第036話 ミーミル大聖堂 第四階層
◇◇◇ ミーミル大聖堂 第四階層 ◇◇◇
第四階層を探索中に、奇妙な場所を発見していた。これまで通り深緑色の壁が続く通路を進んだ途中に分かれ道があり、一方は紅紫の雑草が生えていて、もう一方にはカラフルな色を付けた草花。
俺とグラドリーネは迷わず後者を選び、その先の小部屋に辿り着いた。
そこは、新緑の若葉を付けた木々が生え、綺麗な水が湧き出るダンジョンの聖域だった。
魔石を含んだ白い石壁も、これまでの深緑色の壁よりずっと明るく発光しており、ダンジョン内とは思えない自然が広がっていた。草を背にして寝転がると、これまでの緊張がほぐれていくのがわかる。土の上に生えた草がクッションとなり、柔らかな感触に全身を預けた。
「ここ、魔物が来ないよな」
「たぶんね。魔の気配が一切しないもの」
グラドリーネも隣に腰を下ろして一息つく。朝から動きっぱなしでさすがに少し疲れていた。しばし休憩して、エルスも蓄えたい。
太陽が出ているわけでもないのに、光や大地が暖かく感じる。自然の中という環境が起こした幻想なのか、あるいは地熱のようなものなのかはわからない。『ヒーティング』効果を持つジャケットのおかげで、これまでの場所でも寒気を感じることなく活動できたが、ここでは少し暑さを感じるくらいだ。
「その腰の袋、何でも入ってるみたいだな。どうなってんだ?」
グラドリーネの腰の小袋は、ずっと疑問だった。フロアキーパーを倒して手に入れた魔水晶はそれなりに大きい。あの袋の大きさなら、二個か三個でパンパンになるはずだ。だがあの袋は、中に入れても、中から物を取り出しても大きさが全く変わらない。
「ああ、これ? 私の部屋にある宝箱に繋がっているのよ。いわゆる、神秘の品ってやつ」
宝箱などの空間と繋げることができて、そこに食べ物や飲み物を用意しておいたり、拾った物を送ったりできるというものらしい。あまりにも便利なため、冒険者が欲しい道具ランキングのナンバーワンだとか。神秘の品ということで非常に高価なものらしく、手放す人もほとんどいないため、手に入れるのは困難を極めるという。
確かに、そんなものがあればダンジョン探索がかなり便利になる。深層へ潜る場合などは必須と言えるかもしれない。いずれ、手に入れたい道具として記憶しておこう。
グラドリーネが、チョロチョロと湧き出る水の観察している。透き通っていて飲んでも大丈夫そうだが、それはやらないようだ。
「この水は、どっから来て、どこに行ってんだろうな」
「上の階層にあった水路からは来てないと思うけどね。下に行けば、答えがわかるはずよ」
結局、三十分くらいは休憩していただろう。どこまで階層が続いているかわからない分、あまりのんびりもしていられない。ダンジョンで寝泊まりなんて御免被る。
再び分岐に戻り、毒々しい草花のある道を進む。
明らかに敵の強さが上がっていた。ゴブリンの魔法使いであるゴブリンメイジが登場し、火球を飛ばす魔法で遠距離攻撃を仕掛けてくる。他にも、天井や壁を縦横無尽に動き回るムカデのアーマーセンティピード。こいつは張り付いた壁から飛び掛かってくる上に、体がやけに硬いのが特徴だ。他には、全身がヌルヌルしているでかい芋虫のウォーターワーム。サンドワームと同じく、汚らしい唾を飛ばしてくる。口を大きく開いた魔物なため、そこにエルスを少し使った火の魔石を放りこんでやれば簡単に倒せる。
奥に行けばいくほど、壁から生える雑草が増えているようだ。苔や蔦も多く、足元にも注意して歩かなければ引っかかってしまいそうだ。
