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38.花狂い:ナグリ

38.花狂い:ナグリ


東の果てにある島国には、桜という美しい花を咲かす木があるそうです。

しかし、美しい花を咲かすには根元に死体を埋めねばならないとも聞きます。

そんな桜が、彼の島国には何万本とあるのだと、世界中を見聞して回ったアドルフ・D・ヒッチャーは著作『東方異聞録』に書き記しています。


おそろしい国もあったものです。


今回、紹介するナグリは花を育てる園芸家です。


ナグリは花が好きな男でした。

幼い頃は庭で。

長じては畑の産物である麦や野菜を潰してまで、花を育てるようになりました。


当時の村での評判は『花狂い』。

もちろん、良い意味ではありません。

白眼視され、子供には石を投げられるような有り様だったと言います。


それでもナグリは花に狂うことを止めませんでした。


鋼紀1795年。

ナグリが25歳のときです。


ナグリの育てた美しい花に、貴族が注目しました。

これまでもナグリの花は街で評判をとっていたのですが、それが貴族の目に留まったのです。


ナグリに貴族から大量の花が発注されます。

パーティーで使うというのです。


このことを切っ掛けとして、ナグリの不遇は晴れました。

それまでは二束三文でしか売れなかった花が、大金に変わったのです。


ナグリは村で一番の金持ちになりました。

村の悪ガキたちはナグリを見るとコソコソと逃げるようになりました。

貴族からは、ナグリに婚姻の申し込みすらありました。


ナグリの周囲はガラリと変わったのです。


でも、ナグリはちっとも変りませんでいた。


花狂いのままだったのです。

美しい花を咲かせたかった。


ずっと、ずっと。

物心ついた時から、考えるのは花のことだけ。


どうしたら、美しく咲かせられるのか?


そのことだけ。


だけど最近は手詰まりを感じていた。


どうしても、一定の美しさにしか届かないのだ。


どうしたらいい!


そんな時だった。


東方の島国にある桜のことを耳にしたのは。


死体を埋める?


なるほど、と思った。


試してみる価値はある。

ナグリの咲かせる花がさらに美しくなった。


評判はすぐに広まりました。


鋼紀1801年のことです。


ナグリから花を育てる秘訣を盗もうと、とある園芸家が忍び込みました。


そうして。

見てしまったのです。


ナグリの『新しい畑』を。


畑は人間でした。生きたままの人間でした。

手足を切断して花を植え、生き血をすすらせていたのです。


通報を受けて駆け付けた警察に、ナグリは逮捕されました。


犠牲者の数は不明。

今も捜査が続けられていますが、なにぶんにも『畑』となるほど膨大な人数だったのです。

一説には100人とも1000人を超えるとも報道されています。


ナグリの逮捕から9年。


彼は刑務所の狭い庭で花を育て、今では大勢の弟子がいるそうです。


獄中にあるナグリから犠牲者への謝罪の言葉はありません。

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