第12話 決断
いやー、まじで序章いつまで続くんだって感じですよね……。
ほんとすみません(汗)
───数日後。
オーラムの天候は、珍しい雨模様だった。
空は厚い雨雲に覆われ、しばらくの間、近隣の大規模河川の氾濫など水害に関する注意報が発令されている。
そんな中、迎合の区画で最も料金の安い湿った宿場の迎賓室でアーサーとテスラの2人は、何者かがやって来るのを待ち続けていた。
「ごまんといる王都の守り人、その中核を成すのは王立国軍が有志たち。その幾千の上に君臨する十三の騎士はそれぞれが特異な力を持つとされる。」
『特異な力……。』
「あぁ、だが。あの時確認を取った通り、奴も俺と同様に亡霊と名乗る魔術師風情に呪いをかけられた。」
「呪いの効果は付与した対象の特異な力を封じるものと思われる。言うまでもないが、力が封じられた状態では、満足に闘うことはままならない。」
『一先ずの目的は、アーサーとダールトンさんの呪いを解くこと。でもその後はどうするの?』
「分からん。この世界に来てから分からん事だらけだ。だが、亡霊を後ろ盾している連中が存在するのは確かだ。奴の力は理の外側にあるような領域のもの。それらを放っておけば、奴の口にしていたように王都の陥落はおろか、惑星そのものの存亡すらも危ぶまれる。」
テスラは、自らが母から聞いていた事を思い出していた。この星が滅ぶということは、故郷の消滅を意味する。
件の危機を排斥することは、自身にとっても重要であることを再認識した。
「ところで、テスラ。ぶっちゃけお前の強さってどれくらいだ?」
『どれくらい……って聞かれてもなぁ、私そんなに戦闘経験が多いわけでもないから、分からないよ。』
「俺とダールトンの戦力は軒並み平凡以下と考えていい、もし全力を出した時のお前の力が亡霊に手こずるようなら、相応の戦略を練っておく必要もある。」
テスラは、ひとしきり黙り込んだ後1つの自分なりの回答を出した。
『私の持つ力を全て出し切れば、倒せない相手じゃないと思う。けど……今はそれは出来ない。』
「戦うのが怖いのか?なら慣れていくしかないか……。方針については、3人集まってからもう一度すり合わせしよう。」
テスラは未だ、力を解放する時のあの不快な感覚に慣れずにいた。
『──神様ってさ、そこんとこどうなの。淡々と悪人を裁いたりするイメージあるけど。』
「そこまで神は暇じゃない、だから俺のような雑用係をこうして寄越すんだ。草抜きが終われば、また俺はどこか別の世界へ行く。」
×××
───俺は役割を全うする。
人間の手を借りてまで?
───これが最適解だ。
情報の漏洩によるリスクの増加は?
───俺は……間違ってない。
君は、もう不要な存在だね。
×××
「───貴殿は……一体───」
テスラはこの世界に来る道中、つまり潜行の中で、ある情報に目を通していた。
それは、施設の管制室で出会った1人の研究員が別れ際に投げ渡してきた小さな記録媒体。
首筋にある穴に差し込んで、再生するとそこには未知の研究に関しての論文が膨大に保存されていた。
『えっと……題名は。゛科学的な検証と仮定に基づく特異点と神々の存在の是非゛なんだこれ……旧世代の陳腐な読み物?』
しばらく読み進めていくと、内容は言語の分類に行き着いた。
『゛【原典】と呼ばれるこの書物には、太古に神々が運用していたとされる、言語が記されていた。しかし書物自体の状態が芳しくない為、内容についての解明は困難を極める。゛か、確かにこれは…どれも文字と言うよりは記号にしか見えないね……。』
【心眼】発動の際に、視界に飛び込んで来たのは確かにその時にテスラが見たものに違いなかった。
(原典に記されていたのと同じ言語…)
『あなた……何者?』
目の色を変えたテスラは、もう一度アーサーに向かって問いを発した。
その問いに応じ、ゆっくりとアーサーは口を開いた。
「誉れ高き騎士ダールトン。この建物…裁定の王槍とか言ったかな。確かに立派な構造技術だ。これを設計するだけの王国の技師や建築能力の高さには多大なる敬意を表するよ。」
