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19.滅ぼし:モニ

19.滅ぼし:モニ


鋼紀1350年前後のことです。


当時、ザルスという国でシシー教団なるものが生まれました。


シシー教団は受け身でありながら極めて攻撃的な教団でした。

その教義は『やられたら、死してなお、やりかえす』というものです。


ザルス国の王は、次第に勢力を広げるシシー教団に脅威を感じたのでしょう。

軍団を発して、シシー教団の本拠地を焼き払い、復讐に猛る残党をことごとく殺したといいます。


そんな最中さなか

軍団長が目に入れても痛くないほどに可愛がっていたひとり息子が拉致されます。


その息子こそがモニ。

英雄とよばれながら、のちに『滅ぼし』と軽蔑されることになる凶人です。

頼んだぞ。

9歳の頃から4年間、僕の父として育ててくれた人だった。


僕はナイフを振り下ろす。


任せたわよ。

母として育ててくれた人だった。優しい人だった。


僕はナイフを振り下ろす。


忘れないでね。

姉、だった人。喧嘩をした後は、きまって甘いものを食べて仲直りした。


僕はナイフを振り下ろす。


命をあなたに。

隣りに住んでいる幼馴染の女の子。ずっと好きで、彼女も僕を好きでいてくれたと知ったのは昨日。


僕はナイフを振り下ろす。


やってくれよな。

親友で悪友。いっしょに悪さをしては、いつも2人して大人に叱られた。


僕はナイフを振り下ろす。


僕は、ナイフを、100人の、村人の、知り合いの、同じシシー教に帰依した同胞はらからの、心臓に、振り下ろした。


涙はながれない。

何故なら。


まだ復讐は始まってもいないのだから。

モニが13歳の時。

拉致していたシシー教団の村をたった1人で滅ぼして、父親のもとに帰参します。

憎っくきシシーどもの首を100も獲ったモニは、大々的にたたえられたと言います。


若き英雄の誕生でした。


やがてモニは父親のあとを継いで軍団長となります。

100戦して負け知らず。


モニはザルス国で正真正銘の英雄となっていたのです。


しかし。戦で負け知らずのザルス国は慢心しました。増長しました。

周辺国に敵をつくり過ぎたのです。


鋼紀1372年。

ザルス国は周辺敵国から一斉に攻め立てられ、滅びます。


ザルス国への憎しみは深く、王族や貴族は女子供といえど殺され、民はひとり残らず奴隷として囚われ、大地には2度と人が住めないようにと塩がまかれました。


そしてモニです。

モニは軍団を率いて最後まで抵抗をつづけました。


散り散りになったザルス国の民を糾合しては戦い続け、鋼紀1375年、モニは討たれます。

兵や集まっていた市民は悉くが殉死したそうです。


こうしたモニの活躍は、ザルス国を滅ぼした国々からしたら悪でした。

ですから『滅ぼし』と軽蔑することで英雄視することを防いだのです。

こうして殺人鬼として大全にのせることになったのも、そうした理由からです。


ですが今でも彼を英雄として讃えている人々が少数います。

それが他ならぬシシー教団の信者です。


シシー教の仇敵たるザルス国を地図から消し去り、王族、貴族、市民にあまねく復讐をはたした『滅ぼしのモニ』こそが真たる英雄だというのです。


…まったく皮肉なことです。

モニも地獄で苦笑いしていることでしょう。

6月になってレビューを2ついただきました!

ありがとうございます!

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