44.森の精霊ドライアドを殺しつくした村人:チガチガ
44.森の精霊ドライアドを殺しつくした村人:チガチガ
森の精霊ドライアド。
姿形こそ樹木そのものですが、エルフの遠い祖先にあたるれっきとした精霊です。
もちろん、感情もあれば、思考する能力も持っています。
発声器官がないので言葉こそ喋れませんが、その代わりにテレパシーで遣り取りが出来ます。それは人種とも問題なく、です。
しかしながら、今ではドライアドは絶滅危惧種となっています。
北方の寒冷な高山に十数体が確認されているにすぎません。
それというのも、ドライアドには群生地ともいえる集落があったのですが、それが滅んでしまったからです。
ドライアドは言い伝えています。
自分たちがチガチガと名乗る1人の村人によって伐り尽くされたのだと。
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大陸中で戦乱が吹き荒れて、高額な税が課されるようになった。
親父は、税を払う代わりに戦場へと徴兵された。
親父だけじゃない、村の大人の男たちはみんな戦場へと向かった。
そのまま帰ってこなかった。
次の年。
税の代わりに、お袋が包丁を手にして戦場へと徴兵された。
お袋だけじゃない、村の大人の女たちはみんな戦場へと向かった。
そのまま帰ってこなかった。
次の年。
爺様と婆様が、税の代わりに戦場へと徴兵された。
家の爺様と婆様だけじゃない。村のジジババたちはみんな戦場へと向かった。
そのまま帰ってこなかった。
村には子供と赤ン坊しかいない。
俺がいちばんの年長だ。
「チガチガよ。みなを頼むぞ」
託された言葉が思い出される。
俺は精霊様の住む地に向かった。
精霊様は森を豊かに育んでくださる。
でも。俺は知っている。
精霊様が、良質の木材として金になることを。
俺は……村に唯一のこった斧を振り上げて、振り下ろした。
!!!!!!!!
精霊様の悲鳴が脳内に響く。
「おおおおおおおおお!」
精霊様の悲鳴と、精霊様たちの怒声を、俺は振り切るようにして再び斧を振り上げた。
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おそらく鋼紀750年代前後のことと推測されます。
10歳ほどの少年『チガチガ』が何十年と時間をかけて、1000体以上のドライアドを伐り殺したと彼等は言い伝えているのです。
その少年…男がどうなったのか、知る由もありません。
しかしながら、かつてドライアドの群生地があった場所にほど近い村々に面白い歌があることを、わたしは最近になって知りました。
その歌を要約すると、次のような話になります。
貧窮を極めた村々をまわって、施しをする奇特な金持ちがいた。
金持ちのおかげで村々は滅ぶことをまぬがれ、当時はやっていたゴブリンの鼻くそに汚染されることもなかった。
時は過ぎて。
やがて金持ちは老いて、ただ1人孤独に死んだ。
最後には金が尽きたのか、コジキ同然にボロボロで死んだ。
そんな歌です。
かつては村々を救った金持ちをたたえる歌として。
豊かになった現代では、お金は計画的に使いましょうという寓話として残っています。
もしかしたら、ですが。
この金持ちというのはドライアドを伐採してお金を得ていた…。
なんてことはあり得ませんね。
考えれば分かること。
断末魔の悲鳴をあげるドライアドを1000体も伐り殺すような無慈悲な人間が、村々に施しをするはずがないのですから。
もしも、そんな相反する真似をする人間がいたとしたら。
それはもう、人間として生きることを止めた心を殺した者だけでしょう。




