20.絶対の善を求めた男:ワンドート
20.絶対の善を求めた男:ワンドート
この世には絶対の悪がある。わたしのような人間のことだ。
なら、反対に。
絶対の善はあるのか?
それを確かめるために広大なデバイ砂漠で殺人を繰り返した男こそが、ワンドートです。
鋼紀1303年から1323年にかけてのことです。
最初は恋仲の男女でした。
ワンドートは街から恋仲である男女をさらうと、デバイ砂漠に放り捨てました。
小量の食物と飲み水を残して、です。
男女は生き残ろうと食料と飲み水を分け合います。
ですが、それも余裕のあるうちだけです。
徐々に少なくなる食料と飲み水。
容赦のない陽射しと、夜間の冷え。
やがて男女は言い争うようになり、喧嘩をし、殺し合ったそうです。
『もはや、そこにわたしの求める絶対の善たる愛は欠片も残ってなかった』
そうワンドートは述懐しております。
絶対の善。
言い換えれば、愛。
形のないものを求めて、ワンドートは実験を繰り返しました。
恋人関係の男女をさらうこと12組。
夫婦をさらうこと8組。
母親と子供は15組。
年齢もまちまちでした。
10代の新婚夫婦もあれば、長年連れ添った老夫婦の場合もありました。
老齢の母親と中年の息子もあれば、21歳の母親とその赤ン坊の場合もありました。
結局のところ。
ワンドートは20年間もの長いあいだ砂漠での殺しを続けたのです。
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じめじめとした地下牢だった。
わたしは今、まっ裸で天井から両腕を吊るされている。
ありとあらゆる拷問を受けた。
聖職者と名乗る輩が、入れ代わり立ち代わり、わたしを悪魔と罵って罰とやらを与えたのだ。
助けてください!
許してください!
わたしは命乞いをした。
泣きわめていて同情を誘おうとした。
けれども、聖職者どもは「思い知れ!」と残忍に笑って、わたしに痛みを与えた。
やっぱりか、と落胆する。
最後の望みだったのだ。
神の信徒たる聖職者ならば、愛をもって、わたしを許してくれるかもと期待したのだが。
どうやら、この世には絶対の善意はないようだ。
明日、わたしは衆人環視のなかで絞首刑になるらしい。
だが、持ちそうにない。
目を開けているのに、視界が暗くなる。
死ぬのだろう。
わたしは、死ぬのだ。
そう思うと、体が楽になった。
安らぎがわたしを包む。
死。
死。
死。
ああ、これこそが…わたしの求めていた…ぜったい、の……。
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ワンドートは絞首刑になる前に、衰弱からの心臓麻痺で死にました。
この日、聖職の長たる覚聖者は宣言したのです。
『悪魔は滅した』と。
民衆の絶大な支持をうけた覚聖者は、この後、王家を打倒して、歴史上はじめて聖職者を頂点においた国をおこします。
それこそが永遠の愛を謳った国『エヘセン』です。
そう、悪名轟くエヘセン聖国はこうして建ったのです。
みなさんもご存じでしょう?
エヘセン聖国は強力な洗脳で信者を増やすことになるのです。
そして、自国の愛を広げるために、他国と戦争を繰り広げることになるのです。
おっと、話が逸れました。
ワンドートが、どうして絶対の善を求めるようになったのかは謎です。
ですが、ココに面白い書簡があります。
古い書簡です。
ワンドートのことを監視していた内容で、宛て先は当時は地方の新興宗教教祖でしかなかった覚聖者です。
真偽は不明です。
ですが、これが本当の書簡だったとしたら。
ワンドートは洗脳されて操られていたことになるのです。




