ep36 1つの静寂は嵐の前に
朝、起きると事件が――なんて事はなく、幻獣も現れていない平和な朝だった。
「おはよー」
「おはよ」「おはよう」「おー」「おはようございます」
みんなが同じ部屋にいた。最後に起きてきたのはアリスだったようだ。
各々のあいさつの中にもちろんルファの声はない。
「おそようって感じだけどなー」
ツバサがタバコをふかしながら、笑みをこぼす。
アリスはレジスタンスとして初めて味わう平和な日であった。
「なぁ、こんな日もあるのか? 幻獣のでないような日が」
「そりゃあるよ。こういう時は素直に休んどくもんだ」
エイドが何か機械をいじりながら答えた。
「いつ幻獣が出て、いつ出ることになるかなんてわかんないもんね」
ナインはCDのライナーノーツらしき物を読んでいた。
「ああ! また、間違ってしまいましたわ!」
リリは鉤針で何かを編んでいる。意外と不器用だったらしく、苦戦しているようだ。
「あぁん? なんで、そんな簡単なことができねぇんだよ!」
――どうやら、ツバサはリリに編み物を教えているところだったようだ。
「マフラーは基礎中の基礎つってもいいような簡単なもんだぞ。……ったく」
タバコを置いて、リリから鉤針と毛糸を奪う。
「それと、持ち方はこう。だんだん持ち方が変わって……」
アリスがびっくりしながら見ていたせいか、エイドとナインが口を開いた。
「まぁ、人には意外な一面ってのがあるんだよ」
「そ、ツバサって意外と器用だしね。それに……」
刹那、言葉を続けようとしたナインをさえぎるかのように、拡声器にでかい音を紛れ込ませたかのような音割れが空間を支配した。