16.吸血鬼:クグリ
16.吸血鬼クグリ
鋼紀1803年。
ついこのあいだの事件です。
山奥のひっそりとした人口50人足らずの村に、その男はやってきました。
都会出の男は村中の話題となります。
ほっそりとしたスマートな佇まい。
黒を基調とした伊達な身形。
陽に焼けたことさえないのではと思わせる真っ白い肌。
そして……血に濡れたような唇。
若い女は誰もが、ついぞ村にいたのではお目に掛かれない男の怪しい魅力の虜となります。
やがて、男は村娘の1人と付き合うようになったのですが…。
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本で見たことがある。
ほっそりとしていて。
黒い高級そうな服を着ていて。
真っ白な肌。
あの男は吸血鬼に違いない!
あたしは、男が引っ越してきてからというもの、ずっと監視をした。
正体を見極めてやろうと、男の後を付いて回った。
「僕が吸血鬼? 君は面白いことを言うね」
男は朗らかに笑ったけれど、あたしは騙されたりなんかしない!
そうして、ある晩。
あたしは村はずれの小屋で、男と、女が、抱き合っているのを見てしまった。
女は…あたしの姉だった。
そういえば近頃の姉はおかしかった。
何処か心あらずだった。
きっと、吸血鬼の魅了の術にかけられたんだ!
あたしは、窓から2人の様子をジッと見ていた。
吸血鬼が姉の首筋に唇を落とすのを……ジッと見ていた。
やがて、吸血鬼は小屋から出てきた。
あたしが覗いていたのを知っていたのだろう。
目が合っていたから…。
「手始めに、君のお姉さんをいただいたよ」
吸血鬼は、からかうみたいに笑って、そうあたしに言ったのだ。
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男は殺されました。
殺したのは、男が付き合い始めた村娘の妹でした。
妹の名はクグリ。14歳でした。
クグリは、男が寝入ったのを確認して、心臓に木の杭を打ち込んだのです。
この事件は痴情のもつれとして処理されました。
遊び人の男が、年端もゆかない娘に手をだした。
そうして嫉妬で殺された。
そう思われたのです。
が。調べるにつれ、大事件となります。
男が大勢の女性を殺していたことが分かったのです。
都会から田舎に来たのも、交際のいざこざから周囲の人間に行動を怪しまれたためだったのです。
そんな男は、田舎でも大人しくしていられずに、村娘に手をだしたのでした。
クグリは捕まった時に言ったそうです。
「あたしは、吸血鬼を退治したんです!」
と。
それが人の口で伝わるうちに、なぜかクグリをして『吸血鬼』と呼ばれるようになっています。
吸血鬼クグリ。
彼女としては、はなはだ不本意なことでしょう。
ちょっと…殺人鬼とは違うかな?
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