第037話 ミーミル大聖堂 第五階層
◇◇◇ ミーミル大聖堂 第五階層 ◇◇◇
四階層では休憩に加えて財宝らしきものが手に入り、気分はすこぶる良くなっていた。
だが、五階層はそんな気分を一気に吹き飛ばす入り組んだ地形になっており、俺たちのイライラを募らせるには時間はかからなかった。
迷路状になったこの階層は、通路にことごとく分岐があり、その先は行き止まりの小部屋か別の通路に繋がっている。既に通ったことのある通路に繋がっていることもあり、ギルドブックの地図がなければ今頃同じところをグルグル回り続けていただろう。そして、迷宮から永久に抜け出せないまま死んでいたかもしれない。
ギルドブックを歩きながら見るため、周囲への注意力が散漫になってしまう。敵の出現に気づかなかったり、地面から飛び出た蔦に引っかかって転倒しそうになったりと、危険なので『ながらギルドブック』はなるべくやらないように心がけたい。
二時間、いや三時間くらいは迷路を彷徨っていただろうか。これまでの階層と比べてもかなり広く、いまだに全てのルートを回りきれていなかった。
「やべえ、疲れてきた」
体力的には、まだ大丈夫だ。ずっと同じ壁を眺めながら歩き続けるのは精神的にきつい。時々、自分が今何をしているのか、今どこを歩いているのかわからなくなるときがある。迷路によって俺の頭は混乱させられていた。どうすれば良いのか、どうすれば先に進めるのか、考えがまとまらない。
「怪しいところがありすぎて、調べきれない……」
さすがのグラドリーネも、疲労には勝てないようだ。小袋からナッツのような木の実をポリポリと食べる姿も、どこか弱々しい。この迷路が俺たちのような侵入者に対して作られたものだとすれば、それは最高の効力を発揮しているだろう。どんなフロアキーパーよりも手強く、攻略の糸口が全く見当たらない。
「せめて何かの手がかりがあればな……フロアキーパーが一番だが」
これまでの階層では、地下に進むためにフロアキーパーを倒す必要があった。この階層でも同じようにフロアキーパーによって階段が守られているとすれば、その魔物を見つけることができればどうにかなる可能性がある。
「手がかりがない以上、探索し続けるしかないわ。さ、行くわよ」
「そうだな、今は動くしかないか。こんなところ、一人で潜ってたら今頃発狂してたぞ」
仲間がいるということ。生活においても、ダンジョン攻略においても苦楽を――今は苦労しかないが――共にするというのは重要なことだ。どんなにキツイことでも、共有して分かち合うことができる。良いことがあれば、共に喜び合うことができる。たった一人でダンジョンや魔物に立ち向かうっていうのは、俺にはできないだろうな。
結局、片っ端から行っていないルートを進んでいく。それから三十分程度経過した頃、ある一直線の通路に出た。今までは曲がりくねった通路ばかりだったので、この階層に来てから初めての長い通路だ。
壁を触ってみても、特におかしなところはない。グラドリーネも何の反応も見せていないが、俺の直感が何かを捉えていた。魔石を壁から取って使う俺からすると、魔石がひとつも埋め込まれていないこの長い通路には、違和感しかなかった。
「絶対何かあるな……」
直線の通路を通り抜けた先で水属性を持つ青い魔石を調達し、握ってエルスを送り込む。
通ってきた道を振り返り、魔石の付いていない壁へ投げつけた。
壁に叩きつけられた水の魔石が、水風船のように弾けて周囲に水を飛び散らせた。それを受けた深緑色の壁が、一斉に動き始める。
「どういうこと!? まさか……」
直線の通路を形成していたのは、何体ものストーンゴーレムだった。水を受けていない壁も動き出し、こちらに向かってくる。
「どうやらこの先がゴールみたいだな」
通路を変化させてまで守ろうとする先には、必ず何かがある。石壁の人形が動いたことで広くなった通路を活用し、全ての敵を破壊する。この前倒したものよりは、魔水晶が少し大きく見えた。同じランクの同じ敵でも、レベルが高いと魔水晶の大きさも変わるみたいだ。
「はあ……私、ああいう硬い敵って苦手なのよね。風の魔法も、切断効果のある強力なものを使わないと効かないし」
珍しく泣き言を呟くグラドリーネ。前にストーンゴーレムが現れたときも、面倒なふりをして苦手な相手を俺に任せていたってところか。
それならそうと、早く言ってくれればもっと効率的に戦えるんだけどな。一人でダンジョンに潜る冒険者なせいか、そういった協調性の部分が少し欠けているように思う。まあ、俺も強引に行くところがあるので人に言えた義理ではないのだが。
ようやくゴールらしき部屋に辿り着いた。
途中、この階層自体がフェイクで、本当の地下への道は四階層から別の階段を下りなければいけないのではないか、という疑問が頭に浮かんでしまっていたが、それを振り切って進み続けたおかげで到達することができた。
あれだけ時間をかけて進んでいたのは無駄ではなかったようだ。
終点と思しき小部屋に入ると、中央に階段が見える。フロアキーパーもおらず、障壁も張られていないところを見ると、先ほどのストーンゴーレムの群れが二つの意味で『壁』になっていたということだろう。
階段を下りる前に少しの休憩を取り、これまでで一番長かった階層を後にした。




