6匹目
「キョーコ!」
目が覚めると、ふかふかのベッドで横になっていました。
お母さんやクルミ先生たちが、キョーコを覗き込んでいます。
みんな、泣きはらしたかのように、目が赤くなっていました。
「あのね、キョンがきてね、ネコにしてもらってね、もどりたくても、もどれなかったの。そしたら――」
「もういいよ、キョーコちゃん」
キョーコが続きを話す前に、お母さんが抱きしめてきました。どこまでも柔らかく、温かい感覚に包まれ、なんだか涙が溢れてきそうでした。
そうです、帰って来たのです。
「あなた、山に倒れていたのよ。あと少し見つけるのが遅かったら……」
「ち、違うよ!」
キョーコはお母さんの腕の中から出ると、一生懸命言葉を探しました。
「つかれて眠っちゃったの。ずっとイノチノユリを探してたから」
「悪い夢を見ていたのよ、無事でよかった」
お母さんはキョーコの髪を優しく撫でてきました。
それから頑張って説明しようとしましたが、お母さんたちは取り合ってくれません。
「怖い夢は時期に忘れるわ」
「夢じゃないもん」
そういうものの、キョーコ自身、ネコになったこと、そして、昨日の大冒険は夢だったのではないか?と思うようになってきました。冷静に考えれば、キョンが話しかけてくることなどありえませんし、ネコになることも想像できません。すべては、山で見た幻覚だったのでしょうか? 頭が薄ぼんやりとしてきた頃、クルミ先生たちが帰る時間になってしまいました。
ところが、クルミ先生がかえるときのことでした。
「じゃあ、先生は学校に帰るわね。
職員室に、白いネコが入りこんで、めっちゃくっちゃに荒らしたそうなのよ」
「え……?」
キョーコは、びっくりして固まってしまいました。
世界が止まったような気がしました。
早くアヤちゃんに会いたい、と思いました。
「ねぇ、アヤちゃんは?」
キョーコはお母さんの袖を引っ張りました。お母さんは少し悩むように眉をしかめたあと、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開きました。
「アヤちゃんはね、隣の病室で――」
その先の言葉は ききませんでした。キョーコはベッドからとび出ると、風のように走りました。
アヤちゃんに昨日のことを確かめよう。
夢じゃなかった大冒険を互いに噛みしめよう。
キョーコは、白い扉を力強く開け放ちました。
読了ありがとうございました。
キョンが出てきたことから分かるかもしれませんが、この童話は伊豆諸島を舞台に書いてみました。
(某〇宮ハルヒに出てくる主人公ではありません)
伊豆諸島は執筆題材の宝庫ですので、また舞台にした作品を書いてみたいです。
小学生のキョーコとアヤは、この冒険のことをいつか忘れてしまうかもしれません。
遠い日の夢だと思ってしまうかもしれません。
ただ、そのとき経験したことは忘れてしまっても、身体や心が覚えているものです。
彼女たちは、一歩踏み出す勇気や優しさ「どうして」と疑問に思う心をいつまでも持ち続けることでしょう。
最後になりましたが、これからも、寺町朱穂をよろしくお願いします。