1.こうして英雄譚は終わり、物語は始まる(血塗れメアリの侍従長)
どうもー。十七世紀のイギリス、エリザベス女王の時代よりやってきました血塗れメアリの侍従長です。
今回は僕が書かせていただきます。
……言っても仕方のないことだが、あえて言わせてもらおう。
登場人物だけで、どうしろってんだ、マジで!
『ワアアアアアアアアァァァァァァ!!!』
大勢の観衆の声が耳朶を打つ。
この式典のために王城の周囲に詰めかけた、王都に住まう国民たちの声だ
オレの、魔王を倒した、勇者の凱旋のために。
その声を全身に受け、オレはグッと唇を噛んで壇上へ上がる。
目の前には、豪奢な格好をしたひげもじゃのオッサン。この国の国王だ。
気持ち悪いぐらいの満面の笑顔だ。吐き気がする。
「勇者フェルトよ、よくぞ、よくぞ魔王を倒し、帰ってきてくれた! そなたの活躍のおかげで、皆が幸せになる。よくやったぞぉ!」
そこでもう一度、今度はさっきよりも大きな歓声が上がる。
「そなたには儂の名において、冒険者の最上位、SSSランクの座を進呈しよう」
「……ありがとう、ございます」
奥歯を噛み締め、今すぐ殴り掛かりたい衝動を必死に堪える。
――ふざけるな。なんで、そんな顔ができる。なんで、そんなことが言える。
幸せ、だと。それを得るためだけに、何人の人間が犠牲になったと思ってる。いくつの街が滅び、どれだけの笑顔が失われたと思ってる……!
思わず、腰にかけた剣に手を添える。
十年前、オレがこの世界に転生してきたとき、神々から授かった伝説の聖剣だ。
この十年間、数えるのも馬鹿らしいほどの死線を、共に潜ってきた相棒。
変わらない感触を手にして、俺は必死に耐え忍ぶ。
この、下らない茶番から。
――ヴァン、クラウド、バッツ、エアリス、ユーナ、なあ、皆。
オレを、許してくれるか? お前らを犠牲にして、オレだけ生き残って、こうして歓声を浴びている。
そんな、傲慢を、許してくれるか……?
§
「……ずいぶんと浮かない顔だな?」
「……そうもなるさ」
オレに与えられた王城の一室。目に毒なほど豪華に飾り付けられた部屋のベッドで寝そべりながら、声に返した。
「……あの戦いで、皆、死んでいった。オレ以外は、皆、それぞれ、いろんなところで、いろんな死に方で」
「だから、許せないって? 自分が」
「…………」
さっきからオレと話している相手はの名は、ジェルト=タイキス。
浅白い肌に細身ながらもしっかりと筋肉のついたしなやかな短身。短めの黒髪を無造作に流す、彫りの深い顔立ちの美男子。
そして、背中に生えた、二対の黒い翼。
これは、ジェルトが、魔族であることの証明だ。
かつて、魔王の本拠地である魔王城で出会い、死力を尽くして戦い、そして今は、俺の親友となった男。
コイツとの関係は、たぶん、ずっと続くだろう。だからオレも、全部安心して話せる。
「……なあ、フェルト。お前、これからどうする?」
「……旅に出ようかと思ってる」
「旅? どこに」
「どこでもさ。せっかく別の世界に来たのに、観光すら満足にできなかったからな」
そう、自嘲気味に呟いて、ベッドから起き上がり、備え付けられた姿見の前に立つ。
そこには、簡素な布の服に身を包んだ、片目が隠れるほどに長い銀髪と、少し目つきの悪い碧眼を持つ一人の男が映っていた。
しばし無言でそれを眺め、傍らに置いてあった剣を手に取る。
「お前はどうするんだ、ジェルト。何なら、ついてくるか?」
「いいのかよ?」
「ああ。どうせ、アテのない旅だ。同行者の一人ぐらいいてもいいだろ」
「……そうかよ。なら、ありがたく同行させてもらうぜ」
ニヤッと笑うジェルト。
オレも同じような笑みを返して窓のほうへ向かう。
それを開け放って、窓枠に足をかけると、ジェルトが苦笑しながら言ってきた。
「おいおい、せめてドアから出ろよ」
「そんなことしたら、国王に見つかっちまうさ。そんなのは御免だよ」
一顧だにせず、躊躇なくそこから飛び降りる。
後ろからジェルトもついてくる。
地面まであと一歩というところで、オレは風の魔法を使って着地する。
すぐに翼を広げたジェルトも隣に立つ。
もう一度笑いあい、王城直下の街中を駆ける。
「まずはどこ行く?」
「さって、どうしようかね」
「行き当たりばったりか?」
「そうなるな」
――こうして英雄譚は終わり、物語は始まった。
……な、何とか書き終えました。
あと、は、任せた、ぞ……、還元されし……酸(以下略)。