自然溢れる部屋で英気を養ったおかげで、新たな魔物を倒すのに苦労することもない。むしろ、体を動かして気分が良いくらいだ。グラドリーネとの距離感もだいぶ理解してきて、戦闘のスピードが上がっているように感じる。
この階層はほとんどが一本道で、迷うこともない。行き止まりがあったが、壁に埋め込まれたブロックが仕掛けを解除するスイッチになっており、これを押し込めば新たな通路が現れるという構造になっていた。
狩人の能力なのか、冒険者の勘なのか、グラドリーネはそういった怪しい箇所をすぐさま発見して解除していく。スイッチの部分だけ少し色味が変わっており、その仕組みを理解すれば俺でも発見することができた。
行き止まりのスイッチを解除し、いくつかの通路を進むと大部屋に出た。
怪しげな魔法陣の真ん中に、地下への階段が見える。それを囲むようにして、ゴブリンがおよそ二十体はいるだろう。かなりの数のゴブリンが、大部屋に集まっていた。
そして階段を守る光の障壁の上には、ゴブリンの中でも一際大きな体のゴブリンリーダー。
リーダーが雄叫びをあげると、こん棒を持つゴブリンが攻撃を仕掛けてくる。その後ろからは、火球の魔法による波状攻撃。頭が悪そうな間抜けな顔をしているが、避けた先を予測して魔法を撃ってくる程度の賢さはあるようだ。
俺は火球を避けつつゴブリンの戦士を一体ずつ倒していたが、グラドリーネは違っていた。火球を剣で弾き返してゴブリンメイジを倒し、残っているゴブリンの群れに向かって舞うように飛び、着地と同時に回転斬りを放って一掃している。
彼女一人で十分なんじゃないかと思いつつも、負けじとゴブリンを蹴散らす。圧倒的な速度で数を減らし、残るはゴブリンリーダーのみとなった。こいつは巨体の割に素早く、ジャンプからのこん棒の振り下ろし攻撃は地面に大きなクレーターを作るほど、凄まじい。
左手からも火球を放つなど、隙がない。
とはいえ、俺とグラドリーネの速度からすると鈍足もいいところだった。こちらには風のように素早く動けるエルフがいる。俺がゴブリンの注意を引き付けながら、彼女が何度もその分厚い体を斬りつける。かなり頑丈な体をしていて、なかなか倒れる気配がない。
ようやく動きが鈍くなったリーダーが、力を振り絞ってこん棒を振り下ろしてきた。最初とは打って変わって床への衝撃もかなり小さくなっていたところを見ると、相当疲弊しているようだ。
その機会を見逃さなかった彼女が、こん棒を足場にしてジャンプし、回転しながらゴブリンの頭部に一撃を与える。頭の骨が砕かれる音が響き、巨体が膝から崩れ落ちて塵と化した。
「宝箱だ!」
霧散した肉体の場所には、金で縁取られた宝箱が姿を見せていた。
急いで飛びつき、様子を見る。以前爆発で吹き飛ばされた経験があるので、むやみに開けたりはしない。
グラドリーネが宝箱に手をかざし、目を瞑って罠を確認する。
「大丈夫、開けても問題なさそうだわ」
その言葉を信じて宝箱を開けると、そこには銀色に輝く腕輪らしき物品が入っていた。
これは、彼女のものだろう。
「私が貰っていいの?」
「もちろん。罠を確認したのはリーネだしな。いらないというなら、貰うけど」
「じゃあ遠慮なく貰っておくわ。鑑定しないと、何かわからないけどね」
腕輪をしまうと、相変わらず袋の形は変わらなかった。鑑定するまでは価値のあるものかわからないので素直に喜べないが、彼女の求めていそうな財宝を手に入れることができて良かった。わざわざ遠くのダンジョンまで来て魔水晶だけじゃ、骨折り損というものだからな。
四階層を突破し、五階層へ向けて障壁の解けた階段を下りていった。




