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異世界に転生してきたやつ全員ブチ〇す  作者: 今夜が山田
序章 招かれざる客
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第13話 静かなる胎動




───結末は、既に決定づけられている。

それに沿って総ての歯車は回っているのだ。



×××



あれから待つこと約1時間。

安宿の迎賓室の扉はついに開いた。

大衆に紛れても、その男の体格をもってすれば只者ではない事が直感的に伝わるほどの存在感。


道中この天候にも関わらず、羽織っていた白いフード付きの外套(がいとう)は撥水性が高いようで大雨をものともしていない様子だった。


「遅くなってすまなかった。首の皮一枚繋がったというところだが、これで(ようや)く…自身の罪と向き合う事が出来る。」


その表情には、余裕がないようにも見えたが責任感の強いダールトンならではの、確かなる意思の現れでもあった。


『その…剣は……』


騎士というよりは、剣士という形容が当てはまりそうな背中の長剣。

全容は包帯で幾重にも巻かれ視認できなかったが、異質な、騎士には似つかわしくない悄然(しょうぜん)とした重い雰囲気を発していた。


「あぁ、これか。まぁ御守りのようなものだ。番である(さや)も失い剣としての機能も持たない(なまくら)だが、丸腰よりは幾分かマシだろう。」


テスラの発言を制止するように、ダールトンは端的にその剣の状態を紹介した。


「なるほど、そういうワケか。」


不気味に微笑んだアーサーはこう続けた。


流石(さすが)だなダールトン。俺の意向を汲み取り、すぐに行動に移すとは。」


『アーサーの意向?』


「さっきも話したろ?特異な力を封じる呪いが、俺とダールトンにかけられていると、その呪いを解呪するための所在をダールトンは既に発見している。」


(うなず)くこともなくダールトンは依然として沈黙を貫く。


「そして、その場所へ行くための最短の経路と交通手段を(かんが)みた結果、必要な資金の調達のために、これまでの存在の証ともいえる鎧や武器を売り払った。過去にケリを付けるためにな、そうだろ?」


アーサーの思惑はダールトンの考えとは異なる、あらぬ方向に展開していた。


「確かに、呪いを浄化する事のできる神殿の情報は手に入れた。しかし旅路に必要な費用や物資の捻出など寝耳に水だぞ。」


ダールトンへ向けた期待値が減少する様子が、アーサーのシワシワな顔から伝わってきた。


「そも、あれらは国から貸与されていた品だ。返却の義務というものがあるし、我々は国内での生活に金銭は使用しない。勲章をかざせば、(ほとん)どの施設は無料で利用することが可能だからな。」


「特権階級エグいな……無銭飲食(くいにげ)しまくりって事じゃねぇか。」


『だからこそ品性が問われるってことでしょ……まったく…』


呆れた仕草をするテスラは、すかさずダールトンへ問いかけた。


『呪いを浄化することができる、神殿の詳細な位置は分かりますか?ダールトンさん。』


「あぁ、オーラムより西方に約600kmといったところか。元帝国領である"無垢なる山脈(サナリス)"の最高峰にそびえ立つ、通称 神殿と呼ばれる建造物、神聖領域圏『シリウス』」


ダールトンの言葉を聞き顔色を変えるアーサー。


「山脈っていったか……?しかも、ここから600kmの地続き……??」


軽微な戦慄(せんりつ)を覚えるアーサーに皮肉めいて、ダールトンはさらなる追撃を加える。


「その軟弱そうな足腰を鍛えるには、丁度いいかもしれんなアーサー。」


×××


「なんだ、貴様は。」


王都、迎合区画の一角にある木造の建物の屋内に一行はいた。

突然肩を掴まれ、自身を侮辱する発言にダールトンは苛立(いらだ)っていた。


「あ?聞こえなかったか?なら、もう一度言ってやるよ。失せやがれ偽者(パチモン)が。」


周囲からは、怒号にも聞こえるガヤが飛び交っていた。

先程まで自らが率いる集団(パーティ)の中で、過去の武勇伝を押し付けがましく披露していた中年冒険者は、たまたま耳に入ったダールトンの言葉が気に食わなかった。


「受付嬢ちゃん、こんな見るからに怪しい野郎の言うことなんざ信用するなよ。ただでさえその肩書きを悪用する輩が王都でも横行してるってのに。」


腰くらいの高さがある木製のカウンター越しには、薄手の白シャツにショルダーベルトが特徴的な茶色のタイトスカートを着用した、黒髪の受付嬢と呼ばれる娘がいた。


「け、喧嘩はよくないデスよ…。冒険者さん同士、仲良くするデスよ…!」


温厚な性格の受付嬢は、その場を(しず)めようとした。

だがその発言がさらなる燃料となり舌戦を加速させる。


「いや、こいつは冒険者じゃない。元十三騎士を騙る詐欺(ペテン)野郎だ。」


すると、口を挟まずにはいられなくなった様子のテスラが割り込んだ。


『さっきから、なんなのよオッサン!あんたに用はないの、部外者が首突っ込んできて何様よ!!』


「おいおい、ガキ。この襟元(えりもと)の討伐証と階級(ランク)バッジが見えねえのか?」


『自分が手練(てだれ)の冒険者だとでも言いたいわけ?』


「全く…これだから新参は…。この冒険者ギルドでこの俺、剣聖セゲルより強いやつは4人しかいない。つまり俺の許可無くして冒険者として活動するなんて許されねえってことだよ。」


