17.蘇生は出来ない(黒い白鳥の比喩)
どうもー黒い白鳥の比喩です。
【幸せの背景は不幸】という言葉がありますが、この話にぴったりだと思いませんか?
魔王が倒されて、幸せになった国王たち、でもその裏では国王たちが幸せになる為に人が沢山死んでいる訳です。(これが分からない人は二部を読んでください)
······まあ、なんというかそれだけです。
どうぞー17話です
意識が解凍され目が覚める。
ジェストに助けてもらったのか。本当にオレは弱いままだな。
ここはどこだろうか。オレは辺りを見渡す。······どうやら、遺跡に着いたみたいだ。ジェストが背負って運んでくれたのだろう。
夜は明けていた。空に真っ黒な太陽が輝いている。
「おお、起きたかフェルト」
ジェストはどこからともなく現れて、オレの顔を覗きこむ。
「あり、······お礼は嫌いだったんだよな」
「ああフェルト。覚えてたのか」
ジェストは深呼吸をして言った。
「フェルト、お前はもっと強くなれ。お前はこのままでいいのか? いいか、次からは俺は助けない。絶対にだ」
それがお前の為になるからなと付け足す。
このままではいけないことは分かる。だが、どうしたらいいんだ。
「受け入れろ。セリスの死を乗り越えろ」
でも、そんなことをしたら、オレの中のセリスの順位が下がってしまう。セリスを忘れていまいそうで、怖い。
「ああー! もうめんどくせぇ。そんなだから、お前は弱いままなんだ」
お前は弱いままなんだ。お前は弱いままなんだ。
ジェストの言葉が身体に染み込む。
そんなことは分かっているんだ。それでも、それでも、オレが弱いままでも、セリスを忘れるなんてことはオレが許せない。
オレの罪だ。セリスを殺したのはオレの罪だ。彼女の死を過去にすることなんてこの身が裂けても出来ない。
「そうだ、蘇生しよう。セリスを蘇生しよう」
オレは立ち上がる。セリスを蘇生して、罪を償うんだ。オレの旅はオレの二度目の人生はセリスを蘇生させたときにやっと始まる。
「何言ってんだっ!」
ジェストはオレの胸ぐらを掴み、押し倒す。
「······ふざけるなよ。お前はまたそうやった逃げるのか、蘇生なんて生命の冒涜だ。許してはいけない」
逃げる。何のことだ。オレはそんなつもりは一切ない。セリスを蘇生させて、罪を償うんだ。
「オレは逃げている訳ではない。蘇生させて罪を償うんだ」
「それを逃げだと言っているんだ。お前はセリスに生き返って欲しいだけだろう。俺は何度も言っている。セリスの死を受け入れろと」
「お前は悲しく無いのか? セリスが死んでも何とも思わなかったのか?」
核心をつかれた。そうだ、オレはセリスに生き返って欲しいだけなんだ。
でも、それの何が悪い?
オレはセリスを愛している。愛しているセリスに隣にいて欲しい。当然の欲だろう。
オレの目から涙が流れ出る。
「オレはセリスを愛しているんだ······」
ジェストはオレの胸ぐらから手を放し、ため息をついてから、言った。
「いいか。まず、蘇生は完全には成功しない。二日前くらいに蘇生したビザルは転生族だから上手くいっただけなんだ。人やエルフを蘇生させるとゾンビみたいになる。······俺だって蘇生させたい仲間は沢山いるんだ」
ジェストは静かに重く言う。
「でも、あいつらは俺の為に、俺の未来の為に、死んだんだ。だとしたら、あいつらの分まで俺が生きるしかないだろ。あいつらの分まで苦労してあいつらの分まで幸せになるしかないだろ。お前が本当にセリスのことが好きなら、強くなれよ。セリスの分まで幸せになれよ。そうじゃなきゃ、天国のセリスは泣いてるぞ」
······。
············。
··················。
「ああ、······ああっ。ああ。オレ、セリスの分まで幸せになる」
セリスは死んだ。オレが殺した。
涙が流れる。その涙は重力に従って地面を濡らす。それは異世界に来てから初めての心地よい涙だった。
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オレが泣き止むまでジェストは待ってくれた。
「もう大丈夫か?」
「ああ、ありがとう」
ジェストはお礼をされるのが嫌いだ。でも、嫌がられたとしてもお礼を言いたかった。
「そうそう、クリスには全部伝えたぞ。クリスも全てを受け入れた」
やはりオレがあの四人の中で一番弱かったな。
「さあ、世界の謎を解きに行こうぜ」
ジェストはオレに手を差しのべる。オレはそれを掴んで言った。
「ああっ! 行こうぜ」
そして、遺跡の探索を始めた。
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「ジェストー。お姉ちゃんジェスト成分が足りなくて死ぬところだったよ」
魔王がジェストに抱きつく。
「ちぇっ、逃げられると思ったのに」
ジェストは何とか引き剥がそうとしていた。
オレはこいつらといるのが幸せだ。セリスのときみたいなことはしない。オレがみんなを守って、みんなで幸せになるんだ。
「あのー。私ハブられていませんか」
「まさか、そんなことはない」
クリスがオレの肩をちょんちょんつついてくる。
「お姉ちゃん、死んじゃったんですね」
「ああ、オレが殺した。······恨んでいるか?」
クリスの答えを聞くのが怖い。オレはうつむきながらクリスの次の言葉を待った。
「恨んでませんよ。お姉ちゃんが長い間お世話になりました」
「そうか」
安心した。オレはクリスから目を放し、辺りを見渡す。
「なあ、ここって、······〔炎 水 木 光 闇ダンジョン〕じゃないか」
「おい、フェルトここ知ってんのか?」
「ああ、ビザルと戦った所だ」
ビザル、強敵だったな。
ビザルビザルって、蘇生されて復活したあのビザルじゃないか。
「ンフフフ、おうフェルト、ここで会ったが百年目。ぶっ殺してやらあ!」
気付かない内にオレの後ろに立っていたビザルが、オレに向かって拳をつき出す。
「っビザル!」
オレは何とか避ける。残念だったな。
セリフがもう少し短かかったらオレは死んでいた。
「相変わらずハングリーな戦闘狂だな。みんな、行くぞ!」
「おう相棒」
「ジェストに手を出す奴は全員殺す」
「はい、任せてください」
オレは、否、オレたちはビザルと対峙する。そしてこれから退治する。
ありがとうございました。
次は還元されし酸化レニウムさん(こいつが一番厨二)です。