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第043話 宿屋の倉庫

 エルノアを連れて、再び冒険者ギルドに向かう。グリムとグラドリーネは、それぞれ単独で情報収集に出てもらった。グリムは、俺たちのような一般冒険者が入れないような場所にも出入りできるようだし、外には出ない特殊な情報を得るのはそう難しくないだろう。グラドリーネも元々は単独(ソロ)で活動していた冒険者だから、情報の収集には一日(いちじつ)(ちょう)がある。

 辺境の生まれと、この世界に転生してまだ五日目の男が単独行動で情報収集は無茶が過ぎる。戦闘面はともかくとして、冒険者としては二人合わせても一人前とは言えない。


「リーネとはうまくやっていけそうだな」


「はい。エルフって気難しい人ばかりだと思っていましたが、リーネさんはとっても気さくな方で良かったです」


 確かに、初対面のときは冷徹(れいてつ)高飛車(たかびしゃ)な美人って印象だったしな。あんなに大飯食(おおめしぐ)らいで良く笑うやつだとは(つゆ)ほども思っていなかった。


「リーネさん、以前はエルフの女友達二人と三人でパーティを組んでいたみたいです。理由(わけ)あって解散してからはずっと単独(ソロ)だったって」


「パーティを解散する、か。何か余程(よほど)のことが起きたんだろうな。いずれ、それについてもそれとなく聞いてみるか」


 誰にだって言えない、言いたくないことはある。単独で冒険をしていたことも、何か特別な理由があってのことだろう。無理に聞き出すつもりはないが、内に抱えているものがあるなら解決してやりたい。


「俺のこと、何か言ってたか?」


「え~と、馬鹿正直で、何でも言うこと聞いてくれるから楽だって言ってました」


「ま、そんなところだと思ったよ……」


 ダンジョン探索でも何度か(あご)で使われたことを思い出す。いずれの状況でも、彼女の指示が正しかったのだからぐうの音も出ないが。


「でも、そこが良いとも言ってました。みんなと食事をしたのがすごく楽しくて、ヒロトさんも真っ直ぐに向かって来てくれたから、受け入れることにしたって。それから、戦闘でもすごく活躍して頼もしかったって。ヒロトさんのことを語るリーネさんの表情、まるで恋する乙女みたいでしたよ?」


 顔が熱くなるのを感じる。まさかそんなことをエルノアに言うとは、グラドリーネもだいぶ心を開いてくれているようだな。そして、ひたすらに照れ臭い。


「あ~! ヒロトさん、顔真っ赤ですよぉ?」


 わざとらしく下から顔を覗き込んでくる。そういうことを言われると、余計に顔が赤くなってしまう。褒められたりするのは慣れていないし、俺はすぐ顔に出てしまうタイプの人間だから見ないで欲しい。


「恥ずかしいんだから、こっちを見るな!」


 エルノアの背中に回り、両肩を押して歩く。こうすれば顔は見られないで済む。振り返る度に顔を正面に向けさせながら、早足で冒険者ギルドへ向かった。


 ◇◇◇◇◇◇


 顔の火照りが冷める頃、冒険者ギルドに到着した。壁一面に(もう)けられた幅広の掲示板を眺めると、かなりの数の依頼書が張り出されていた。今は丁度昼頃だから、依頼も増えている。朝、昼、そして夕方頃が依頼の最も増えるタイミングだという。報酬の額を見てみると、一番安くて千(ギャラル)くらいだ。上を見れば五十万Gもの報酬を出しているのがあるが、どれほど危険な依頼なんだろうか。


「あの五十万Gの依頼内容は何て書いてある?」


「え~っと、あれは騎士団からの依頼みたいで、『巨大生物の討伐』と書いてありますね。報酬は、参加者の数によって分けられるそうです」


「参加者が多すぎると途端に報酬が低くなるわけか。かといって少なくすると魔物を倒すのに苦労する……少人数で倒すことができれば、かなり報酬は良くなりそうだが」


 冒険者として様々な経験を積みたいと思っているが、苦労に見合う恩恵(おんけい)が受けられる場合じゃない限り、危ない橋を渡るのはしばらく避けるつもりだ。もう少し簡単で、かつ報酬も悪くない手頃な依頼が欲しい。


「何か他に良さそうなやつがあったら教えてくれ。難しすぎず、報酬もそこそこという感じのやつだ」


 真剣な眼差(まなざ)しで依頼書を読み上げていく。ダンジョンでの素材の収集とか、ダンジョン〇〇階層への護衛任務というのが多い。武器や防具の素材を取りに行くのに、冒険者は必須ということだ。いずれも、ダンジョンに入ることができない今の俺では受けることができない。


