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第034話 ミーミル大聖堂 第二階層

 ◇◇◇ ミーミル大聖堂 第二階層 ◇◇◇


 ダンジョン化した聖堂の一階層は、単に荒廃(こうはい)した人間の施設というものだった。二階層に進むと、石造りの深緑色の壁が迷宮を構成していた。苔が生え、少しジメジメしている感じがする。ヘイムダル王国の地下迷宮のように乾いた風が流れているわけではなく、湿気の多い風がどこからか流れてきていた。


 比較的広めの通路で、槍を振り回しても天井に届くことはなさそうだ。横はグラドリーネもいることだから注意しなければいけないが、それでも距離を取れば大丈夫そうなほど、横にも縦にも広い。

 一階層は人間の使っていた施設ということで比較的狭く、長い得物(えもの)である俺の槍『ガヴァレリスト』では壁に当たらないよう注意しながら攻撃しなければいけなかった。弱い相手なら、(なぐ)る、()るといった格闘でも一撃で倒せるのだが、グールは爪によって麻痺を与えてくるなど、あまり近づきたくないのもあって苦労した。


 リーチに優れ、範囲攻撃も可能なこの槍の弱点が、『狭い場所では思うように攻撃できない』ということだった。長剣などが人気なのも、場所を選ばず戦えることが理由だろう。このダンジョンから帰ったら、長剣か短剣か、サブの武器を用意することも考えたほうが良さそうだ。残念ながら、髭剃り用のミニマムダガーはあまりにも短いため、戦闘に使うことは無いだろう。


 ダンジョンに潜りながら、くだらないことを長考(ちょうこう)するのは良くないな。この階層に来る前には気を引き締めてと思いながら、新しい階層の雰囲気に飲まれて完全に気が抜けていた。少しの油断が命取りになるし、仲間にも迷惑が掛かってしまう。


 再び気を引き締めるために、頭を左右に振って仕切り直す。今のところ一本道だが、壁や床に罠が無いとも限らない。少し薄暗いので、壁に埋まった光の魔石をもぎ取っておく。こうすれば、(あか)りとして持っているだけで効果があるし、いざという時にもディスペル・マジックが使える。魔石が取り放題(ほうだい)なダンジョンは、俺のスキルと相性抜群(ばつぐん)だな。


「リーネは一人でダンジョンに潜っているみたいだが、罠とかは大丈夫なのか?」


「私は狩人(かりうど)よ。罠の解除や宝箱の解錠(かいじょう)は得意中の得意。基本は単独(たんどく)行動だし、仲間のことを考えなくていいから無茶することもあるけどね」


「そりゃすげえ。じゃあ宝箱が出たら、お手並(てな)みを拝見(はいけん)させてもらうよ」


 グラドリーネを仲間に加える理由が増えた。どうにかしてこの冒険中に仲良くなってパーティに入ってもらいたい。彼女がこのダンジョンに潜る理由はまだわからないが、俺の目的はただひとつ、グラドリーネをハーレムに加えることだからな。


 出現するグールを蹴散らしながら通路を進んでいくと、壁から巨大な人影が現れた。壁と同じく深緑色をしており、ブロックがいくつも積み重なって人型を形成している。壁をそのまま人型に変化させたような魔物だ。


「ストーンゴーレムか。こういう硬いだけの魔物って苦手なのよね。ヒロト、任せたわ」


「よし、任せとけ!」


 とは言ったものの、戦ったことがない相手だ。硬いだけ、という言葉をそのまま受け取れば、魔法などは使ってこないだろう。力同士の戦いだ。真っ向勝負を仕掛け、力で相手の力を粉砕(ふんさい)する。俺が強いと分かれば、仲間に入ってくれる可能性が少しは高くなるはずだ。


 槍を壁に置き、素手で構える。柔道とか合気道とかその他諸々(もろもろ)格闘技(かくとうぎ)(たぐい)は一切やってこなかったので、構えは適当だ。左手を前に出し、右手は脇の下で握り(こぶし)を作っておく。右(ひじ)を後ろに引き、ヤツが攻撃してきた瞬間を狙う。


 ドスン、ドスンと軽い振動を起こしながら、壁の人形が近づいてくる。身の(たけ)五メートルほどの巨体だが、恐れはしない。

 ヤツが構えた右手を少し引き、俺を目がけて殴りかかってくる。俺も同じタイミングで、引いた右手を手の甲が上になるように回転させながら突き出す。自己流(じこりゅう)正拳突(せいけんづ)きだ。


 溜めたエルスを右手に集中させ、力を増幅する。エルスを加えなくても大丈夫な気がしたが、破壊の衝撃が強いほうがアピールになる。


 互いに拳を突き出すと、俺のほうからゴーレムへと突風が巻き起こる。ゴンッという鈍い音とともに、赤ん坊と大人の手ほど大きさが異なる拳がぶつかる。ヤツの右手にヒビが入った瞬間、さらにエルスを流し込んで破壊力を増大すると、右手から全身へと破壊の威力が伝わり、巨大な人型が崩壊して石ころの集合体へと変わる。床に転がるバラバラの石が霧散(むさん)して消滅すると、拳大(こぶしだい)の魔水晶が残った。


「まあ、戦士ならそれくらいはやってくれないとね」


 これくらいできて当然、と言わんばかりの素振(そぶ)りでさっさと奥へ行ってしまう。どうやら、まだまだアピールが足らないようだ。


 今のがただの雑魚とすると、それよりも強い存在が必要となる。そうなると狙いは『階層の番人(フロアキーパー)』だ。この階層の雑魚敵が弱いことを考えると、フロアキーパーもさほど苦戦しないだろう。場合によっては、ドロップアイテムなんかも狙えるかもしれない。エルノアにお土産(みやげ)のひとつでも持って帰りたいところだしな。


