ep12 1人の訪問者
「大変? 何が?」
くるくると丸まった薄目の茶髪をゆらしながら、リリが口を開く。
「今、キティ様が……!!」
「え!? キティって…… 隣国の」
「そう!!」
リリが身を乗り出す。
「あの隣国の王女様の“キティ=シルバーローズ”様が!!」
そこで息が切れたのか深呼吸をして、その後に大きく息を吸ったリリは扉の向こうを指さし、
「今、この基地に来てるんですの!!」
と、興奮気味な声で言った。その後、あまりのことに一瞬みんなの時間が止まった。
そして、一番最初にみんなの口から出た言葉はもちろん――
「ドォゥエエエーー?」
――奇声でできた悲鳴のような叫びだった。
アリスが起きた頃。場所は、城の中の一室。近衛兵だけが入れるエリアにある部屋。
そこの扉を、黒のパイロットスーツを着た男がくぐった。
「よう? 一匹、仕留め損ねたんだって? ケケ、お前らしくねぇなぁ?」
男は何も言わず、ただ声をかけてきた男を一瞥してさっさと奥にある自室へと行ってしまった。
声をかけた男はやれやれといった感じで肩をすくめた。そして、懲りずにずっと部屋の片隅にいた女に声をかける。
「アイツ、冷たいよなぁ? ルイ?」
「今のは、あなたが悪い。あの人は、ナルキッソスの生まれ変わりだって言ってたのはあなたでしょ、ヒート?」
ルイと呼ばれた女は、パタンと読んでいた本を閉じ静かに言った。
右目の目じりの下に青いハートのタトゥがある。その青いハートが、もともと少し悲しそうなきれいな青い目をさらに悲しそうに見せている。ルイはその青い目を外に向けて誰かの名前をつぶやいた。