傲慢で底意地の悪さが見て取れる中年冒険者セゲル。

自らを剣聖と名乗る不遜(ふそん)さに耐えながら、ダールトンはあるものをカウンター上に置いた。


「これでも信じてもらえないだろうか、受付嬢さん。」


「これは…?」


「国王陛下から直々に頂いた逸品『聖銀の腕輪』だ。一流の鍛冶職人でも加工の難しいシスティムエグナの鉱山から採掘された純度の高い銀を惜しみなく使った代物、内側にある刻印にも元第四席である俺の名と王国の紋章が見て取れるはずだ。」


カウンターに出した腕輪をおもむろに手に取り、鑑定まがいに品定めを始めるセゲル。


「……ほう。こいつは……。」


後方から傍観していたアーサーは、内心でよくない事が起きそうな予感をしていた。


(こんな小汚いオッサンに、品隲(ひんしつ)が適うとは思えねぇがなぁ…。)


ひとしきり照覧した後に、セゲルは言葉を並べ立てた。


「こりぁ……酷い品だ。オレは最初からお前の言うことが、ハッタリだと見抜いていたがこんな粗末なモンをシスティムエグナの純銀だと名状するとは、馬鹿にも程があるぞ?」


「こいつは俺が証拠として預かっておく。お前が他所(よそ)でも同じような真似をして、善良な市民の心を(もてあそ)ぶことが無いようにな!」


腕輪を自らの(ふところ)に入れようとした右腕を、ダールトンは力を込めて掴んだ。


「二度は言わない。それを今すぐ返せ。」


国の至宝ともいえる強さを誇る存在の、圧倒的な程の鬼気迫る表情にセゲルは一瞬たじろいだ。


「な、なんだ。このギルドの屋内での戦闘行為は御法度だぞ?!それにお前、この剣聖たるセゲルの行動に異を唱えるってのか?」


『だからって、アンタのやろうとしてる事は明らかな窃盗行為でしょ!まずは大人しくその腕輪を返しなさいよ!』


(あーあ、やっぱりゴタゴタは回避できねぇか。まぁ金を稼ぐには、他にも色々と手段はあるだろうし別にいいか。)


その状況を見かねた受付嬢は、たまらず緊急時に鳴らすようにと、ギルドマスターから言いつけられている手鐘(ハンドベル)をカウンター裏から取り出し力いっぱいに響かせた。


───ゴォーン……


鐘の重低音がギルド内の人間の耳に届くと同時に、全員がその場でピタリと硬直(スタン)した。

すると階段上の二階大扉が開き、これといって見た目に特徴のない痩身(そうしん)の青年が出てきた。


「さてと……えー皆様、いつも当ギルドをご利用頂きありがとうございます。私の姿を見たことの無い方もいらっしゃると思いますので、まずはご挨拶からさせて頂きます。」


青年は癖毛の頭部を掻きながら、気だるそうに挨拶を始めた。


「私の名は、ジブネイル。当ギルドのマスターとして施設の管理を担当しております。」


「さてと……えー、ご挨拶も程々に本題に入らせて頂きましょうかね。当ギルドの屋内での違反行為は、王国の法令とは別に独自の制約(ルール)(ペナルティ)を設けさせて頂いております。」


「その旨は皆さんが当ギルドに登録していただく際の契約書に記載のある内容ですから、勿論ご理解頂けているとは思いますが……万が一、当ギルドの制約を守ることのできない方が現れた場合。皆様を今縛り付けている鐘の使用を受付嬢に教育しております。」


「さて、何があったのか。私の能力を使ってこれより検証致しましょう。違反者には相応の私刑が下ることはご承知下さい。」


ギルドマスター、ジブネイルは緊急時における決まり切った説明を終えると、()()()()()()()の詠唱を始めた。


「円環に(まつ)り立てる、(くさび)となりし大いなる大罪よ。死の深淵に伏する失われた堕落を依代(よりしろ)に、澄むこと無き永劫の(よど)みをその身に纏い(たま)え。」


「───破戒眼(フォルテ)。」


唱え終わると、ジブネイルの黒い瞳は浅葱色に発光し数秒をかけて件の発端と原因についての解析を終了した。


「なるほど、銀階級(シルバーランク)のセゲルさん。あなたは過去にも同様の騒動を2度起こしていますよね。新人狩りとは、斯様(かよう)にあなたの自尊心を潤わせるものでしょうか?」


(身体の動きを強制的に固定させる魔法の道具に、()()()の古代魔法ってところか。凡百のなりにしちゃ、結構な使い手じゃねぇか。)


「ち……違う。俺は、こいつがあの十三騎士を騙る詐欺師だと思い、皆を……そうだギルドを救うために行った正当性のある行為だ!」


額に汗を滲ませながら、セゲルは必死に自己弁護をした。


「先日昇級審査を通過し万能感に浸るのも結構ですが、あなたがいくら強かろうと、ここに所属する以上は、一介の冒険者であるに過ぎないのです。新人さんのギルドへの登録の面談は私の役割であることをお忘れなきよう。今後は一層身の程を弁えて下さい。」


セゲルの軽い舌打ちが聞こえたが、それには触れることなくジブネイルは話を続けた。


「今回は、怪我人もいなかったということで未然に違反行為を防ぐことが出来ました。皆さん、今後も冒険者同士仲良くやっていきましょうね。」


そう告げ終わると、1つ指を勢いよく鳴らしその直後に身体の硬直は解除された。

一斉にざわめき出すギルド内の中で、ジブネイルはアイコンタクトで一同を二階の大扉の中へ呼びつけた。


梅雨入りしましたが、体調崩されないように皆様お気をつけ下さいね

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