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第048話 馬車の乗り心地

 ドワーフ達の護衛を終え、『鉱物採掘遺構(ギンヌンガ・ガップ)』から地上へと戻ってきた。行きと違って帰りはずっと(のぼ)り坂だったので、重い荷物を背負うエルノアは大変かと思ったが、大した疲れも見せなかった。なだらかな坂だったのもあるが、足取りが軽かったのは本人の力強さに()るところが大きい。


 吹き荒れる風の大地にいつまでもいる理由はなく、すぐさま『ゲート』に向かい、帝都へ戻る。午前中の帝都は、行き交う人々で埋め尽くされていた。すぐ近くの冒険者ギルドに到着し、エルノアのバックパックから魔水晶だけが入った布袋を側面から取り出す。


「思ったより結構取れてたな。一体、いくらになるのやら」


 換金カウンターに行き、換金してもらう。布袋ごと渡した場合は、その布袋に硬貨を入れて返してくれる。こうすれば、周りから金額を見られずに済むわけだ。本当に正しい額なのか確認することはできないが、そもそも魔水晶が一ついくらになるのも冒険者側が判断することはほぼ無理なので、調べる意味もない。税金のようなものがあり、本来貰えるはずの額からいくらか引かれているらしいのだが、あまり深く考えても仕方が無いので気にしないでおく。


「さて、今回の収入は……?」


 これが結構楽しみである。貰える額が大きいということは、それだけの魔物を倒したということなのだから、自分の成長の物差(ものさ)しにもなる。

 冒険者ギルドの端にあるテーブルで、なるべく人に見えないようにして数える。


「ええっと……二万三千(ギャラル)ですね」


「おお、上出来だな! でも四人で割ると一人五千ちょっとか」


「ま、そんなもんよね。数は多かったけど、質が悪かったし」


 五百Gの価値がある金貨を十枚ずつ、グラドリーネとグリムに渡す。グリムは、パーティ外だとか何とか言って受け取ろうとしなかったが、拒否すると連れて行かないというと素直に受け取ってくれた。今後も、きちんとお金は受け取ってもらうつもりだ。


「俺の分も十枚貰って、と。後はエルノアが全部取っといてくれ」


「えっ、どうしてですか?」


「何だかんだ、飯とか生活用品を買ってもらったりしてたからな。これからも頼むことになるし、少し多めに渡すことにする。それで足りなければ追加で渡すから」


「でも、夕食などはいつもヒロトさんが払ってましたよね。それを考えたら、やはりヒロトさんが貰うべきでは?」


「いや、あれは俺が払いたくて払ってるだけだから問題ないよ。基本的に、稼いだ金額はなるべく均等に渡すことにする。その金は各自で自由に使ってくれ」


 パーティとして稼いだ金は、均等に分配する。こうなると、思っていたよりも稼ぎが少なく感じる。あまり弱い魔物ばかり狩っても、成長しなければ生活も良くならないということだ。


 エルノアが持ち帰った鉱石と魔石は、一旦グラドリーネの倉庫に預けておく。時間があるときに使い道を考えよう。


「さて、丁度良い時間だし昼飯にするか」


 たまには違う場所で食べようかとも思ったが、探している時間もないのでいつもの酒場、『黒猫通りの迷宮(てい)』に足を運ぶ。まだ昼前だが、ちらほらと冒険者らしきパーティが既に食事を始めていた。

 四人掛けのテーブルに着き、鶏の唐揚げを含むいくつかの料理をエルノアに頼んでもらう。どこか和風な食事の数々に舌鼓(したつづみ)を打ちつつ、飯に食らいつく。


「また唐揚げ頼んだの。あんたも好きねえ」


「そういうリーネが一番食ってるから!」


 我先にと、口いっぱいに唐揚げを頬張る。美味いものは何度食べても美味い。


「この店って、ビールあるのかしら?」


「昼間からビール飲むつもりか?」


「今は飲まないわよ。夜また来るなら、頼もうかなって」


 にしても、この世界にも『ビール』があるんだな。次の日に影響がない程度なら、飲んでもいいかもしれない。もし『ビール』が俺の元いた世界と同じものを指すなら、やはりアルコール入りで、成人でないと飲んではいけない、といったルールがあるんだろうか。グリムやエルノアは、飲んでも良い年齢なのだろうか。

