16.不幸の拡散する闇夜(黒い白鳥の比喩)
どうもー、新参者の黒い白鳥の比喩です。
いろいろとグダグダすぎてこれに混ざったことを後悔しています。
カンフル剤なれればと思います。
よろしくお願いします。
あと、話のタイトルは気にしないでください。前回厨二全開の血塗れメアリさんに、厨二と言われたので、あえて厨二っぽくしただけです。
あの後、オレはクリスにリンチにされ、ミンチにされ、メンチカツにされて食われた。嘘だけど。
本当はあの後、土下座して謝ったら赦してくれた。エルフ族はみんな優しいのだ。オレの恋人、セリス=クルー=ドルスランもとても優しかった。でも、オレはセリスを殺した。あの状況、オレがセリスを殺すしかなかった。仕様がないことだと分かっているけど、今でも後悔している。
「······ダメだ。忘れよう」
みんなに聞かれないように小さな声で呟く。
忘れられないことを、忘れてはいけないことを、オレが一番知っているのに呟く。結局のところ意識を逸らしているだけだ。有り体にいえば現実逃避だ。こんなだから、十年間剣を振り続けてもオレは弱いまんまなんだろう。
オレは思考のチャンネルを切り替えた。これから何処に行こうか。
「なあ、フェルト。これからどこに行くんだ?」
ジェルトは鬱陶しそうに、引っ付いてくる魔王を引き剥がしながら言った。
「何にも決めていないって言っただろう」
「じゃあ、さっきの遺跡に戻ろうぜ」
「どうして?」
「この世界の謎に近づけそうなんだ」
オレは皆にそれでいいか聞いてみた。
「私は良いですよ」
「俺はジェルトと一緒ならどこにでも行く」
皆の承諾を得たところで、オレ達はあの遺跡に歩いて向かうことにした。なんだか嫌な予感がする。まるで、ビザルと対峙したときのような······。まあ、気のせいだろう。
日は沈んでいて、もう夜だった。夜特有の暗闇と静寂が辺りを支配している。魔界には真っ赤な月がある。しかし、新月なのか今日は月が見えなかった。なので、本当に何も見えない。魔族であるジェルトと魔王、魔界の精霊全てとコンタクトが取れるクリスは別だが。
あれっ、何も見えて無いのはオレだけなのか。もしかしてオレがこの中で一番下なのか。
オレは目に涙を溜めながら、暗視の魔法を自分にかけた。
「ジェルトさんは何の為に旅をしているのですか?」
クリスはジェルトの前に回り込み、下からジェルトの顔を覗きこみながら聞いた。
そういえばオレ、クリスのフルネームをまだ知らないな。
「この雌犬が! ジェルトに近づく奴は全員消してやる」
「姉ちゃん、頼むから止めてくれ」
魔王はシャーシャーと言いながらクリスを威嚇をした。クリスが犬だったら魔王は猫だな。
そういえばオレ、魔王の名前をまだ知らないな。
「······ジェルトがそう言うなら」
魔王は威嚇を止めた。その代わりジェルトは私の物だ、とでも言うように魔王はジェルトに抱きついた。そんな魔王をジェルトは完全に無視して、クリスの質問に答えた。
「この世界の秘密を解き明かしたいのさ」
「秘密なんてあるのですか?」
「ああ、世界は広いからな」
ジェルトは魔界の闇夜をを見上げた。
「それで、そのヒントが今から行く遺跡にあるらしいんだよ」
オレはここぞとばかりに会話に混ざろうとする。
「へえ、そうですか。魔王さんは?」
「お前みたいな雌犬からジェルトを守るためだ」
魔王はジェルトに引っ付いたまま言った。
「姉ちゃん、いい加減離れろ」
魔王は口を尖らせた。どうやら、離れる気は無いみたいだ。
「怒るぞ」
ジェルトは魔王を睨み付ける。魔王は名残惜しそうに離れた。
「フェルトさんは?」
「腐っている国に嫌気が差したからかな」
「そうですか」
こんなのは言い訳だ。オレは現実から逃げたいだけなのだ。
「クリスはどうしてなんだ?」
クリスは俯く。
「言いたくないなら言わなくていいんだぞ」
クリスは顔を上げた。クリスの目に決意を感じた。
「お姉ちゃんを探しているのです」
クリスのお姉ちゃん······。
脳裏にオレ恋人だったセリスの顔がちらつく。
「なんて名前なんだ? フェルトが知っているかも知れない」
ジェルト、なんでそんなことを聞くかな。
オレは知りたくない。でもここは知らないといけないところだった。
いつまでも現実から逃げていたらダメだ。
「セリス=クルー=ドルスランです」
頭を鈍器で殴られたような感覚に陥る。
オレの恋人だ。セリス=クルー=ドルスランはオレの恋人だったエルフだ。
僕は溢れてくる涙を隠すようにそっぽを向いた。
「数年前、魔王を倒しに行ったきりなんの連絡も寄越さないんです。私ずっと待っているのに」
セリス=クルー=ドルスランはもう死んだ。
「本当になんの連絡も無いから、私が迎えに行くことにしたんです」
セリス=クルー=ドルスランはオレが殺した。
「本当に手のかかる姉です。多分今頃、どこかのダンジョンで迷って泣いているにちがいありません」
オレは耳を塞いだ。
いやだ、もう聞きたくない。聞きたくない。
耳を塞いでも音はオレの身体の中に入りこんでくる。
聞きたくない。
オレは耳をひきちぎろうとする。
刹那、オレの身体が軽くなったと思うと意識が暗転した。
ジェルトが助けてくれたのだ。
嗚呼、またオレは現実から逃げるのか。
ありがとうごさいました。
次はひやいこたつさんです。