9.正統なる道化師:ビジャット
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ありがとうございます。
テンションがあがります。
9.正統なる道化師:ビジャット
帝国ランチャスには宮廷道化師という生業の者たちがおりました。
彼等彼女等は、非常に小柄で、すばしっこく動き回ることができました。
それというのも、宮廷道化師たちは自らが道化師であるためにホビット種を寝室に迎え入れて子をなしていたからです。
ご存じでしょうが、ホビット種というのはとても小柄で、成人しても人間の幼児ほどにしか身長がのびません。総じて運動神経に恵まれており、軽やかに動き回ることができます。
まさに道化師に最適だったのです。
何処までもホビット種に近しい身体的特徴をもつ宮廷道化師ですが、なかには人間の特徴を色濃くだしてしまう赤ん坊もいました。
ビジャット。彼はそんな人間らしく育ってしまった一人だったのです。
異物であったビジャットは幼い頃から一族総出ともいえる程のいじめにあいました。
表では笑いを誘う賑やかな宮廷道化師たちでしたが、その実、闇を抱えていたのです。
闇。
それは普通の人間に対する憧れと憎しみでした。人間の国に仕えていればこそ、己を嘲笑う『人間』に晴れることのない憤懣を抱えていたのです。
そのはけ口にビジャットはされたのです。
しかし鋼紀1585年。
自称勇者のニャオキによって帝国は瓦解します。
国の所有物であった宮廷道化師たちは二束三文で売りに出され、そのほとんどが場末の見世物小屋へと買われました。
ただ、人間のように見えたビジャットだけをのぞいて…。
その後。
ビジャットはクラウン(道化)として各国を流れ歩きました。
彼のクラウンとしての演技に人々は腹を抱えて笑ったといいます。
宮廷道化師として扱われなかったビジャットですが、彼は道化師というものを見て覚えていたのです。
そうして誰に教わることなく、見て、おぼえる、だけで自分のものとできるほどに道化師としての素養に恵まれていたのです。
やがてビジャットは大きな街に居を構えると、領主の娘を妻にむかえます。
3人の子供にも恵まれ、誰もが羨むような生活を送っていた……はずだったのです。
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予定よりも早く公演が片付いて家に帰った俺が見たのは、息子たちの喧嘩だった。
長男と三男が、次男坊を殴る蹴るしている。
次男は兄弟のなかで、いちばん背が低い。3っつ年下の三男よりも頭ふたつぶんは小さいのだ。
そのせいで虐められるのだろう。
俺は昔…ガキの頃を思いだした。
強い調子で叱りつける。すると、長男と三男は逃げ出し、次男坊だけが残った。
長男と三男は俺になついてない。
俺は次男坊の頭をひと撫でしてから、屋敷へと入った。
そこで見てしまった。
妻が、見知らぬ男と寝ているのを!
男は一目散に逃げだした。
残った妻は最初こそ言い訳をしていたが、そのうち開き直ったのか、俺をこき下ろし始めた。
そして。言ったのだ。
『あんたみたいな偽ホビットと誰が好き好んで結婚するのよ!』
『おれ…俺はにんげ……ん』
『長男と三男だって、あんたとの子供じゃないのよ』
と、笑いながら口を滑らせたのだ。
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なんの前触れもなく、ビジャットは妻と、長男・三男を殺します。
そして街一番の商人の邸宅に乗り込むと、一家を惨殺しました。
ただ1人、ビジャットの子供で残った次男。
彼は長じて誰もが知るほどのクラウン(道化師)となりました。
その人はこう書き残しています。
『わたしは父親を軽蔑している。けれど、クラウンとしてのビジャットは尊敬している。わたしにとって彼は憧れで、一生をかけて追いかける存在だ』
と。