ep51 3つめの始まり
「リリ……」
かけた声が震えていた。自分でもハッキリと分かるくらいの震えだった。
思い出される玄武の狂気ともよべる行動。あれが脳裏にあるせいだろうか。
ふと、思わず戻ってきたリリに声をかけたが、なんと続けていいのかわからないことに気づいた。その沈黙を知ってか知らずか、敵側から声が聞こえた。
『次は私が行くわ。相手、早く決めてね』
青い機体が歩みを進めた。緑の機体が使っていたハートのチャクラムと同じものを持っているようだ。しかし、緑の機体以上にあるべきもの――正当な保持者――の元にあるといったような安定感というか、しっくりとくる印象がある。
無意識なのか、そのチャクラムをもてあそびながらの歌声が聞こえてくる。ウィスパーな、プツプツと時々消えるつぶやきのような歌声が。
『……オレが行っていいか?』
ふいにツバサから通信が入る。何かが裏に隠れているような、そんな声。
『あ、いやっ! 別に、リリの敵討ちって訳じゃねぇよ!? ただ、そろそろ出番かなって思っただけだからな? いや、敵討ちはなんか違うか。えっと、その……なんだ!?』
焦って否定するツバサの声も後れて届く。その言葉に、クスリと思わず笑い声がこぼれる。
『な、なんだよ!』
「いや、別に。なんか…… 青春ぽいなって思って」
『アリスもそう思う? なんか、ツバサがこんな焦るの珍しいねー。行ってきたら? 皆もそれでいいよね? ツバサがリリの玄武をぶっ壊した仕返しに行くで』
ツバサの機体――朱雀は、1歩を踏み出した。