6.広大な迷路を築いた男:デネブ
6.広大な迷路を築いた男:デネブ
皆様はデネブの迷路をご存じでしょうか?
そうです、最北の地に横たわる千年氷原につくられた、氷をうがってつくられた迷路のことです。
現在では観光地となっていますが、ガイドですら迷路の浅部までしか踏み込みません。
深部の何処かにはデネブの財宝が隠されているとも噂されていて、多くのトレジャーハンターが毎年のように迷路で行方不明になっています。
では、迷路を築いたデネブという男のことを皆様は知っていますか?
彼は若いころ傭兵として各国を渡り歩いたといわれています。
そのうち戦場奴隷をあつかう商人となり、デネブは莫大な富をたくわえました。
それこそ、戦争で疲弊した国に大金を貸していたほどです。
ですが、デネブはまだまだこれからという36歳の若さで最北の地に引きこもってしまいます。
鋼紀1654年。
紛争は下火になりつつありましたが、それでも奴隷の需要は高かったはずです。
なのにデネブは商人としての足を洗い、隠居地というには住みづらい場所に移動します。
何があったのか?
ある人は、デネブが戦争の悲惨さに絶望したのだと言います。
ある人は、最北の地にデネブが惚れた女がいたのだと言います。
また、ある人は死期を悟ったデネブが財宝を隠すために地の果てを選んだのだと言います。
正解はわかりません。
引きこもったデネブは、引き連れていた1000人の奴隷を使って迷路をつくりはじめます。
そして迷宮の最奥で1日に1人を殺すようになったのです。
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ガタガタと体が震える。
奴が…魔女が近づいてくるのが分かるのだ。
逃げようにも、ココは迷路の最奥だった。
昨日までなら、手持ちの奴隷を身代わりにすることで魔女の目を誤魔化すことができた。
奴は、俺への憎しみを糧に燃やす恨みの魔女。
冷えた氷のなかに潜んでいる限り、正確な俺の居場所は掴めやしない。
それでも、奴はジリジリと俺を追い続けた。
だから、俺も氷のなかに迷路をきずいてジリジリと逃げ続けたのだ。
毎日、身代わりを仕立てて、命を長らえたのだ。
1000日。
ここまでなのか!
うずくまって震える俺の肩に、何者かが手を置いた。
『なんで! 俺が何をしたって言うんだ!』
わめく! わめいて剣を振るう!
けれど手応えはなくて…。
剣を打ち込んだ先に俺が見たのは、魔女と…何千人にもおよぶ死者の列だった。
『俺が売った、奴隷ども』
俺の呟きを聞いた魔女がニヤリと笑う。
『迎えに来たよ』
ああ…あああ!
こいつは魔女なんかじゃなかった!
こいつは、こいつは!
シニガミ。
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デネブは迷路をつくっていた奴隷を毎日殺し続けました。
総数は1000人。
彼らは隷属の首輪をはめられていて反抗できなかったのです。
1000人の奴隷を殺しつくしたデネブは、迷路にはいってそのまま出てきませんでした。
わたしは、デネブが奴隷を道連れにして自らの墓をつくっていたのではないか、と考えるのです。