲労という言葉を忘れたかのように運動量が一定を保ち、あまつさえ加速しているようにも見えた。


テスラはというと先程の様子とはうって変わり、より慎重に様々な能力を確かめるように満遍なく使い回し、恣意的な偏りのない洗練された戦闘となっている。


そして俺はそれを安全な場所で傍観し、皮肉めいた声援を送ることで余裕のある態度を取ることだけに徹していた。


するとダールトンは、樹木が密集し路地ともいえない細い林道辺りにまで移動し敵を一方向から引き付け、限られた空間からせり出す獣を順序よく掃討する作戦に出た。


そこで、あるものを発見する。


「これは……?」


一方的な屠殺に、生物の本能としての恐怖を感じ始めた獣が尻込みをしている刹那の隙に目の端に、恐らくは人の手で作成されたと思しき(トラップ)が自然と同化する形で配置されていた。


罠はいわゆるトラバサミのような形状のもので、捕らえた獲物をその場から離さぬよう縛り付ける役目を持っていたが、それが獣にのみ嗅ぎ分けることのできる臭気を発し寄せつけない、つまりは対人用の罠であるということに気がついた時、既に死角に設置されていた別の罠が起動していた。


音を消しながら木々の隙間を縫うように、打ち出された亜音速気味の一矢。

鏃には大型の生物をも即座に臨終させるだけの致死性を持った毒物がふんだんに塗られていた。


そう、そこはまさに罠を避ければ……というより、いずれかの仕掛けられた精密な間隔で設置された罠を1度でも起動すると、それを避けざるをえない限られた安全な範囲に常に別の罠が敷設された、非道なまでの悪手極まりない悪辣な恣意の込められた代物であった。


「くっ……性根の腐り切った者の所業か…!」


人のみが持ち得る明確な憎しみや怒りのこもった罠の連鎖には悪意が満ちていた。

止むことのない何者かによる怒涛の応酬に対し、体勢を整えるために紙一重で飛散するものを避けながら大きく後方へと跳躍する。

死角を取られぬようにと、安全を予見した罠の気配を感じない窪みを発見したダールトンは身体を素早く捻りながら目標地点へと到達する。

息を大きく吸い込み、企てに関する仮説を冷静に組み立てる。


(ここまでの周到さ、どうやら本気で俺を葬るつもりでいるらしい。獣の増殖も故意的な術者によるものに思えたが、この姑息な仕掛けを企てた者とは質が違う。集団による犯行なのか、それとも...)


不確定要素の多い状況につき判断を下すには些か強引さが必要であった。周囲に注意しながら臨戦体勢を維持しつつ思考を巡らせる、しかしながらその強襲に反応するのには時間を要した。


「ここいらで死んでおけよ。偽物が────」


×××


もうじき日が暮れてくる頃だ。

疲労も蓄積しているだろうに、一切の休息も挟まずに掃討を継続している2人に対してひと息つくようにと思い立ち森林へと歩み始めるアーサー。

達成条件としての戦果はもう充分なはず、日を改めることも提案しようと考えつつ近づいていくとテスラの戦いぶりに異様な雰囲気を感じる。


(なんだ...この違和感。やけに行動に迷いが無くなったな)


『どうしたんだ?そんな訝しげな顔をして。』


頬に着いた返り血を手の甲で拭いながら、首をゆっくりとひねりこちらの表情を伺う。


「気分が乗ってるとこ水を差すようでアレだが、一度休息をとれよ。もう成果は充分なんだ。あんまり意地なって続けることないぜ。奥にいるダーさんも呼んできてくれよ、長期戦に必要なのは定期的な補給だ。」


『あぁ、そうか。わかったよ。』


テスラは言い終えた後に、アーサーへと近づいた。

足取りは軽やかで、疲れを感じさせないがその姿とは対照的に無感情な顔色に不気味さを覚える。対面に立ち尽くし、曇りのない眼差しでアーサーを見つめるとそれを疑問に感じたアーサーはテスラに言葉を発する。


「なんだ?言いたいことでもあるのか?」


次の瞬間、アーサーは宙を舞っていた。

咄嗟の事に理解が追いつかないが、とにかく着地の体勢を取らなければと上体を反転させて落下の衝撃に身構える。

その様子を眺めていたテスラは、誰にも届かない声で一言呟いた。


『さあ、お仕置きの時間だ。』


本来、(スキル)を行使するために必要なはずの詠唱や符号を無視して強制的に『怪力』を発動し空中でもがくアーサーへ急速に接近。そのまま背にめがけて渾身の一撃を見舞う。