そう声を出しながら部屋の隅々を検閲するかの如く歩き回り、そして微細な虫を何匹か捕まえて応接用の長机、ダールトンの目前に差し出した。
「虫…?」
「その反応だと、どうやらアンタの思惑では無いらしいな。」
アーサーが右手で虫を潰すと、小さな火花と共に焦げ臭い煙が僅かに漂った。
「こんな高度に位置する階層に窓から虫が入ってくる事は考えにくい。そしてこれは、ご覧の通り人工的に造られた、恐らくは監視用の機工兵器だな。」
『私達には、疑いがかけられてるってこと?』
「あぁ、王国にとって謎多き俺たち異端者へ向けた警戒か……あるいはダールトン。アンタの忠誠を試す類の仕掛けかもしれない。」
「───そうか。そこまでだったか。」
思い当たる節があるような素振りをしたダールトンに対して、まずはとアーサーはテスラへ音の遮断や魔術などの干渉を拒絶する結界の発動を要求した。
『分かった。───EXスキル:不可侵領域』
「ほう…練度は低いが、いい技だ。」
不機嫌そうな表情で、そっぽを向くテスラ。
そして明らかに顔つきが変わったアーサーはこう切り出した。
「さて、本音を少し語ろうか。」
×××
「今回の件での、俺の処分については王国中央議会にて話し合いが執り行われているだろう。当然の帰結だが、この国において騎士とは強さの象徴だ。相手の力量が高いことを把握しきれずその上、何の情報も得られないまま賊を取り逃がした罪は万死に値するもの。」
『予測される事態を、現在の情報を加味して算出すると…王国の政治的な性質上、ダールトンさんは騎士としての階級を剥奪される事は免れないかと。』
「難儀な事だな。俺も奴の戦闘を間近に見たが…相手は確かに強かった。アンタがやられるのも無理はないよ。」
ダールトンは眉間に皺を寄せて、拳を握りしめた。
「不覚だった。相手を完璧に侮っていたんだ。だがその弱いフリを装う演技すらも敵の計略の内と考えるのが妥当だろうな。」
「まあ、憶測の域を出ない限りはあらゆる結果を想定しなければならない。例えば、王国内に国家転覆を謀ろうとする反逆者がいる可能性だってあるし。」
『近隣諸国との関係性としてはどうなのでしょうか。王国と敵対関係にある国や組織の存在、何でも結構ですので教えて頂ければ…』
「王国より東に、ヴェガという名の帝国がある。2年ほど前に帝国は我が国と和平協定を結び、それからは目立った軍閥の動きは無くなったが。その腹の中には何が眠っているのやら…」
『不確定な情報が多い状態では、いかんともし難いですね…。』
「そこで、俺から1つ提案があるんだが、ここからは栄誉の騎士としてではなく、1人の人間として問いたい。」
「その問い…とは。」
「アンタとそして俺がやられた亡霊は、何らかの目的を持った組織的な動きに見えた。単独犯の線は極めて低いと感じる。」
「しかしあれは、ただの先触れに過ぎない。計略がもっと大規模なものだったと仮定したら、今後王国にとって大きな脅威となるのは想像に難くない。」
「だからこそ。ここは、今までの戦功、武勲を捨て去ってでもこの国を安寧へと導く勇士として俺たちに協力して貰うことは叶わぬだろうか?」
『……えっ。そういう感じ?』
「なるほど。騎士たる栄華は放棄し、真に正義が何たるかを結果で指し示す。そのための道標となれという事か。」
あっけらかんとしたテスラは、アーサーにもそういった正義といった概念があることに拍子抜けしていた。
「強制ではない。選択肢を与えているんだ。ただもしこの話に乗ってくれるのならば、この腹の傷は帳消しだ。」
しばらく考え込んだ後、口元をニヤリとさせたダールトンは力強い声で返答をした。
「随分とでかい借りになったようだな…。よし、あいわかった。ただし、今後はただの商人などという言葉で誤魔化すのはよしてくれよ。」
『という事は……。』
「交渉成立だな、改めて自己紹介しよう。俺はアーサーだ。」
差し出された拳に、その倍近くある拳を突き出した暫定元十三騎士の表情はどこか吹っ切れた様子だった。
