異形のゆく道
重っ苦しいタイトルになっちゃってますが、気軽にスナック感覚で読んでいただければ幸いです。
───代行者よ、我が手足となれ。
×××
とある魔王城にて───
この世界を実質的に統率する者として相応の力を持つ最も威厳ある存在……『魔王』
あまりの恐怖から、曰く『神をも屈服させる脅威』、『暴虐と破壊の体現者』などと呼ばれ極めて畏れられる。
圧倒的なまでの強さに歯向かう者は、今までことごとく無残な姿にされてきた。
勇者と呼ばれる実力者も何度か現れはしたがその度に世界平和への期待を寄せては、魔王軍に報復を受けるという忌まわしき歴史を繰り返してきた。
世界は疲弊しきっていた───
希望をなくし、ただただ支配される事を受け入れるしか無い…そんな中、世界の外からやってきた異端なる者が今まさに魔王の眼前に居た。
最強の権化たる魔王軍の四天王達も瞬殺してしまうほどのこの男は……一体何者なのか…。
「我の至高なる配下を、難なく屠り去ったか……人間風情、名を聞いてやる。」
「名乗っても意味無いだろ、どうせお前は死ぬんだし…」
「この我の前で、随分と不遜な態度だな…クックック。むしろ気に入った!」
「キサマ、我と一緒に世界を手に入れないか?殺すには惜しいぞ…その力!」
「あいにくだが、俺はお前を倒して田舎でスローライフを送るのが夢なんだよ」
「そうか……残念とは思わぬ。ならば、消し炭になってもらうまで。」
そう言い終えると、顔からは笑みが消えた。
退廃的で禍禍しい膨大な質量の魔力が魔王の全身から溢れ出る。
今より穿つ一撃により、世界を亡きものにするといってもこの魔王であれば、それが不可能ではないと理解できるほど絶望に満ちたものであった。
「悔いて逝け…」
差し出した掌からは、魔王が内包しているであろう全魔力を注ぎ込んだ巨大な魔弾が撃ち出された。
それが纏う邪気ですらも、城の一部をまるでサイクロン式掃除機がゴミを吸い取るかの如く、容易に巻き込み、削りながら前進していく。
「へっ…レベル999の勇者様を…」
勇者は何のスキルも魔法も使用せずに、単に右手だけを身体の前に出した。
「なめんなよ。」
小さく言い放つと魔弾は勇者に直撃した。
魔弾は直撃後、特性として持つ連鎖的な誘爆反応を引き起こし、爆発の限りを尽くした。
その凄惨な光景は被弾者の完全なる死と消滅を意味した。
「私は生物としてのレベルが、貴様らとはかけ離れているのだ。全く……強すぎるというのも孤独なものよ。」
巻きあがる土煙の中には影があった───
確かに1つ、不自然な影がある。
魔弾は確実に命中したのだ。ヤツには避ける素振りもなく、不可逆的な死を与えたはずだった。
だというのに……なぜだ。
───右手を出したまま、変わらぬ体勢で立っているではないか───
「お前の独り言は正しいよ。強すぎるというのは、寂しく、つまらないものだ。やっぱ田舎のスローライフ最高。」
「おのれェェェエエエッッッッ貴s……」
確かについ先程まで、魔王はこの世界において最強の存在だった───
曰く『神をも屈服させる脅威』、『暴虐と破壊の体現者』などと呼ばれ極めて畏れられていた。
刹那の間、断末魔を遮るように勇者の振るった剣戟は圧倒的なほどに恐るべき速さで魔王の首を切り落とした。
───世界には平和が訪れ……なかった。
×××
勇者が、その違和感に気が付くのにはそう時間を要さなかった。
すぐに後ろを振り返ると身に覚えのない、この世界のものでは無いと確信できる異様なモノが在った。
『よう、レベル999のチート野郎。』
『スローライフ望んでるわりには、散々な事をやらかしてくれたなぁ……』
その異様な空間の歪み(?)のような部分から、1人の男が出てきた。
何やら、勇者の事情を知っているような口ぶりをしている。
「何者だアンタ?魔王は俺が倒した。もう間もなく、この世界には平穏が訪れる。」