「がはッ………」


直撃後、地面に叩きつけられたアーサーは再度天高く跳ね返りそこを間髪入れずに大きく振りかぶった蹴りで終わらせようと目論んだ。

体勢が大きく崩れたアーサーに対しタイミングが完璧な二撃目も有無を言わさず決まるかに思えたが、寸でのところで手足を固めて防御していたのが不幸中の幸いとなり朦朧とした意識の中、対象との距離をとる事に成功する。


「クソっ。痛えなぁ...急に何しやがる...」


全身から噴出する汗は、眼前の脅威に対する対抗策のない不安を投影していた。


『軽い運動...という返答では不満かい?代行者くん。』


手首を回しながら挑発する余裕ぶった態度、そして何よりその憎たらしい口ぶりを耳にしてようやく違和感の正体を確信した。


「おいおいおいおい...悪い冗談はよしてくれよ...。クソガキ。」


『久しぶりの再開じゃないか。もっと嬉しそうな顔をしてもいいのに。』


「問答無用で殺されかけて嬉しそうにできるかこの野郎...」


『それは、これから口にする事を素直に聞き入れてもらえなさそうだったからさぁ。僕もこう見えて忙しいんだよ?与えられた時間は有効に使わなきゃね。』


×××


類推するに、その気配の遮断は身に覚えがあった。

ものや生物を覆い隠すのに適した素材で、表社会には滅多に流通することの無い〃聖骸布(リンカーネーション)〃と呼ばれるもの。

人間が纏えば、心臓の鼓動や息づかい、体温などの存在そのものを無とすることの出来る有益で非常に高価な代物。

ただの賊では入手困難な品でも、あるいは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ならば話は別だ。


ブンッと力任せに振り下ろした大剣は、無残にも空を切る。

着実に計画したはずだった罠の数々といい、いよいよあとがなくなった暗殺者は滲み出る焦りを抑えきれずにいた。


「お前の名は...確かセゲルとかいったな。そんなにも俺の存在が目障りだったとは。」


「クソがあああ!!!クソっクソっクソぉぉおおおお!!!!!!」


冷静さを失った自称剣聖セゲルは、頭に血が上った様子で幾度も大剣をダールトンに対して掻き払う。正気ではない勢い任せの連撃を躱すことはもはや元十三騎士には容易であった。


「無駄だ。やめておけ。」


「俺に恥かかせやがってぇぇえ!!!!!てめぇごときこの俺がぶっ殺して晒しあげてやるッ」


猛攻は虚しく、セゲルは体力を消耗するばかりであった。

このままでは埒が明かないと気が付き、大剣を地面に突き立てて必殺の戦技の構えをとる。


「もうこの際何だっていい...てめぇを殺せりゃ何だっていいんだ。それに賛同してくれる協力者の助力も得たんだ。」


セゲルの身体から湧き上がる混沌としたドス黒い波動。

たとえ人の身を捨てようと目の前の仇敵を討ち取ることに全霊を捧げた邪悪な力は、みるみるうちに増幅し辺りの植物を腐らせた。


「魔剣の類か...このままでは森林に大きな被害をもたらすことは明白。ならばやむなし、こちらも手を抜いて済む相手ではない。」


背負っていた長剣を抜き、覆っていた包帯を強引に取り去った。

そして静かに、詠唱を始める───


「天明と慧眼、戦傷は幾多の(とばり)にて覆い、満ちたる者の傍らでその災禍の悉くを祓いたまえ。」


錆び付いた長剣の刃が白く輝き、対峙する2つの力が混濁しかけたその瞬間。

セゲルの脳天に一縷の落雷が走った。

突然の事象に反応が遅れ、視界を奪われたダールトンは遠くから接近してくる巨大な何かを聞こえてくる轟音をもって辛うじて認識する。


「何だ...今のは...?」


時をおいて瞼を開くと、眼前にいたセゲルの姿は跡形も無くなっていた。

撃滅の一撃というに相応しいほどの圧倒的なその力に畏れを抱きながら、さらに近付いてくる何かの正体をようやくその目に入れ、そして初めて事態の重大さに気付かされる。


「おいおい......。せめて悪い夢であってくれ。」


その巨大さには身に覚えがあった。

かつて、十三騎士であった時に報告にて資料に記載のあった生態が謎に包まれた存在。〃古の魔獣〃などと称される征伐の対象とされる生物の出現。

そしてその魔獣の上には、使役関係ともいえる風体の人間が君臨していた。


『全く。期待はずれも甚だしい...。虚弱な人間風情が。』



めちゃくちゃ待たせてしまってごめんなさい...

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