ep46 4つ目の遺志
「まだ、負けは、しませんっ!」
拘束を解いた玄武は、ファイティングポーズをとった――はずだった。
『ムリだ。どうやって戦うつもり?』
ヒートは熱に溶けたらしい玄武の両腕を、無造作に地面へと落とす。
「――え?」
バチバチと火花が散っている。玄武の切り外された腕から、肩より下がない玄武から。
適当な場所で焼き切られたせいか、玄武はバランスを崩して倒れた。起き上がろうとするが、腕がないのでまがままを言う子供のような動きになる。
『どう考えてもオレの勝ちだね。ケケケ!』
『ヒート、出来るだけ破壊はしないようにと言ったはずですが?』
『ケッ、向こうが暴れるんだ、仕方ない』
ファーストの言葉にさぁとでも言いたげに、両手を上にあげるヒート。
『リリッ……!』
ツバサの声が響く。他の皆は、驚きのあまりに声が出ないようだ。
『……認めたくないけどリリの負け、ね』
ナインの感情のないような声が事実を淡々と述べた。これで1対1だ――玄武が立ち上がらなければ。
――玄武が負けを認める訳がないであろう
「麒麟……?」
――我等の中で最も負けず嫌いであったのだ。終わるはずがない
その時だった。麒麟の言葉を待っていたように、玄武が立ち上がったのだ。
『妾が負けるわけにいかぬのだ』
腕を使わず、器用にバランスをとって立ち上がる。見事なものだった。
『妾、黒い北の守護者が負けてはやつらに見せる面が無いのじゃ』
玄武はリリのものとは思えない、闘気のこもった声でそう宣言した。