 ま、どうでもいいことだな。命のやりとりが日常的に行われている世界に来たんだ、元いた世界の法令を遵守(じゅんしゅ)しても仕方が無い。くだらないことを考え始めた頭を意識的に振って、食事に(いそ)しんだ。


「昼からは運搬の護衛よね。暇そうな仕事だわ。食休みには丁度良いけど」


「護衛っていうからには、魔物との戦闘があるんだぜ。しっかり腹ごしらえしとかないとな」


 ◇◇◇◇◇◇


 昼飯を食べ終え、若干の休憩の後に商業ギルドへとやってきた。少し早いかもしれないが、遅れるよりはいい。ロビーの椅子に腰かけ、次の依頼主であるドワーフ族の女性『メグシャ』さんを待っていた。ほどなくして、建物の外に何か大きな物が近づいてきたかと思うと、入り口から茶髪のふくよかな女性が顔を見せる。


「やあ、あんたたち。ちょっと早いけど、準備ができてるなら行こうか」


「はい。よろしくお願いします」


 外にあったのは、縦に二頭ずつ並んだ馬に引かれた大きな馬車だった。トラックのような荷台があるわけでなく、天井がついた大きな箱を引っ張る形になっている。これなら、雨の中でも荷物が濡れることはなさそうだ。

 中は比較的広く、いくつかの木箱があるくらいで他には何も積んでいない。床に座るものだと思っていたが、中には狭いクッション付きの腰掛けが右の壁側に設けられており、外を見るための窓も用意されている。華美な装飾こそないものの、丁寧な作りの馬車にワクワクさせられた。


「さ、入って席についとくれ」


 左の側面には扉が付いており、後ろに回り込まずとも出入りが可能だった。右の側面に取り付けられたシートには電車のようにクッションが付いているおかげで、尻も痛くなりにくそうだ。

 全員が乗り込み、馬車が走り出す。速度こそそれほどでもないが、自分の足以外で移動する手段というのは感動するものだ。商業ギルドからすぐの『ゲート』へ馬車ごと入り、光に包まれると、新たな町『スピレングルト』へ到着した。


 ヘイムダル王国や帝都ヴェラチュールと比べると、道が広くて人は少ない。武装した冒険者もあまり見かけないし、行き交う馬車が目立つところを見ると、商人が多いようだ。


 そのまま町を出て広い土の道を進む。心地良い草原が広がっており、魔物の姿はない。


「カルロフの村まで、一時間くらいですよね。魔物が出るのはだいぶ後ですか?」


「そうだねぇ。途中、森の間を通るんだけど、そこで襲われることが多いんだよ。道自体は広いけど、森は見通しも悪いし隠れるには絶好の場所だからね」


 今のところは、問題ないということだ。森に近づいたら、いつでも外へ出られるようにしておく必要がある。馬車自体は頑丈そうだが、馬がやられてしまったら大問題だ。


「リーネ。森が近づいたら、メグシャさんの隣に座って警戒して欲しい。敵が現れたら俺は扉から出る。エルとグリムは後ろから出て応戦してくれ」


 三人から「わかりました」「わかったわ」「わかった」という返事をもらい、とりあえずの作戦は立てた。


 外の景色を眺めながらしばらくすると、森が近づいてきた。木々が道を避けるように立ち並び、自然の門を成している。ここからは、森を抜けるまで気が抜けない。


「メグシャさん。森を抜けるまでどれくらいかかりますか?」


「十分から十五分ってところかな。そこさえ抜ければ、後は大丈夫なはずだよ」


「わかりました。よし、みんな準備をしてくれ」


 馬車が森の道に入った。馬車二台分くらいはある幅の広い道の真ん中を通っていく。対向から来ても、どちらかに寄れば余裕で通れるほどの道ではあるが、森からの距離は短い。警戒を怠らないよう、外の様子を注意深く(さぐ)る。いつ魔物が出てきてもおかしくない、深い森だった。