「フロアキーパーって倒したことあるか?」


「もちろんあるわよ。それがどうかした?」


 うーむ、フロアキーパー程度ではあまりアピールにならないのだろうか。強さ以外でアピールする方法があればいいんだが。こういうとき、グリムがいれば何かアドバイスが貰えたかもしれないのに。


「そういやあんたもフロアキーパー倒してたわよね」


「えっ、俺が? いつ?」


 さっきのストーンゴーレムがそうだったのだろうか。正直、それはないと思うんだが。


「一階層で、部屋に擬態(ぎたい)してたアレよ。あんたが倒したじゃない」


 結晶を守る肉の壁、あれば魔物だったっていうのか。だとすると、あの部屋でウロウロしていたら危なかったのかもしれない。部屋に入ってすぐに出ていたから、助かったんだろう。


「あんた、魔水晶拾ってなかったから代わりに貰っておいたわよ。あれだけ結晶がバラバラになっていたんだから、(まぎ)れていて気付(きづ)かなかったんでしょ」


 それもあるが、そもそも魔物を倒したとは全く思っていなかったので、魔水晶が落ちていることなんて全然知らなかった。

 それにしても、グラドリーネは拾った魔水晶はどこに入れているんだろうか。バックパックを背負っているわけでもないし、腰のポーチと革の袋があるくらいで、飯すら持ってきていないような気がする。


 収納(しゅうのう)の謎を抱えたまま進んで行くと、広いエリアに出た。ヘドロで埋め尽くされた幅の広い(みぞ)が通路に隣接しており、(あやま)って落ちないように気をつけて進まなければいけない場所だ。まるで下水道のような空間で、溝に近づいて(にお)いを()ぐと、異様な(くさ)さで目がしみてくる。


「最悪な階層だな、ここは。さっさと階段を見つけて下に降りようぜ」


賛成(さんせい)。こんなところに財宝も無さそうだし、いるだけ時間と体力の無駄だわ」


 ヘドロを含んだ水脈があることで、通路の幅が狭くなった。水脈を飛び越えて向こう岸に行けばショートカットになりそうな気もするが、無防備になる空中をさらけ出すのはできるだけ避けたい。空中で避けられない攻撃を受けたり、水の中から手が出てきて足を引っ張られてヘドロに落ちるなんてことがあれば、最悪なんてレベルの話ではない。


 警戒を強めて通路を進むと、水の中で何か巨大な物体が通り過ぎて行ったのがわかった。グラドリーネも気付いたようで、無言で(うなず)き返してくる。

 正直、ヘドロの中を泳ぐ魔物なんて絶対に相手したくないのだが、悪い予感っていうのは当たるもんだ。


 広い四角形の部屋に辿り着いたとき、その中央に階段があるのが見えた。階段のある場所を囲むように、巨大な物体でも通れるほど広い溝がある。急いで階段へ向かうと、一階層であったような障壁(しょうへき)(はば)まれ、進むことができない。


「どうやら、あいつを仕留めないと先へ進めないようだな」


 部屋の中央で待機していると、ヘドロの中を泳ぐ物体が現れた。突如、溝から飛び出して床を飛び越え、向こう側の溝へと跳び移っていく。ヤツの正体は、ギラギラと光る鱗を身に着けた巨大な魚だ。一瞬だったが、ギザギザの歯をつけた大口を開けて、俺を食おうとしやがった。


「ヒロト、任せていい?」


 (うる)んだ瞳を輝かせて、上目遣(うわめづか)いで嘆願(たんがん)してくる。


「駄目に決まってるだろ!」


 頭頂部に軽くチョップを食らわすと、何か言いたげな顔をしつつも剣を構える。一刻(いっこく)もはやくこいつを倒し、下の階層へ行くために協力し合うのが一番だ。


「じゃあヒロト、エサになってよ。溝の近くまでいけば、釣られて出てくるから」


 さりげなくひどいことを言いやがる。だが、女性をエサにするつもりもない。であれば、俺がやるしかないんだろう。


「大丈夫、あれくらいの魔物なら一撃で仕留めてあげるわ」


「わかった。頼んだぞ、ヘドロまみれになりたくないからな」


 不用意に、溝の近くまで寄って中を覗く。床にある石を蹴ってヘドロの中に沈め、ここにいるということを教えてやる。横からくれば物体が動くのでわかるはずなのだが、気配がない。と思うと、なんと石の沈んだ位置の真下から飛び出てくるじゃないか。

 間一髪のところで食われるのを回避し、グラドリーネのほうを見る。飛び上がった魚は、緑のエルフ目がけて一直線に向かっている。


 左手に持ち、(かか)げた剣が緑に輝いたかと思うと、目にもとまらぬ速さで縦に斬り裂いた。俺がやるような風の刃と似てはいるが、その風の速度と切断力は、桁違いに強力なものだった。突風よりも先に、剣から発生した風の刃が全てを貫通して壁に衝撃を残す。一刀(いっとう)(もと)に斬り裂かれた巨大な魚は、グラドリーネを避けるようにして真っ二つになり、絶命(ぜつめい)して魔水晶を落とした。


「これが私の技のひとつ、『音速剣(ソニックブレイド)』よ。凄いでしょ?」


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