第041話 狂戦士
「剣の代金はきっちり払ってもらうからね!」
激戦の果てに『ルーンソード』をぶち壊してしまったせいで、七十五万もの借金を背負うことになってしまったが、その代わりにエルフのグラドリーネが仲間に加わってくれた。これからの冒険で、少しずつ返していきたいと思う。
俺の武器も失くしてしまった。今日は持ち帰った魔水晶を換金しつつ、武器を調達したい。それから、情報収集もやっておきたいところだ。
「とりあえず、リーネのステータスでも確認してみるか!」
パーティ加入のための握手を済ませて、ギルドブックを開く。
名前:グラドリーネ
種族:エルフ
職業:狩人 Lv53
H P: 160
腕力: 14+4
技能: 24+2
知性: 14
魔力: 21+4
体力: 14+2
敏捷: 32+4
魅力: 23
A C: -7
《スキル》
薬草学 Lv7
探索技能 Lv7
精霊魔法・火 Lv3
精霊魔法・風 Lv7
《装備》
ノルディックの短剣
浮遊石の盾 *リストア
エルヴンガントレット
深緑のチュニック
エルヴンブーツ *アクセル
ヒールタリスマン
「なるほどなるほど。ん~、なるほど」
「何がなるほどなのよ」
エルノアと比べると、戦闘能力の高さが際立つ。腕力はさほど高くないが、技能も敏捷も高く、戦闘でかなり優位に立てるだろう。素早さを生かして相手の弱点を突く戦い方が得意ということだ。魔力も高く、隙がない。全ての能力が高水準で、単独での活動を行える実力があるのがわかる。
スキルは、探索技能というのが罠や鍵を解錠する能力のことだろう。魔法も火と風の両方が使える。確か火と風の複合属性が雷とか稲妻と呼ばれるものだったはずなので、雷の剣技はそれを利用したものだろう。
装備も充実している。武器はメインで使用していた『ルーンソード』が壊れてしまったので載っていないが、身に着けているもののほとんどが高性能な装備のようだ。それがステータスにプラス値として反映されている。低ければ低いほど回避性能や防御性能が良いことを表す『AC』の数値もなかなかのものだ。
「装備を一つずつ手に取って見たい。全部脱いでくれないか?」
「見なくていいし、脱がなくても見れるでしょ。っていうか、装備が目当てじゃなくて私の体が見たいんでしょ?」
「バレてたか」
半分冗談で言ったが、装備を見たいというのは本当だ。エルノアも興味深いようで、グラドリーネの盾を触ったり手に持ったりして確認している。俺のスケベ心満載な言葉にも反応を見せず、ただひたすら目に焼き付けるようにして眺めていた。
「凄いですよ、これ! 浮遊石の盾、別名『フェザーシールド』です! 羽のように軽くてとても丈夫なんです。しかも『リストア』の効果が付与されているので、自動的に修復されるんです! この盾みたいにわかりやすくするため、大きな翼を広げたような紋章があしらわれていることも多いんですよ」
興奮しながら、銀で縁取られた青い盾を持ち上げたり構えたりしている。軽い盾なら素早さを落とすこともないし、グラドリーネにとってはかなり相性の良い物だろう。他の装備も、そこらの店で売っているような代物ではないようだ。
「私も聞きたいんだけど」
「何か気になることでもあったか?」
自分のギルドブックを見ていたエルフが椅子から立ち上がり、俺の肩や腕をバンバンと叩いてくる。
「――何なの、この腕力!? あんたが『Lv5』っていう低さにも驚いたけど、『腕力99』にも度肝抜かされたわよ。単なる筋肉馬鹿なんてレベルじゃないわ」
「俺の肉体は特別なんだ」
俺のステータスについては聞かないで欲しい。説明すると『知性0』に認定されかねないからな。死んで転生しました、なんて俺自身でも馬鹿げていると思っているくらいだ。それくらい、現実味が無い。
「それからあんたのスキル、どっちも聞いたことないわ。『万象自在』と『狂乱降臨』。どういうスキルなの? それに職業も『狂戦士』って……」
「ちょっと待て。なんだそれ?」
ページをめくり、自分のステータスを確認してみる。相変わらずレベルや体力が『1』上昇しただけで他は変化無しだ。装備も、槍が無い以外に変更点はない。しかし、スキルに『狂乱降臨』なるものが増えていた。職業も昨日までは『戦士』だったはずだが、知らないうちに、『狂戦士』に変化していた。
改めて、そのスキルのことを頭に思い浮かべる。自分のスキルのことは自分の頭に聞けばわかるはずだ。
【狂乱降臨】
効果① 知性と引き換えに、全能力を倍加させる。
効果② 極限状態に陥った場合、一時的に無限大のエルスを得る。
「――ということらしい」
俺自身、スキルが増えていたことなんて全然知らなかった。
「馬鹿がさらに馬鹿になって馬鹿力を得られるということかしら。『狂戦士』なんて職業に就いてるだけのことはあるわね」
「人のことを馬鹿馬鹿言うんじゃない!」
「すごーい! 激しい戦いの中で新しいスキルが発現したんですねっ!」
「相変わらず君は興味深いな。いつか体を調べさせてもらおう」
いつの間にかエルノアもギルドブックを開いていた。