「あたしゃ、馬を守る防御魔法くらいしか使えんのでな。魔物の相手は任せたよ」


「わかったわ。魔物は私たちに任せといて」


 メグシャさんの武器はクロスボウのようだ。その場にいながら、援護射撃してくれそうだが、あまり期待はしないでおいたほうがいいだろう。


 緊張の時間が続いたが、あれから十分ほど何事もなく経過していた。このまま森を通過してくれれば良いのだが、進むごとにどこか不穏な空気が流れてくるのを感じる。


 悪い予感が的中し、森からいくつかの影が姿を現した。グラドリーネが「敵よ!」と叫びながら、馬車から飛び降りて『何か』を斬りつける。正体を知る前に馬車を飛び出し、森の色に溶け込む影を攻撃した。


「ゴブリンの群れだ!」


 深緑色をした人型の魔物、ゴブリンだ。背丈も低く、痩せた体をしている。ミーミル大聖堂では、こいつらをこれでもかというほど倒していたので、何も恐れることはなかった。

 こん棒やナイフを持つゴブリンだが、グラドリーネはもちろんのこと、エルノアも長いリーチのハンマーを持つのでそう苦戦することもないだろう。念のためグリムも一緒に行動してもらっているし、心配はいらない。


 馬が攻撃されないようゴブリンを蹴散らす。いつの間にか魔法を使っていたようで、馬車全体が茶色の薄い光の(まく)で覆われていた。メグシャさんの防御魔法だろう。


 ペースを落としつつも歩みを止めずに森を進むと、道を塞ぐように森から影が二つ飛び出してきた。赤褐色(せきかっしょく)の肌を持ち、二メートルから三メートルほどもある人型の魔物。


「オークよ!」


 急いで馬の前に立ち、オークと相対(あいたい)する。ゴブリンと同じく(みにく)い顔つきだが、肉体はかなり筋肉質で力が強そうだ。顎が前に出ていて、下の歯が二本だけ牙のように突き出ている。手には人間ほどの大きな棍棒(こんぼう)を持ち、動きもゴブリンやトロールより素早そうだ。


「あれは強いのか?」


「まあ、一般的にはそこそこかな。あんたや私なら瞬殺できるでしょうね」


「なら、右のやつはリーネに任せるぜ」


 馬が攻撃されたら、作戦失敗、敗北だ。ここは迅速に処理をするのが最善だろう。


 槍を強く持ち、低く構えながら駆けだす。二体とも同時に巨大な棍棒を振り回してくるが、俺たちからするとその動きは(にぶ)いものだった。足を止めて後ろに跳び、回避する。叩きつけた衝撃で、地面に大きなへこみが生じるが、その程度のようだ。バエルとの死闘を繰り広げた今の俺にとっては、なんてことのない攻撃。


 隣のグラドリーネが、振り下ろした棍棒を駆け上がり、脳天を叩き割る一撃を加える。相変わらず、力も素早さも並みではない。頭を砕かれれば大体一撃で死ぬあの技は、人型には効果的で、驚異的だ。


 俺も力には自信があった。隣のオークが倒れるより前に、軽く跳びあがって槍で巨体を縦に斬り裂く。槍の先には剣のような刃が付いたこの武器(ガヴァレリスト)だからこそ、斬り裂く攻撃も楽に行える。

 頭頂(とうちょう)から股下(またした)まで一気に斬り抜けると、赤い巨体が真っ二つに割れる。体が塵と化し、霧散すると、赤い魔水晶が地面に転がった。


 周囲を見渡し、ゴブリンの気配が消えていることを確認する。馬車の後ろや側面を守っていたエルノアとグリムも無事で、馬車は傷一つつけられなかった。馬車へ素早く乗り込み、スピードを上げて深い森を駆け抜けていった。


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