「護衛の依頼などは、それほど難しくないと思います。この場合は、馬車での運搬途中に出現する魔物の討伐が冒険者の仕事ですね」


「ふぅむ、比較的暇そうだけどその分危険度は低そうだな。明日の朝、残っていたら受けてみるか」


 巨大生物の討伐も気になったが、五日後に始まる『魔導祭(マジック・フェスティバル)』も控えていることだから、無茶をせず、堅実に過ごすべきだ。

 その後も様々な依頼内容と報酬を伝えてもらう。外の魔物と戦うという意味でも、運搬の護衛任務が比較的良さそうな依頼だとわかった。


「今日は武器も無いし、依頼を受けるのは無理だ。リーネを誘って武器を作りに行くか」


 ギルドブックを開いて、地図(マップ)に表示されたパーティメンバーの居場所を確認すると、すぐ近くにグラドリーネが来ていることがわかった。


「丁度良かった。これから、リーネの倉庫にある素材を使って武器を作ってもらおうかと思ってる」


「そうね、やっぱりメインの武器がないと落ち着かないわ」


 背負った剣の鞘だけが、むなしく口を開いている。俺自身も手ぶらで鎧なども着ていないため、そこらにいる村人みたいな見た目だ。


「私もおじいちゃんの本で勉強しましたので、今なら少し良い物が作れそうな気がします」


 ◇◇◇◇◇◇


 グラドリーネの泊まる宿屋の倉庫へとやってきた。外からの見た目は俺たちが泊まっている宿屋と同じレンガ造りだが、大きく、妙に整っていて綺麗な印象を受ける。四階建てで、入り口も広い。入ってみると赤い絨毯が敷かれており、駆け出しの冒険者にとっては場違いに感じる豪華な内装が目に飛び込んできた。グラドリーネが受付の女性に話しかけて銀色の鍵を受け取ると、すぐ近くにある地下室への階段へ向かった。


 広く緩やかな階段を下りると、やけに長い直線の通路へと出た。その通路には備え付けられた大量の扉があり、そこが全て貸し倉庫になっているようだ。

 こげ茶色の分厚い扉を開け、入室する。物で(あふ)れかえっているが、思っていたよりは綺麗に並べられている。足の踏み場がないような倉庫を想像していたが、そこまで大雑把(おおざっぱ)な性格ではなかったようだ。


「ここがリーネの倉庫か……武器の素材になりそうなものがたくさんあるな」


伊達(だて)に冒険してないわよ」


 ここに来てから、エルノアがずっとソワソワしている。今日の昼前に一度ここを訪れているから、素材になりそうなものに関しては目星が付いているようだ。


「お二人に聞きます。具体的に、どんな武器が欲しいですか?」


「私は軽くて丈夫で切れ味の良い長剣をお願い」


「ガヴァレリストが使いやすかったから、あんな感じで頼む」


 うんうんと頷きながら周囲を見回す。鉄や銀の延べ棒(インゴット)があるわけでもない。無骨に並べられた貴金属の装備品を素材として使うんだろうか。


「剣の大きさは、これと同じでいいわ。これなら丁度鞘に収まるから」


 壁に立て掛けられた鉄の剣をエルノアに見せる。重くて(もろ)くて切れ味が悪そうな剣だ。刀身は長く、あれを全て良い素材で作るとなると金が掛かりそうだ。


 俺の使っていた槍、ガヴァレリストは槍の先に剣がくっついたような武器だったので、普通の槍よりも刀身に多く素材が必要になる。最悪、俺のほうは鉄製でもいいと思っているので、グラドリーネの武器をメインに作ってもらおう。


 エルノアが散らばる金属の腕輪や装備の一部のような金属の塊を集め始める。選別するのにも時間が掛かりそうだ。


「本当は、綺羅鋼(ティンクトゥラ)製の剣が欲しいんだけどね。エルフでも作るのが大変だから、素材すらなかなか手に入らないのよね」


「確か、鋼と風の魔石の合成錬金(ごうせいれんきん)で作られる金属だったな。そんなに良い物なのか?」


「ええ。聖銀の剣(ミスリルソード)も使いやすかったし、長年愛用してきたんだけどね。私としては、魔力を増幅してくれる綺羅鋼の剣のほうが良いかなと思ってる」


「ルーン文字の効果はどうなんだ? あれも、剣の性能を引き出してくれるものなんだろ?」


 グラドリーネが使っていたミスリルソードには、ルーン文字が(しる)されていた。あれの効果次第では、綺羅鋼の剣を超えることも可能ではないんだろうか。


「確かに、あれには魔力増幅のルーンを付けてあったわ。聖銀には銀と同じく霊体を攻撃できる能力があるから、魔力増幅と霊体攻撃の組み合わせは驚異的な性能を発揮してくれた」


 聞く限りでは、これ以上ないような素晴らしい武器のようだが。


「でも、霊体って魔法を使えば攻撃できるし、いざという時に必要なのはやっぱり魔力なのよね。全魔力を込めた私の必殺剣でも、あのカエルの化け物は死ななかったのよ。それが凄いショックだった」


 ヤツの再生能力は異常なものだった。彼女がこれまで数々の魔物を相手してきた中で、唯一倒すことができなかったのがバエルだったという。

 あの異常な強さを持つ相手を二人で倒せたというだけで誇っても良いものだと思っていたが、剣技で仕留(しと)められず、挙句(あげく)の果てに剣を(うしな)ってしまったというのは俺が思っていた以上に悔しいものだったようだ。


「それを言ったら、俺もショックを受けてるぞ。自分の技を使うたびに、折角の槍が壊れちまう。俺の槍投げにも耐えられる最強の槍があればいいんだけどな」


 壊れるのを躊躇(ちゅうちょ)していたら、守れるものも守れなくなってしまう。ここ数日で、そういう状況に陥ることが多すぎた。お金を稼ぐためにダンジョンに潜っても、そのたびに失くしてしまっては意味が無い。


 そんな会話を尻目(しりめ)に、エルノアは黙々と素材を選別していた。宝石の付いた銀の腕輪や、黒っぽい鉄の塊など、いくつもの素材らしき物体が床に並べられている。一体どんな武器が出来上がるのか、非常に楽しみだ。


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