2.貧民窟の救世主:チャリオ
2.貧民窟の救世主:チャリオ
先の大戦でほろんだ公国。その公都の貧民窟で暴れまわった殺人鬼こそがチャリオです。
彼は公都の裕福な商家に生まれました。
主な商いの商品は薬品で、その縁でか、三男であったチャリオは医者を目指しました。
学業優秀であった彼は、とんとん拍子で医者になります。
美人の妻をもらい、息子も授かり、チャリオの人生は順風満帆でした。
けれど鋼紀1625年。
あの恐ろしい猛精風邪が公都を襲ったのです。
チャリオは全てを失いました。
美しい妻を。可愛らしい息子を。父を母を、兄弟を。
チャリオは亡くしたのです。
以来、チャリオは家に籠もるようになったといいます。
そうして、始めたのです。
おそろしい人体実験を。
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全てをもっていた。
幸せだった。
それが気づけば、なにも手には残っていなかった。
憎かった。猛精風邪が…病が憎かった。
だから俺は今日も、貧民窟へと足を運ぶ。
臭いゴミ溜めのような貧民窟。
そこへ遣ってきた俺を、連中は神でも現れたように拝む。
それはそうだろう。
ココで俺は無料で薬を配っているのだから。
ゆうに100人は命を救っているはずだ。
だが、その反面。
俺は1000人以上を人体実験で殺している。
全ては猛精風邪の特効薬をつくるため。
仕方ないのだ。
連中だって『ありがとうございました』と最後は手を合わせて死んでゆく。
遺族だって、俺に感謝する。
どうせ放っておけば死んでしまう連中なのだから、俺の良心は痛まない。
今日も風邪で苦しんでいる少女に薬を渡す。
感謝で少女の両親は涙を流す。
少女の病はただの風邪だ。
けれども、今渡した薬はちょっとばかり強かった。
たぶん死ぬだろう。
だが安心してほしい。
少女の犠牲は無駄にしないから。
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鋼紀1649年。
再び公都で猛精風邪が流行しました。
けれども、ある医師のおかげで犠牲はほとんどでませんでした。
その医師というのがチャリオです。
そう。チャリオは遂に猛精風邪の特効薬をつくりだしていたのです。
ですが、その活躍から注目を浴びたチャリオは、貧民窟での人体実験を露見してしまいます。
こうして救世主とされていたチャリオは、一転して殺人鬼となり、1655年に死刑になりました。
チャリオが人体実験で殺した総数は、少ない数では100とも、多い数では万ともいわれています。
しかしながら、チャリオがつくりだした特効薬によって救われた人数は数十万は軽く超えると言われています。