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11.絶世の美女ドワーフ:ボッシュ

なにやらアクセス数が急激に上がってたので、感謝のしるしに1話を投稿します。

ただ、1年ぶりなので読んだ感覚が違っているかもしれません。

11.絶世の美女ドワーフ:ボッシュ


蓬々(ほうほう)と乱れた髪。天元虫を貼り付けたような眉。低い身長に、樽のような体型。そして、なによりも背中から胸にかけての濃い体毛。


まさしくボッシュは、ドワーフにとっての天女のような美しさでした。


鋼紀1506年。


15歳になったボッシュに、男たちが一斉に求婚をします。

パン屋のせがれに流れの傭兵。金鉱を掘り当てた金持ちに、果ては王族まで。老いも若きも、ドワーフの男たちは競って結婚を申し込んだのです。


そんな大勢の求婚者に、ボッシュは条件を突きつけます。


「火竜の心臓を寄越してくださった方の伴侶となりましょう」


破格な要求でした。

火竜の討伐には、それこそ国を挙げて掛からねばならないほどなのですから。


それでも美女を射止めんと、ドワーフの男たちは国を出発しました。


パン屋の倅は父親を伴って。傭兵は最高の武具を身につけて。金持ちは、全ての金を使って命知らずを雇い。王族は騎士を引き連れて。


出発したのです。

火が好きだった。

父親が…男たちが鎚を振るう度に飛び散る火花に目が奪われた。

金属と金属とがぶつかり合う音は、天上の音楽だと思えた。


ドワーフの男たちは鍛冶士だ。


隣りに住んでいるパン屋の子だって、傭兵だって、金鉱を掘り当てた金持ちだって、王族だって、手慰みに鍛冶をたしなむ。


でも、それは男だけ。

女はといえば、薄暗い家で夫の帰りを待ちながら、ちまちまと革に装飾をするのが仕事だ。


ぜったいに鍛冶はできない。

手伝わせてはくれない。


それは女が水の性質で、火の鍛冶神に嫌われているかららしい。


バカバカしい!


あたしは結婚なんてしたくない。

鍛冶がしたいのだ!

この手で鎚をもって、金属に形を与えたいのだ!


そのための火竜の心臓だった。


曰く。火竜の心臓をその身に取り込んだ者は、火の神に愛される。


あたしは、だから、火竜の心臓を欲した。


水の性質の女だろうと、火の神に愛されたのならば。


鍛冶は許されるはずだ!

しかも火の神に愛されたあたしは、求婚も突っぱねることができるという寸法だった。


あたしは結婚なんてしたくない。

ただただ鍛冶がしたいのだ!

鋼紀1508年。


遂に火竜が討伐されます。

ですが、その代償は大きく、おおぜい出発した男たちのうち帰って来たのは10人に満たなかったと言われています。


王族は騎士団もろともに焼き殺され、金持ちは尻をまくった命知らずどもに踏み殺され、傭兵は一太刀も浴びせられずに燃やされてしまったのです。

ただ。パン屋の倅は火竜に飲み込まれながらも腹を切り裂き、見事に心臓を手にしたのでした。


ボッシュはパン屋の倅から火竜の心臓をもらい受けます。


そうして、彼女は消えました。

約束を守らず、姿を消したのです。


あとに残っていたのは体長1メートルほどの火トカゲでした。


怒り狂ったのは、ドワーフの女です。

息子を失った母親。恋変わりした裏切者とはいえ、かつて愛していた男を失った愛人。

女たちは、約束を守ることなく火竜の心臓という宝物をもって姿をくらましたボッシュに燃えるような憎悪を抱いたのです。


その怒りは、火トカゲに向けられ、無残にも火トカゲは殺されました。

今でもドワーフの女性は火トカゲを目にすると一目散に殺します。

それは、火トカゲをボッシュの生まれ変わりだと信じているからです。


また、男たちがほとんど居なくなったことで、ドワーフの女たちは鍛冶をするようにもなりました。

技術を伝えるためには、古臭い迷信など守っていられなくなったのです。

おかげで女性ならではの革新的なデザインが生まれ、ある識者は鋼紀1508年こそがドワーフにとっての転換期だったと著作に記しているほどです。

実際、かの名槍『輝ける湖』はドワーフの女性が打ったものです。


さて、ここまで話してボッシュは殺人鬼ではないとお思いでしょう?

わたしもそう思います。

ですが、ドワーフの女性は現代でもボッシュを希代の悪女、殺人鬼として言い伝えているのです。

それは大勢の男を死地に送ったからでしょう。


ですが、わたしはボッシュが可哀想でなりません。

きっと彼女は結婚したくなかっただけだと思うからです。だからこそ、無理無茶な要求を付きつき、男たちが引き下がるのを期待したと、そう思うのです。

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