22.革命を許せなかった女:・・・・
22.革命を許せなかった女:・・・・
かつて賢王の治めていた国。
彼の国では、どこの国でもそうだったように、死刑は公衆の面前で首を斬り落とすというものでした。
ですが鋼紀1759年の市民革命で賢王夫妻を公開死刑にしたのを最後に、衆人環視のなかで首を斬り落とすという死刑方法は廃止されます。
代わりに薬物での安楽死になるのです。
イドはその煽りを受けて職を失った首斬り役人でした。
・
・
・
ホッとしてるよ。と、しこたま酒に酔って親友は言った。
俺は代々の家系で首落としをやってただけなんだ。
田舎のほうに引っ越して、田畑を耕して暮らすよ。
親友は、さっぱりした顔をして言った。
「もったいないな。あんたほどの腕があれば、軍人でもやってけるだろうに」
そう言ってくれるのは、お前だけなもんだ。
連中の俺を見る目と言ったら…。
なぁ、と親友は言った。
もしもさ、よかったら。
お前さえ、よかったら。
俺といっしょに行かないか?
「嬉しいよ」
なら!
「でも駄目なんだ。この街でやりたいことがあるから」
そうか。
親友が引き下がる。
そんな親友に。
わたしは心のなかで言うのだ。
あのまま賢王の治世が続いてたら。
わたしたちは、どうなってたんだろうね、と。
・
・
・
アレシア国で殺人鬼が暴れまわります。
件の殺人鬼は、革命を起こしたいわゆる指導者層を狙い、鋼紀1759年から1762年にかけて8人を手にかけました。
やがて判明するのですが。
殺人鬼は、首斬り役人の使う斧を研ぐことを生業として代々、王家に仕えていた女性だったのです。
その女性の名前は明かされませんでした。
国の暗部として『恥』だと考えられたからです。
恥には恥を。
不浄には不浄を。
当時の官吏はそう考えたのでしょう。
イド、と名乗っていた元・首斬り役人に殺人鬼の討伐をするよう求めました。
鋼紀1762年。
イドは、名もなき殺人鬼を倒しました。
首を落としました。
おいおい、イドは大泣きしたとされています。
人々は言ったそうです。
イドのように王家に縛られていた人間。彼らを解放した恩人たる革命家を殺して回っていた憎っくき殺人鬼を討伐できたのが、それほどまでに嬉しかったのだろう、と。
イドはその後。斧の腕前を買われて軍に誘われたそうですが、田舎に戻ったということです。
説明が足りないよ!
意味が分からない?
と感想にありましたので。
解説を加えます。
これは13話の出来事のあとのお話になります。
まず、冒頭で『イド』という首斬り役人の名前が出ますが、ここでこんがらがるのかもしれません。
今までだと、冒頭の名前は殺人鬼の名前でした。
ですが、今回は引っ掛けなのです。
イドは殺人鬼の名前ではないのです。
副題にも『・・・・』とあるので、余計に訳が分からなくなったかもしれません。
ココで次の段に進みます。
この段は殺人鬼『・・・・』と先のイドとの会話になってます。
親友とされているのが『イド』です。
ここでは『イド』は代々家系で首斬り役人をしていた。
『イド』と『・・・・』は親友ではありますが、互いにほのかな恋心を抱いていることも、表現したつもりでした。
そして。不浄役人として嫌われていたイドは王都を離れることが書かれています。
次の段にいきます。
『・・・・』は、そんな首斬り役人の使う得物を研ぐことを代々の生業にしている家に生まれていることが、分かって……もらえなかったらゴメンナサイ。
加えて。ここでは『・・・・』が革命を起こした主要な人物を次々に手にかけたことが書いてあります。
つまり。『・・・・』は王家に忠誠を誓っていたので、その王家を覆した人間に復讐を果たしていたわけです。
そんな『・・・・』を討伐するため、おなじ不浄な人間であるところのイドに白羽の矢が立ちます。
普通の役人は、不浄な『・・・・』を殺したところで手柄どころか不名誉にしかならないので、イドに命令が行ったわけです。
イドは、もちろん殺人鬼が『・・・・』であるとは知らなかったはずです。
知らないままに『・・・・』と対峙して。遂には好きだった人の首を落としてしまいます。
だからイドは大泣きしてるんですね。
以上です。