恐らくこのスキルは、あの戦いの最中に発現したものだ。きっかけは、蛙の怪人であるバエルの攻撃だ。あれで俺の体はボロボロになっていたはず。その後に飲んだ薬の影響でこのスキルが発現したと考えると、合点がいく。
「あの戦いでやられたと思ってたら全身赤くなって出てきたのよね。あれがスキルの効果かしら」
「たぶんな。俺自身、あの時は体が抑えられなくなったのを覚えているくらいで、スキルを使ったっていう感覚はなかった」
「お二人の話を聞く限りでは、本当に大変な戦いだったみたいですね」
「そうだな。それから俺の体が調子良くなって形勢が逆転し、リーネの技と俺の技が炸裂して勝利できたんだ」
「あんたのあの技、なんて言うの? 名前くらいあるんでしょ?」
「技の名前……つけてないな。つけるものなのか」
超槍投げと心の中では呼んでいたが、それを正式名称にするのはどうかと思う。確かに、決まった名前があると何を使うのか仲間にもわかりやすいし、使う時にそれを叫ぶのも気合が入っていいかもしれない。だが、自分で考えるのは少々照れ臭い。
「リーネはどうやって考えた?」
「昔、一緒に組んでた仲間のエルフがつけてくれたわ」
仲間につけてもらう、か。特に思いつかないし、こういうときは仲間に頼るのが一番だ。俺はベッドに座るグリムに近づき、肩に腕を回して顔を近づける。
「グリムちゃあん、俺のあの技の名前考えてくれよ」
グリムも女の子だとわかったし、これからはスキンシップ多めにしていこうと思う。耳元で囁くように声を掛け、反応をうかがう。
いつもの書物に顔を向けたまま、目だけをこちらに動かしてくる。驚いたのか照れているのか、頬が少し赤くなった気がする。なんらかの反応を見せることが極端に少ないグリムだから、小さなリアクションでも嬉しい。
「わかった。考えておこう」
「おう、頼んだぞ」
これで、技の名前に関しては大丈夫だ。物知りグリムのことだ、きっと素晴らしくカッコイイ名称を考えてくれるに違いない。
「話が逸れたな。俺の技のおかげでバエルを倒せたのはいいが、結果として剣と槍を失い、財宝もなくて岩付きの剣を持ち帰るくらいしかできなかった」
部屋の隅に置かれた剣を見る。剣の先に付いた球体の岩はなぜか転がることなく静止していて、剣を垂直に立たせていた。剣と槍を犠牲にして得られたのは、武器として役に立たないモノだった。
「魔水晶はある程度持ち帰ったから後でギルドに換金しにいくけど、私の剣の代金には遠く及ばないでしょうね」
「しばらく我慢してくれ。エル、今日中に俺の槍とリーネの剣を作って欲しいんだが、頼めるか?」
「はい! 私にできることなら、全力でやらせてもらいます! 素材は、一度おじいちゃんのところに戻るしかないかな?」
その言葉を聞いたグラドリーネが、急に椅子から立ち上がってエルノアの両肩を掴む。
「エルちゃん、頼んだわよ。『狩人』の私に合う剣を作って。重いのはダメ、軽くて丈夫で切れ味の良いやつ」
無茶なことを言う。それを満たすには普通の金属じゃ無理だろうな。そしてそんな金属は
今手元に無い。
「私、頑張ります! でも、素材が無いとどうしようもないこともあります……」
元気よく返事をしたのは良いが、やはり無理なことは無理だ。猫耳を折ってシュンとしてしまった。
「大丈夫よ! 私の倉庫に行けばまだ売ってない素材がいくつかあるから、それで作ればいいの」
それを聞くなり、垂れていた猫耳が立ち上がり、パァっと表情が明るくなった。喜怒哀楽がわかりやすいし、見ていて飽きない子だ。
「そうなんですか! じゃあ早速作りに行きましょう、リーネさん!」
「ええ、いいわよ。じゃあそういうことだから、また後でね」
「了解。昼になったら、一昨日行った酒場で落ち合おう。昼飯は一緒に食べるからな」
「はぁ~い! じゃあ行ってきますね! ヒロトさんの槍も、楽しみにしててください!」
そういうと、グラドリーネの腕を掴んで猛スピードで部屋を出て行ってしまった。武器のことになると、鍛冶師としての血が騒ぐんだろう。
騒がしい二人が出ていくと、部屋が静まり返った。賑やかなのも好きだが、静かなのは落ち着いて気分が良い。このままベッドに寝転んでいるのも悪くないと思える、朗らかな陽気だ。とはいえ、ぐっすり寝たおかげで眠気は全くないし、今はのんびりするより頭と体を動かして知識を得たいという欲求のほうが強い。
「グリムゥ、俺とどっか行こうか。情報収集したいしな」
寝転びながら、すぐ近くに腰を掛けているグリムを指でつつく。反応は薄めだが、体の向きはそのままに顔だけをこちらに向けてきた。
「すまない、ヒロト。今日は行きたいところがある」
「えっ、そうなのか? 俺もついて行こうか?」
「いや、その必要はない。一人で行ってくる」
断わられてしまった。どこに行くのか気になるが、必要以上に詮索するのは野暮というものだ。
「そっか。じゃあ昼になったらあの酒場に来てくれよな。昼食はみんなで食べたいから」
「わかった」
そう言うと、あの黒い魔水晶を持って出て行ってしまった。俺も、帝都の店でも回るとしよう。




