7.共食いのリザードマン:ジョンK
7.共食いのリザードマン:ジョンK
ジョンKはリザードマンのなかでは知られたオスでした。
身長は他のリザードマンの頭ふたつ分を上回り、膂力は巨人族にせまり、俊敏さはジャイロウルフに負けなかったと言われています。
そんな彼の別名は『龍人にもっとも近いリザードマン』。
龍人とは龍の加護を受けた種族のことです。
現在では絶えた種族ですが、伝説は数あり、リバイア山を噴火させた、オーブドラゴンを倒して腐海を発生させた、人族の国を3日もかからずに滅亡まで追い込んだ、等々…歴史にのこるほどの惨事を引き起こしています。
信じられない、ですか?
ならば75年前の【世界樹の危機】を知っていますか?
そうです、天空をささえている7本の世界樹のうちの1本が切り倒されそうになった事件です。
あれの実行犯が最後に残ったとされる龍人だったんですよ。
そんな化け物にジョンKは近いと持ち上げられていたのです。
ジョンKは、それはそれは真面目なオスでした。
リザードマンが経験を積んだ姿が龍人なのだ、という古老のいうことを疑うことなく、無謀ともも思えるような過酷な修行をしていたといいます。
10年、20年。ジョンKはたゆむことなく鍛え続けました。
30年、40年。龍人になれることを信じて邁進しました。
50年、60年。周囲が嘲笑しようとも、己を恃みつづけました。
ですが70年たった頃。
初老になっていたジョンKは同族であるリザードマンを殺して、食い始めたのです。
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ワシの友であった男…。
いいや、友のふりをして陰で嘲笑っていた男を殺したのは何時だったか。
もう思い出せない。
アヤツを殺し、そして戦士の礼儀として心臓を食ったとき。
衰えていた体に活力がみなぎるのを感じたのだ。
それは衝撃の事実であったと同時に、答えでもあった。
リザードマンは同族を食らうことで、能力の底上げができる!
そうなのだ。
だからこそ、戦士は倒した相手の心臓を食らうことこそが供養であると言い伝えられていたのだ。
だが、だとしたら。
ワシはもう龍人にはなれん。
あの時のワシは絶望したものだ。
何故なら、ついぞ戦争がなくなってしまっていたからだ。
これでは戦士として戦いに臨み、同族の心臓を食らうことなど叶うはずもない。
だったら…。
ワシの70年にも及ぶ人生は無駄だったのか…。
そう諦めかけた時。
天啓のように閃いたのだ。
殺せばいい、と。
殺して、食えばいい、と。
そうして、ワシは食った。
親友の嫁だった、ワシの初恋の相手だったメスを。その子供たちを。集落の長を。狩人だったものを、呪い士だったものを、みんなみんな、食らった。
これでワシはようやく、龍人になれる。
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鋼紀1733年。
東国にあるリザードマンの集落が滅んでいるのが冒険者によって発見されました。
当初は飢えた魔物の仕業であるとの見解が示されましたが、調べるにつれ、ジョンKの犯行であることが判明したのです。
そのジョンKですが、村の中央につくられた祭壇に死体が発見されました。
まるで抜け殻のように干からびた死体であったとされています。
ジョンKが殺した同族の数は、実に188人でした。