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第035話 ミーミル大聖堂 第三階層

 ◇◇◇ ミーミル大聖堂 第三階層 ◇◇◇


 下水道にヘドロを流したような最悪の第二階層を突破し、第三階層へと到達した。

 第一階層の肉の壁や第二階層の巨大な魚など、名前を知らない魔物を倒しても達成感があまりないのが残念だ。戦う上でやる気に違いが出てくるから、毎回のようにグリムが情報を伝えてくれたのは良かった。

 『なんとか竜を倒した』とか、『魔王なんとかを倒した』と人に言えるのは重要だ。『でっかい魚を倒した』ではどんな魔物かわからないので実力を誇示(こじ)することができない。

 ()(たい)を表すというくらいだから、相手を知ることによって相手の攻撃方法がわかったりすることもあるだろうし、名前という概念(がいねん)は大事にしたい。


「さっきの(わざ)、凄かった。伊達(だて)に『勇者』と呼ばれてないな。あれは魔法なのか?」


「私は魔法剣と呼んでるわ。武器に魔法の力を溜めて放つ。技と魔法、二つの力が合わさってより強力な攻撃が可能になるわ。私の場合、風属性が一番得意だから、あの技はよく使うのよ」


 フロアキーパーすら一撃で仕留める技か。俺にも一応技という技はある。槍に力を込めて思いきり投げる技だが、これは俺の攻撃の中でも最大級の威力を発揮していると思う。だが、一発で銀の槍を駄目にしたこともあってしばらくは使えそうにない。あの威力に耐えられる槍があればいいんだが。


 三階層は二階層と同じく苔むした深緑の石壁でできた階層のようだ。広さも問題なく、戦いやすそうだ。二階層への階段が遠くなると、苔が少なくなっているように感じる。

 出現する魔物は、グールにケイブラットといった不潔(ふけつ)な感じのする魔物が多い。いずれも弱く、出現する数も少ない。このダンジョンに入るには誰かの協力が必要だったからそのまま一緒に探索しているが、この程度の雑魚(ざこ)なら、グラドリーネ一人でも余裕で攻略できるだろうな。

 そう考えると報酬がゼロというのは賢いやり方だ。高い金を払って同行させてもこの雑魚連中が相手ではほとんど儲けられない。


「リーネはこのダンジョンに財宝を探しに来たんだよな?」


「そうよ。今のところ、借りた馬代にもならないけどね。お金は大事よ、たくさんあっても困ることがないから。欲しいものも買えるしね」


 同感だ。今はなんとか生活できるかどうかというレベルの稼ぎしかないが、何か良い物が手に入ればそれだけ楽になる。楽をしたいというわけではないが、それで強い武器などが手に入れば、仲間を守ることができる。


「何か買いたい物でもあるのか?」


「うん。目茶苦茶高いのよ、アレ。ぼったくりもいいところだけど、買う以外だと作るしかない。で、そう簡単に作れるものじゃないから、結局のところ買うしかないのよね」


 あれと言われても何かわからないが、とにかく高い物らしい。俺にとってもお金は重要なので、可能な限り財宝は持ち帰りたい。


「にしても、あんたって変な魔法使うのね。魔石をあんな風に利用する人なんて初めて見たわよ」


 魔物との戦いの最中、壁から火の魔石を取り出してエルスを送り、敵に投げつけて攻撃するといったことを繰り返していた。少しずつエルスを使うという経験を積んで、一気に使い果たすのを防ぐためだ。

 これが結構難しい。溜めたエルスを全て一度に使うほうが簡単だ。少しずつ使うには、微調整が必要だからだ。


「あれは魔法じゃなくて俺のスキルなんだ。エルスを取り込んで、効果を変化させられるっていう。発現(はつげん)したばかりで、まだまだ使いこなせてないけどな」


「ふーん。聞く限りだと結構便利そうなスキルね。じゃあ普段からそれで力を増幅させて戦ってるの?」


「いや、今は魔石を使ってそれの練習みたいなことをしてるけど、普段は使ってない。ここに来るまでの木の枝ジャンプとか、一階層の爆破とか、ゴーレムとの戦いとかで使ったくらいだな」