『……違うんだよなぁ、チート野郎。ここには本来、テメェじゃない来るべき勇者が居たんだよ。テメェが異世界から来て一瞬で魔王倒したせいで、この世界の歴史が狂っちまっただろうが!!!』
男の言うことが、勇者には一つたりと理解しがたかった。この男は何を言っているのか、魔王がいち早くこの世界から居なくなって、何をキレられる了見があるのか。
「おい狂人、お前が何を言っているのか、俺には理解に苦しむ。が、とにかく文句があるらしいな?」
既にお互いが臨戦態勢に入っていた。
かたやこの世界で最強となった勇者───
あの強大なる魔王を討ち果たした英雄。
かたや全ての情報が不詳の男───
最強の勇者に口喧嘩をふっかけたという実績しか現時点では持ち合わせていない。
『テメェは今すぐぶちのめす。』
「いいだろう、ひと捻りにしてやるよ。」
先に攻撃を仕掛けたのは勇者だった。
その剣戟の初動は先程とは比較にならないほど速度を増し、たとえ先の魔王が10体居ようと、同時に斬撃を加える事が出来るであろう領域にまで達していた。
カンストした速度ステータスと、右手に握る聖剣に付与された疾風の加護のおかげでさらに加速ボーナスをブーストさせている。
踏み込んだ右足に力を込め、一呼吸で瞬発的に相手の懐へ飛び込んだ。
『くっ……はえぇなぁ、オイ。』
すぐさま男が防御体勢へ転じようとする間隙を、勇者が見逃すことは無かった。
情報を与えないうちに、先んじて討ち滅ぼすが如く、勇者が剣を振りかぶった次の瞬間、一撃必殺のスキルを使用した。
『───源流よ此処に(カタストロフィ)』
聖剣は鈍く輝き、攻撃力を著しく上昇させ、剣先は確かなる破壊力を保ったまま、男に確実に届き得た。
渾身の一振は、両腕を同時に奪うと共に心臓にまで深い損傷を与えた。
「あっけないね。ちなみに今のスキルは、不死殺しと呼ばれるカテゴリーのもの。」
「刻まれた傷痕はいかなる治癒効果も受け付けない。その腕も二度とくっ付くことは無いという事だ、まぁその前に失血死するのが関の山だろうけどね。」
男は多量の血を流し、地に臥せる───
勇者が倒れる男を、まして自身の行動を不可思議だとは思うことはない。
なぜならその行為は敵とみなしたものに対して、正当なる強さを提示したに過ぎないからである。
仮にもレベルは999、そう簡単にやられるはずは無……………………
『この両腕が、なんだって?』
判然として、聖剣で分断したはずの男の両腕は、傷痕が癒え繋がっている。
いや、しかしそれどころではない。
男はあの僅かな時間に、精到に気配を完全に消し勇者へ向かって
───何事も無かったかのように反撃を実行した───
勇者の身体は、男の攻撃を受け凄まじい勢いで燃え盛っていた。
しかも驚くべきは、燃えているはずの勇者自身もその炎が視認できない点にある。
まるで無色透明な炎…としか表現のしようがないものがさらに火力を増して皮膚を、筋肉をみるみると焼け焦がしていく。
『腕と心臓は【根源】を割けば治せる。これは全能神の【大いなる加護】だ。たとえいかなるスキルであろうと、無効化する事は出来ない。』
『そして、俺の所有する【権能】の三つのうち、一つをお前に対して行使した。その名は【虚火】』
『一度点いたら最後。たとえ空気がなくとも、水中に潜ろうとも付与した対象が、完全に燃焼し終えるまでその炎が消えることはない。つまりお前はこのまま時間をかけて死ぬ。』
呻き声はしばらくはやむことがなかった。
人一倍、余計にステータスが高いせいでより長く苦しむことになるのだから憐れな野郎だ…などと吐き捨て、再び現れた次元の歪みの中へ退散していった。
───こうしてこの世界に真なる平和は訪れた。
異世界転生もの、テーマ自体はとても好きで何かアイデアで広げられないかと思いまして書き始めました!
反英雄的なダークな感じの主人公に活躍させたいと思ってます!