13.王妃の為に殺し続けた賢王:・・・・
13.王妃の為に殺し続けた賢王:・・・・
彼の国は現在でも大陸に威勢を誇っております。
なので、国の名も、殺人を犯し続けた王の名も出すことはできません。
そのことをご了承ください。
それでは、話しを始めましょう。
彼の国は、それはそれは小さな国でした。
四方を大国に囲まれ、蝙蝠のようにフラフラと何処付かずの外交をしているうちに、内政にまで四大国から口出しされるような、そんな哀れな国でした。
そのような国が目を見張るほど急成長したのは、賢王・・・・と、王妃によるところが大きかったのです。
王妃は天才でした。画期的ともいえる様々な発明をして国を富ませ、平民に教育を施し、自らが創作した食文化や音楽をひろめて国民に慕われ、新規な魔法技術をもって遂には四大国に抗する軍をもつにいたったのです。
文献によると、王妃は自らを『転生者』と名乗っていた時期があり、何でも他の世界の進歩的な教育を受けた記憶があったとされています。
もっとも、これは破天荒すぎる話ですが…。
このような話がまことしやかになってしまうほど、王妃は時代を超越した天才だったのです。
そうして、常識はずれな王妃を咎めることなく補佐した・・・・は正しく賢王だったのです。
しかしながら、賢王は変わってしまいます。
いいえ、先に変わってしまったのは王妃でした。
王妃が40歳になった時です。
彼女は恍惚症を発症します。
今更でしょうが、恍惚症は記憶障害や認知障害を症状とします。たいてい発症するのは老人です。が、稀に若い人もかかってしまう不治の病です。
王妃は不運にも、40歳という若さにして恍惚症を患ってしまったのです。
賢王はたいそう悲しみました。
進行する王妃の恍惚症を改善すべく、手を尽くし、そうして始めたのです。
死の演劇を。
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婚約者である第一王子に寄り添うのは、愛らしい娘。ヒロインだ。
2人は、わたしを糾弾する。
得意げな顔で、絵空事の罪を並べ立てる。
パーティー会場だった。
大勢の貴族子弟がわたしに注目している。
ゾクゾクした。
ここから、ざまぁ、をするのだ。
わたしは、言ってやった。
「そのとき、わたくしは領地におりましたが?」
これで形勢が崩れる。
いっきにわたしに有利となる。
そうして、恥も外聞もなく第一王子とヒロインが喚き始めたところで、あの人が来てくれるのだ。
「もう、お止しになったほうがいいでしょう」
第二王子。
わたしが大好きな人。
愛する人。
やがて結ばれて、国王陛下となられる人。
あれ? でも、どうしてそんなことを…未来の出来事をわたしは知ってるんだろう?
ゲームの知識だったかしら?
よく思い出せない…。
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パーティーを開いて、王子と娘に王妃を非難させる。
これは、かつて賢王と王妃が若い頃、実際に起きた出来事でした。
これを賢王は幾度となく繰り返したのです。
普段は朦朧としていた王妃の表情が、この時だけは往時の輝くようなものに戻ったからでしょう。
そうして。
王妃の恥を隠すため、パーティに参加した役者や平民は口封じをされました。
1度のパーティーで参加した人数は約30人。
これを賢王は月に1回、開いたとされます。
しかしながら、この殺人劇はやがて民間に広まります。
人の口に戸はたてられないのです。
程なく、賢王と王妃は首を刎ねられることとなります。
市民による、初めての革命でした。
皮肉にも、賢王と王妃とが施した教育で市民が知識をつけたために起きたのです。
さて。
後に行われた解剖で、興味深いことが分かりました。
王妃の脳は、ひどく老いていたそうです。それこそ、人生を繰り返したような感じだったそうです。
頭を酷使し過ぎたのでしょうか?
現在では天才の脳として、彼の国の国立大学に保存されています。