 強敵との戦い以外では、なるべく使用を控えておいたほうがいい。いざというときに、エルスが無いという状況じゃ目も当てられない。だが、今は隣に『緑の風の勇者(グロリアス・ウィンド)』がいるからな。頼りになる仲間がいるので、多少俺の力がなくとも心配はいらない。


「ところで、あんたは何で私の依頼を受けたの? 報酬ゼロの依頼なんて、受ける価値ないと思うけど」


 そう思うなら報酬はちゃんと用意しろ、と言いたいところだが。

 俺には報酬以上に大事な狙いがある。


「そりゃもちろん、リーネをパーティに加えるためさ。だから、報酬なんていらない。なんとか知り合って、仲良くなって、そしてハーレムに入って欲しい。それが俺にとっての報酬だ」


「……へえ、そんな目で私を見てたんだ。下心満載(まんさい)じゃない!」


「そうじゃなけりゃ、報酬ゼロの依頼なんて普通受けねえから!」


「馬に乗ってるときも、腕で胸を触ってたの知ってるんだからね!」


 お気づきでしたか。そりゃ、気づかないわけないか。


「どうせ、あのエルノアって()の胸を毎日揉んでるんでしょ!?」


「揉みたいとは常々(つねづね)思っているけど、毎日は揉んでないぞ!」


「信じらんない! とんだスケベ男ね、あんたって」


 鳥が羽を広げているような紋章(もんしょう)の盾で自分の体を隠し、後ずさる。


「そういうわけだから、このダンジョンで欲しいものがあれば渡す。金になるものを持って帰るのはもちろん大事だが、それ以上に全力で戦って良いところを見せつけ、君の信頼を勝ち取ることが一番の目的だ」


 体を守っていた盾を下げ、どこか諦めたような、納得したような表情を見せる。


「……そういうこと、普通は面と向かって言わないわよ。まあ、理由としては単純明快(たんじゅんめいかい)だし、あんたがどんな人間か、少しはわかった気がする」


「わかってもらえて、何よりだ」


 人から信頼を得るというのは難しい。人としての信頼、冒険者としての信頼を得るには、こうして一緒にダンジョンに潜ることが最短だと思う。


 相変わらず弱い魔物ばかりで見せ場が無いのが残念なところだが、それでも二階層のように不快な水場がないのは助かる。精神的にも、落ち着いて探索に集中できる。

 とはいえ、魔物のレベル、それからランクは上がっているようだ。先ほどまでのグールは時折(ときおり)ブラッディネイルが混じるようになって、深緑の肌で手に武器を持つ怪人族の魔物、ゴブリンが登場している。

 ショートソードや木製のこん棒を持っており、猪突猛進(ちょとつもうしん)なタイプではないのだが、攻撃のリーチは結局ブラッディネイルなどと同じ程度なので槍の苦手とする相手ではない。グラドリーネにとっても、当然苦労するような相手じゃなかった。


 比較的広い部屋に到着する。レッサーデーモンのような、翼の生えた悪魔が四角い台座に乗った石像(せきぞう)がいくつもある部屋だ。絶対に動くだろうと思って近づき、槍でつついたりしたがなんともなかった。反応がない、ただの石像のようだ。


 部屋からいくつかの道へ分岐(ぶんき)している通路を手分けして調べる。敵も弱いので心配することもない。光の魔石を使い、ディスペル・マジックでだが、いくら探しても四階層への入り口も見当たらず、時間だけが過ぎていた。


 石像の部屋に戻って休憩し、敵をいないことを確認して飯を食べておく。腹が減っていた頃なので今は恐らく昼だろう。最後の通路を確認していたグラドリーネが戻ってきた。やはり、地下への道はなかったらしい。


「まさかこの階で終わりってことはないよな?」


「それはないと思うけど、通路に怪しいところはなかったわ」


 そう言いながら、ポリポリと木の実のようなものを食べている。腰に下げた小袋から取り出して食べていたが、拾った魔水晶とかはどこにしまっているんだろうか。腰につけたいくつかのポーチと小袋以外、バックパックのようなものは背負っていない。


