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1.獣人の耳をあつめた女:リリアーネ

1.獣人の耳をあつめた女:リリアーネ


さて、皆様は殺人鬼ときいたときに誰を思い浮かべるでしょうか?

迷宮の殺人鬼とよばれたマッシュ?

それとも娼婦殺しのガランシェール?

正体不明の赤マント?

他にも有名な殺人鬼はおりますが、獣人の皆様にかぎっていえばリリアーヌでしょう。

何せ、いまでさえ『悪い子はリリアーヌがさらってしまうぞ』と子供は脅されるのですから。


リリアーヌはさる獣人国の大貴族の長女として生を受けました。

けれども、彼女は公式の記録には記載されておりません。


そう。産まれた瞬間に存在を抹消されたのです。


何故なら、リリアーヌには耳がなかったから。


獣人は体毛の薄い濃いはあれど、必ずある身体的特徴があります。

それが尻尾と獣の耳です。


リリアーヌには尻尾こそあれど、獣人の耳がなかったのです。


尻尾のおかげでリリアーヌは殺されることも捨てられることもありませんでしたが、母親は奇形を産んだとして実家に帰され、そこでひっそりと死んだとされています。

おそらくですが、醜聞を恐れた実家の意向で殺されたのでしょう。


残されたリリアーヌもまた、離れに押し込められておりました。

産まれてから成人した15の年齢まで、決して広くはない離れで、外に一歩も出ること叶わずに生きていたのです。

窓は目張りされ、陽の光はちいさな天窓からしか差さない。

食べ物はメイドが運んでくれるけれど、彼女たちは汚物を見るような目をワタシに向けるだけで、ひと言も喋ることなく立ち去る。

読み書きは、母についてきたという侍女がおしえてくれた。

けれど、彼女はある日、突然こなくなった。

10歳の時だったと思う。

不憫だ不憫だと口癖のようにワタシを憐れんでくれていた老齢の侍女が嬉しそうに『明日までの我慢ですから』そう言って立ち去って、居なくなった。来なくなった。

寂しくて泣くワタシに、食事を運んできたメイドが吐き捨てるように言った。

『馬鹿なばあさんは、殺されたわよ』

と。

なんで!なんでなんで?

『あんたを逃がそうとして、失敗したのよ』


ワタシはそれから5年をひとりぼっちで生きた。


その間、毎日のように考えていた。


『ドウシテ、ワタシは、ミンナとチガウのダロウ?』


耳がないから。

メイドたちはそう言って笑う。嗤う。


だからワタシは決めたのだ。


『ミミをトリモドソウ』と。


15になった、その日。

ワタシはテーブルと椅子を足場にして天窓から外へと出た。


月が、まぶしいほどに、輝いていた。

リリアーヌが初めて殺人を犯したのは15歳だったとされています。

被害者は彼女の世話をまかされていたメイド。


耳を切り取られた絞殺死体が、貴族邸の庭に転がっていたとされています。


その第一の被害から、10日後に2人目の死体。

これもまた貴族邸にはたらくメイドで、庭に無造作に放り出してありました。


そしてまた10日後に3人目の被害者。

4人目も、5人目も10日後に。


150日で総勢15名が被害にあいました。


何故に10日毎だったのか?


『月が10回のぼると、せっかくの耳が臭くなってしまったから』


捕まったリリアーヌは、そう答えたとされています。


そうして、こうも言ったとされています。


『耳がなくなったら可哀想でしょ? だから、みんな悲しくないように殺してあげたの』


と。


リリアーヌは憎しみをもって殺害に及んでいたのではなく、慈悲をもって死をあたえていたのです。


鋼紀1708年。

リリアーヌは異母弟によって捕まり、その日のうちに処分されました。


秘密は洩らされぬよう厳重な緘口令がしかれましたが、それでも人の口に戸はたてられず、こうしてリリアーヌの凶行は人口に膾炙されております。


リリアーヌの事件は、たった100年前。

現在では、リリアーヌのように尻尾や獣耳のない事例が珍しくないことは知られています。

奇形ではなく、血筋に人間との混血がいたことによる先祖返りということも証明されています。


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