NOT殺人鬼の2 邪気なきコボルト:****
NOT殺人鬼の2 邪気なきコボルト:****
近頃ではコボルトの集落にホームステイをして疲れた心を癒すというのが流行しているそうです。
なんでも素朴なコボルトの暮らしと、もふもふが、現代生活で荒んだ心に安らぎを与えるのだとか。
まぁ、分からないではない話です。
これは、そういったホームステイが定番化するずっと前。
ようやくコボルトと人種との交流が始まったばかりの頃のお話です。
時は鋼紀1325年
それまでゴブリンと同じ知性なき魔物だと思われていたコボルトに独自の文化があると分かったばかりで。
おおぜいの学者先生がコボルトの集落に移り住んで、その文化を体験して書物にまとめようとしたのです。
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センセイ、ダイスキ!
生徒であるコボルトたちが、そう言って抱き着いてきた。
この集落に移り住んで、わたしは彼等彼女等に大陸の言語や簡単な計算を教えていた。
コボルトは、やはりゴブリンとは違った。
教えたことはしっかりと憶えてくれるのだ。
わたしはみんなの頭を撫でながら言った。
「わたしも、みんなのことが大好きだよ!」
ナラ、カエラナイデ!
コボルトたちが口々に言う。
「ごめんね、みんな」
そう言ったときだった。
腕に鋭い痛みが走った。
見ると、1匹のコボルトが噛みついていた。
「え?」
と思ううちにも、次々にコボルトがわたしに牙をたてた。
「や、やめて!」
ガウ、ガウウウ!
「痛い、痛い! やめて!」
ガウウウウウウウ!
「いやああああああ!」
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コボルトは気に入ったモノを手元に置きたがるという習性があります。
まだまだ、そういったコボルトの習性が分かっていない当時です。
コボルトの村に移住をしたものの、いざ帰る段になって、コボルトに襲われる学者先生が続出しました。
その犠牲者は17人。
後の調べで分かるのですが。
襲われた学者先生は、骨の首飾りとなってコボルトたちの首に下げられていたのです。
コボルトの習性を知らないが故に起こった惨劇でした。
現代。
ホームステイが流行しているということは書きました。
まれにですが。
ホームステイをしたまま帰ってこない人がいるそうです。
行方不明ということになっていますが。
果たして、どうなのでしょう?
基本的に襲われた学者先生はコボルトに友好的に接してしまった人たち。
端からコボルトを劣等種として扱った横柄な学者先生のほうが無事に帰れてしまいました。