「やっぱり、その石像が怪しいわね」


 俺が背中にもたれかかっている石像を指差し、顔を傾ける。

 怪しさ満点なのは間違いないが、調べても変わったところは見当たらない。


「ねえ、ヒロト。それ動かしてみて」


 言われるままに石像を押してみると、さほど力を入れずとも簡単に動くことがわかる。


「この下に階段がある……わけはないか」


 階段が隠されているのかと期待したが、やはりただの床だった。

 グラドリーネの指示通り、石像を動かしていく。床をよく見ると、小さな溝が掘ってあり、石像がぴったりと収まった。

 合計四つある石像を動かし、顔を部屋の中央に向けて溝にはまるように動かす。全ての石像が溝に収まると、部屋の中央の床が輝き、突如として階段が現れた。


「こんな仕掛けがあったとはな。一体いくつセキュリティを用意してるんだ」


 現れた階段へ向かって歩くと、突如として背中に重みを感じ、床に顔面から突っ込んでいた。わけもわからず首を回して背中を見ると、石像の悪魔が俺に覆いかぶさっていた。右手の槍で振り払うと、攻撃が当たらずに逃げられる。重いくせに俊敏(しゅんびん)な魔物だ。


「ガーゴイルよ! 闇の魔法に気を付けて!」


 四つ全ての石像が動きだし、周囲を飛び回る。こちらの槍を警戒して、近づきもしなければ降りてくることもない。複数の敵の行動を見ながら戦わなければならず、今の状況はかなり悪かった。


 ガーゴイルの手の平に黒い粒が集まり、紅紫(べにむらさき)光球(こうきゅう)を形成する。その色は外の庭園にあった毒々しい景色を思い起こし、当たるとやばいことがわかる。

 四体の石像は、一斉にその大きな岩のような光球を投げつけてきた。

 全てが俺狙いだったようで、()けた先で脇腹に直撃を貰ってしまう。体が壁にめり込むほどの衝撃だったが、思っていたよりもダメージは少ない。


「集中攻撃とはやるじゃねえか。上等だ、かかってこい!」


 気合を入れなおし、槍を低く構える。相変わらず天井スレスレを飛び回り、こちらの様子をうかがっている。グラドリーネを狙う二体の石像は、魔法攻撃と近接攻撃を交互に繰り出し、反撃の機会を与えない。

 恐らくこいつらがフロアキーパーなのだろうが、今までの敵と比べて数が多いだけだ。危険度で言えば、ブレードマンティスのほうが高いだろう。


「遠距離攻撃には、遠距離攻撃だ!」


 壁に激突したことで、俺の手元に転がるのは埋まっていた赤色の魔石と茶色の魔石。土の魔石を粘土状に変化させ、火の魔石を(つつ)む。

 そうしているうちに、再度ガーゴイル二体が闇の光球を放ってくる。床に転がりながらそれを回避し、空飛ぶ一体に向かって投げつけた。


「受けてみろや!」


 炸裂。

 お手製の爆弾が命中し、ガーゴイルが爆散する。そしてもう一体のガーゴイルには、爆弾と同時に投げつけた槍、ガヴァレリストが胴体を貫いていた。エルスを込めずとも一撃で倒せる敵だったということだ。これなら、槍を駄目にすることもない。

 天井に刺さった槍を回収し、グラドリーネのほうへ向かう。彼女もまた、風の魔法と剣技によって、ガーゴイルを瞬殺していた。


 階段を守っていた障壁が消え去り、次の階層へと進むことができる。

 ガーゴイルの魔水晶も全て回収し、飯が入っていたスペースに拳大(こぶしだい)魔水晶(ますいしょう)を詰める。グラドリーネも腰につけた小袋に魔水晶を入れていたが、袋が膨らんだ形跡(けいせき)はなかった。


「そろそろ手強(てごわ)そうな敵が出てきそうね。楽しくなってきたわ」


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