ep44 2本の黒
「ふっ……!」
敵を斬るには向いていない剣らしく、呼気と共に突きを繰り出す。
『ケケ? 思ったより甘い突きだね』
それをひらりとかわすヒート。とても、といってもいいほどに細いヒートの機体はそれほど移動しなくても避けれるはずなのだが、わざとらしく、かつ大振りに飛び避ける。
『もっと体重を乗せてさ、踏み込んだら? ケケケ』
「黙って……下さい!」
敵なのにアドバイスを言ってきたヒートに、イラつきを乗せた突きを繰り出す。今回は反応が少し遅れたのか、機体を少しだけ動かした避け方だった。
『ざんねーん。もうちょっと早かったら当たってたかもねぇ。ケケケ!』
「人をあざけ笑うのもいい加減にしてほしいですわ。それに、これでもかしら?」
ムッとした言い方。その直後、言葉とかぶるように金属のこすれるような音が響いた。
『ゥケッ!?』
ジャラリ、と2本の黒っぽい鎖がヒート機の腰に巻きついている。細い鎖なのだが、ヒートがどうあがこうが切れる素振りを見せない。剣を突き立てても、だ。
『何だよ! コレェ!?』
「ただの細い鎖ですわ。何の変哲もない、この玄武の装甲と同じ金属でできただけの……ですわ」
玄武の左手首から伸びる2本の鎖は今も伸び続け、意志があるかのようにぐるりぐるりとヒートの動きを封じていく。玄武と同じ光を反射する鎖は、ついに腕の自由まで奪う。
「私の機体に入れられた幻獣のデータは“玄武”。貴方ぐらいの方なら、そのうわさぐらいは聞いた事があるのではありませんか?」
『~~! 四聖獣のデータ持ちか……。仕方ない。こっちにも、対抗策がないわけじゃない。覚悟しろ!』