「元々俺はもう王の側近を辞退するつもりでいたしな。命があればよろしく頼む。今は病み上がりの能無しだが、必ずや一命に賭けてこの国を守ってみせよう。」
×××
───数日後 最奥区画『堅牢』、王城内謁見の間にて
重圧が充満する空間に、その者達は整列していた。
この国を統べる、国王 ナリプセント・バロム・オーラムを御前にして王自らが、ある決定を告げるために招集されたのであった。
「よくぞ、集まってくれたな。十三騎士達よ。」
その言葉に対し、返答したのは第一席に名を置く騎士ディオール・タナトス。
蒼銀の重厚な鎧には、歴戦の猛者らしからず細かな傷も一つとしてなく、丹念に手入れがされている様子が伝わるものだった。
「とんでもございません。御身の傍に常にこの心はあります故。」
「して、本日はどのようなご要件で我々をこの場にお集めになられたのでしょうか?」
「ふむ、まずは先の東の巨人の征伐。ご苦労であった。ここ最近のお前達の働きぶりには、本当に儂も頭が上がらぬ。」
「陛下、なにを仰いますか。我々の忠義は絶対のものであるが故に必ずや陛下の名声をこの大陸全土に響かせるが如く今後もより一層、職務に邁進していく所存にございます。」
膝をつき、頭を垂れる一同。
表を上げよという言葉の後に、本題となる十三騎士の処遇についての決定が王の口から告げられる。
「ではこれより、中央議会により決定されたお前達の今後の活動方針と編成について宣告する。」
「まずは活動方針についてだが、暫くの間は現状行っている征伐、または忠伐による各所で発生した大規模な脅威の排除を継続してもらう。」
「これがもたらす結果が、大陸諸国と友好関係を築くための架け橋となれるよう、一層の努力を要請したい。」
「はっ。」
「次に十三騎士の編成についてだが…第四席ヴァリアブル・ダールトンをこの場にて十三騎士から除名する。」
そう告げられると、一同は驚愕した。
なぜならば、彼こそがこの王国最強の存在といわれ征伐といわれる十三騎士の10名以上を動員する魔獣狩りに参加することを許されぬ、王都の絶対的な守り人となっていたからである。
「この第一席タナトス、無礼を承知で告げさせて頂きますがダール…ヴァリアブルが居たからこそ、我々は王都を任せ長期の作戦に赴く事が可能になったのだと進言致します。」
「……そうだな。間違いない。最近ではヴァリアブルとアラギリの両名の完璧なる攻守によって、王都は完全に近い形勢を保っていた。だが先刻、それが破られてしまったのだ。」
「十三騎士の威光が瓦解することは、我々が王国という体を成す以上あってはならぬ事だ。」
「ですが…そのような敵がもし存在するのであれば、それこそ征伐…いや割ける戦力を惜しみなく率いて部隊を動員すべきなのではないでしょうか?」
「それは確かにその通りだ。お前の言うことは間違っていないタナトスよ。敵に関する、より確たる情報を収集し然るべき処断を検討せねばあるまい。」
「だが、それとこれとはまた別の話である。決定に変更はない、空席となった第四席を埋める形でそれぞれの席次は繰り上げされ、末席には後日最終的な選考を行い、順当に新たな騎士が配属される。よいな。」
「はっ。」
一般的に見れば、冷遇と思える1度の失態における除名処分。
だがこの国では、それが日夜当然の如く行われ、最強たる騎士達もまた例外ではなかった。
「では、最後にヴァリアブルから皆に向けて一言貰おうか。」
すると、いつもは豪放磊落で誰にでも寛容な頼れる兄貴分であるダールトンが厳しい面構えで他の十三騎士へ向け言葉を贈る。
「貴殿らには今まで世話になった。そして、本来であれば断首刑でもおかしくはない事態に対し、存命の措置に留め置いて頂いた中央議会、ならびにナリプセント・バロム・オーラム国王陛下には最大の感謝を。」
「ヴァリアブル……。」
その場にいた誰しもが、十三騎士1の年長者であり最も長く王国の頂点に立ち続けた英雄の別れに沈痛な面持ちを隠せずにいた。
×××




