ep53 1つだけの選択肢
「運命……か」
ルイはポツリとつぶやいた。私と彼とを引き裂いたモノの名前を。――憎たらしい、名前を。
ルイはある記憶を思い出していた。訓練を抜け出しては、遊びに行っていたあの丘の記憶を。
――ルイ、お前も将来は軍に入りなさい。
――待ってよ、お父様! 私の……。
――お前の意思など必要ない。あるのは忠誠心だけで十分だ。
幼い頃にルイの奥底に刻まれた会話。常に軍の上層部の者たちを輩出してきた家系に生まれてしまったがゆえに、しかれたレールの上を時間通りにしか走ることを許されなかった。
幼い頃からそんな状況に置かれて、彼女は心を閉ざしてしまっていた。そんななか、訓練を抜け出して行った丘の景色は、彼女の精神に幾重にも固く巻き付いていた鎖を解き放ってくれた。
ちょっとした自然があって、雲が広がっていて。何でもないような景色だったが、初めて自分の意思で行動したルイにとっては何かが吹っ切れた結果だったのかもしれない。
その日の晩、訓練を抜け出したことについて、ルイは怒られた。それでも彼女は、時間があるとその丘へ通うようになった。
――私にだって自由はある。
そのことを再確認するように、丘へ。ただぼーっと景色を見つめるだけの毎日だったが、ある日変化があった。1人の男の子が丘へと現れたのだった。
彼はルイとは違う、普通の家の生まれだった。そのため、違った価値観を持っていた。違う価値観に触れ、ルイの価値観も変わっていった。そのターニングポイントになった少年こそ、“ツバサ”だった。