膝枕
儀式を終えた女王は俺から離れ、町民達に指示出しを行なっている。
やっぱり慣れてるんだろう、俺の想像を超えるテンポで家の修復が進み、
いくつもの骨組みが見る見るうちに出来上がっていく。
「シツ、何を突っ立っている」
「ゾデ……さん」
フルメイルのゾデが俺に声をかけてきた。
俺にも作業を手伝えと言うのだろうか。
俺は痩せてるから頭数にはならないし、余計な筋肉が付いても困るので、
チカラ仕事は遠慮させて貰いたい。
所で今平時なんだから、せめて兜くらい取ったらどうよ?
「そこに居ると邪魔になる。
あそこの木陰にでも行って、休んでいると良い」
ゾデが俺の後方を指差す。
良かった、強制労働じゃなかった。
俺が振り返ってその指の先を追うと、
走って数秒程度の所に、樹齢が3桁に達しているであろうゴツゴツした巨木が。
「あれは、メツェンさん……」
巨木の下にはメツェンさんが座っていて、俺と目が合うなりニコッと笑い、
自分の膝をポンポンと叩いてみせた。
あれって、膝枕してあげるからこっちにいらっしゃい、の意味だよな。
それとも俺の知識と全く違う、この国特有の意味を持つボディランゲージなのか。
前者でした。
「あのー……」
「どうしたの?シツちゃん」
「俺、どうして膝枕されてるんでしょうか……?」
しかも頭を撫でられている。
天使の輪っか、邪魔でしょうに。
そもそもウィッグ越しだし。
「嫌?」
「嫌じゃないですけど……」
ある種の理不尽さと気恥ずかしさから、俺は発言の後半になるにつれて声を小さくし、
最後なんかはメツェンさんの耳に届かないほどだった。
この太ももの暖かさと絶妙な弾力は、決して嫌じゃないですけど。
「なら良いじゃない。
ねえシツちゃん、これなあに?」
メツェンさんは天使の輪っかを指でつついて揺らした。
この問いに、俺はどう答えたもんか。
この国、いやこの世界にはコスプレなる文化が存在するのか?するなら話は早いんだが。
あとで面倒な事になっても困るだけだし、無難に正直に行こう。
「特別な意味は無いです。
ただのアクセサリーで……」
「そうなの。
私も付けてみようかしら」
ウィッグの付属品なんだよね、これ。
もしどうしても付けるなら、ウィッグごと装着しないといけないよ?
「今までも何人かのアンチエージェント達に会ったけど、
シツちゃんは特に変わってるわね。
なんだか男の子みたいですもの」
男の子みたいじゃなくて、男の子です。
まあ、女装趣味の俺は性別なんてさして気にしてないし、
女装する上で女扱いされるのはむしろ本望ですらあるから、
ぶっちゃけどっちでも良いしどうでも良いんだけど。
そういや、結局アンチエージェントって何なんだろ。
メツェンさんも知ってるみたいだし、この機会に聞いてみよう。
「あの、アンチエージェントってどういう意味ですか……?」
メツェンさんは俺を撫でながら答える。
「シツちゃんみたいに、別の世界から来た人をアンチエージェントって呼ぶの。
アンチエージェントはみんな、ラスティアンを倒せる特別なチカラを持ってるのよ」
「そのラスティアンって言うのは?」
「シツちゃんが倒してくれたバケモノの事ね」
「バケモノって、あのイセエビですか?」
「……イセエビ?」
メツェンさんが首を傾げ、豊かな緑髪が揺れた。
俺の知る限りだとあれはイセエビで間違いないのだが、
メツェンさんには通用しなかったらしい。
元の世界とここでは、その辺の常識が全く違うのか。
「えっと……」
会話が途切れてしまった。
「この世界にはあんな感じのバケモノが沢山居て、
それを倒せるのはアンチエージェントだけなの」
「ゾデさんが剣で斬っても、再生してましたね」
「そうでしょ?
だからシツちゃん達アンチエージェントは、私達の救世主なの。
一杯可愛がってあげるから、その分頑張ってね」
可愛い顔して腹黒っぽい事言うなぁ、メツェンさん。
やたらベタベタしたり今こうして膝枕してくれてるのも、全部その為っすか……?
「はは……」
俺は苦笑いした。
毎回あのイセエビみたいに上手く行くなら良いんだが、
何分まだ1回しか倒してないからなあ。
それにしても女装癖持ち引きこもりの俺が救世主だなんて、ちゃんちゃらおかしい。
て言うか結局、俺はどうしてここに来ちゃったんだ?
異世界転生なんて、所詮2次元のおとぎ話だろ?
それに、
「メツェンさん、いつまで膝枕を……」
メツェンさんが、またもニッコリ。
「嫌?」
嫌じゃないですけど、このままだと駄目になっちゃいそうです……。