ep52 2人のネジレ
『大きな丘を越えて あの空に踏み出そう あの大きな丘の先 何が――』
「――待っているだろう」
青い敵機の歌声の続きをつぶやく。ツバサにとって、この歌は約束の歌だった。あの時の彼女とのたった1つの約束。
「ルイ……!」『ツバサ……?』
2つの重なる声は互いの名前を呼んだ。それは互いに懐かしむような、悔やむような声だった。
『……そう。今は抵抗軍にいるのね』
「お前は…… 軍、それも近衛兵か……。ハハ…… 運命って、本当に皮肉だな」
ツバサが約束を覚えていたのも、ルイのことが気になっていた――好きだったと言っても過言ではない――からだった。
『覚えてくれていたことは嬉しいわ。……でもね、本当に皮肉だけど、私はあなたに勝たなきゃいけない。戦いましょう、正々堂々と』
構える。チャクラムがギラリと、獲物を狙う獣の目のように光を乱反射する。光が乱れているのは、きっとルイの操縦幹を持つ手が震えているせいだ。
ツバサは言葉の代わりに、ナイフを構えた。
「ルイが時々つぶやいてた名前って、アイツだったのか……」
ポツリ。まだ通信やモニターは生きているリョイ機の中で、ヒートがポツリとつぶやいた。
「ルイちゃん、よく歌ってたよね。その…… 抵抗軍の彼と何かあったのかな? ……私と、アリスたちみたいに」
「ん?」
「ううん。なんでも……ないよ」
明後日の方向を見るように、ヒートから顔をそらしたリョイは少し瞳を潤ませた。
戦いの行き先を見守る2人は、その両の瞳に2機の姿を映していた。