第024話 国と王
「つまり、精霊魔法っていうのが一般的に使われる魔法で、儀式魔法ってのは『ゲート』みたいな特殊で大掛かりな魔法ってことだな」
グリムの口からペラペラと『魔法』という概念について語られ、俺はそれをなんとか理解しようと頭をフル回転していた。
精霊魔法は、その名前が持つ通り『精霊』に関わる魔法というのが重要らしい。
以前にも魔法や精霊については少し聞かされていたが、より理解しようとするとこの世界の歴史から学ぶ必要が出てきて、話がかなり脱線してしまうところだった。
興味が湧いた話としては、俺が巨眼生物と戦ったときに使った、エルスで効果を増幅された光の魔石のことだ。あの光は、魔法を打ち消す『ディスペル・マジック』という光属性の精霊魔法と同じ効果をもたらしたという。
本来なら、あの程度の魔石ではそんな魔法効果を生むことは出来ないらしい。俺のスキルを魔石に使うことによって魔法効果が発生させられるということは、今後魔石を使う上で重要になってくるだろう。
「平たく言えば、そういうことだ。では次に……」
「回復魔法について、頼むよ。なるべくわかりやすくな」
「いいだろう。回復魔法と呼ばれる魔法は、正確には『天使言語』だ。この魔法は、天使の末裔だとされる人物しか使えない特殊なものだ。精霊魔法なら、一般人だろうと魔力があれば使えるのだが、この天使言語は絶対に使うことができない。『声』そのものが魔法となっているとされ、精霊を媒介としない」
「精霊を使わない、天使の言葉の魔法か。どうやって使うんだ?」
「天使の血を引く者が、魔法と同じように頭の中で想像し、構築する。それを想いながら言葉にするだけだ。やっていることを他から見れば、精霊魔法と何ら変わらない。そういうこともあって、あえて『回復魔法』という俗称が使われている」
「傷が癒えるんだよな。どんな傷なら治るんだ?」
「使い手の技量によるが、斬られた腕や足を治したという例もある。精霊魔法にも光に属する『キュアウーンズ』という魔法があるが、これは止血程度の効果しかない。それに比べると天使言語の回復魔法は、全身の傷を瞬時に癒すことが可能なほど強力だ」
精霊魔法にも傷を癒す魔法があったことが驚きだ。だが、効果はあまり良くないらしい。
「天使言語は、『生命』に関する魔法だ。傷を癒すことはもちろん、不死族の魔物なら一撃で消滅させることも可能だ。精霊魔法と比べても強力無比な効果を持つため、この天使言語を持つ者はどの国からも優遇されているのは、以前サリナが言ってたのを聞いているだろう」
そういえばそんなことを言ってたな。騎士団の仕事の一つに素質を持つ者の発見があるとか、素質のある者は修道院に入れられるとか。
「さて、最後は錬金術だ。武器や防具を錬成する鍛冶錬金、金属と魔石を合成する合成錬金。他にも回復薬を生み出す道具錬金など、何かを精製する魔法の総称として錬金術と呼ばれている」
俺が見たことのあるエルノアの鍛冶錬金も、まるで魔法のように物が光っていたな。
あれは錬金術という括りにあるうちの一つで、錬金術は『物』を対象とする場合が多いという。
「錬金術は、『星』の力に由来するものだ。精霊を使う精霊魔法とは、また違う能力が必要になってくる。どれもこれも全て使えるような人間は、滅多にいないだろう」
儀式魔法の中には、『ゲート』といった恒久的に効果を持続させる魔法には錬金術の力が使われていて、違う魔法同士でも作用するものがあるなど、日々研究や開発が行われている。
その他にも多数の『魔法』が存在するが、基本的にはこの四種の魔法が使われて世界が成り立っているようだ。
一度に説明されて頭が追い付かない部分もあったが、四つの魔法の概念を念頭に置いておけばいずれ理解できる日が来るだろう。
◇◇◇◇◇◇
魔法についての勉強会を終え大広間に戻ると、エルノアが端の椅子に腰かけていた。
どうやら、もうすぐ十時になるらしい。「おはよう」と声を掛けると、恥ずかしそうにもじもじしながらお辞儀をしてくる。
「私も報告に参加したほうがいいですよね?」
「昨日は三人で参加したし、いたほうがいいな。ところで朝は何してたんだ?」
「合成錬金を試していました。実は私、鍛冶錬金ばかりで合成錬金はしたことがなかったんですよね。この前、『隕鉄』などの話をしたときにヒロトさんが興味ありそうだったので、挑戦してみようかなと思って」
「そうだ、確か『剛金』とかいう金属の話! すげえ強い武器とか防具が作れそうだよなぁ、かなり興味あるよ」
「ふふ、それじゃあお時間のあるときにお話ししますね」
魔法も興味深いが、どちらかというと武器や防具のほうが興味深い。
それを作る素材が、魔石と金属を合成した物で、作るのが大変だっていうのは既に聞いた話だ。単なる銀製の槍でもあれだけの値段だったし、その上を行くとなるとかなりの価値になるだろうな。
これからサリナと合流し、王に報告することになっている。普通に人間なら国王と話をするというのは非常に緊張することだろうが、何度か話をして素性を知っている俺からすると、そういったことはない。
まあ、ミリアルデの件があるので積極的に会いたいとは思わないのだが。
大広間で待っていると、屈強そうな男の騎士を先頭にして数人の兵士がやってくる。色黒で茶髪、身長も百九十CM以上はありそうなほど高い。所々がへこみ、多数の傷が残っている無骨な鎧を着こなし、腰に剣を携え、左の脇の下に挟むようにして兜を抱えている。
後ろには、赤髪の兵士サリナも控えていた。
「ヘイムダル王国騎士団長、ベルナルドです。貴方がヒロト様ですね」
自分のいる国の名前すら知らなかったことに、今気づかされる。ある意味、この国が俺の生まれ故郷になるんだから、しっかりと胸に刻んでおかないと。
「ヒロトと申します」
「話はサリナから聞いております。ブライオス王がお待ちですので、こちらへ」
国の名前もそうだが、王の名前も知らなかった。ダンジョンや冒険のことを知る前に、まず覚えたほうがいいことをすっかり飛ばしていた。まあ、知らなくても死にはしないだろう。そう考えると、やっぱり覚える順序としては後回しでも問題ないな。
大広間の中央より二階へ上がり、通路を通っていくつかの角を曲がった先にある部屋へと案内される。団長がノックをした後「失礼します」といいつつ扉を開ける。入った縦長の部屋には長方形のテーブルが置かれ、奥の椅子には王が腰かけていた。
「適当に座ってくれ。他の者は外で待ってくれ」
「承知いたしました」
俺とグリムが正面に向かい合うように座り、エルノアは俺の隣に座る。
この世界の礼儀作法がどうなっているのかわからないが、団長やサリナもいないし、このメンバーなら王の前で堅苦しい言葉遣いをしなくても問題ないだろう。
「異変のことは聞かせてもらったぞ。グリムよ、どう思う?」
「確かなことは何もない。幼竜が出現したところで、あの図体ならここに出てこれるわけもない。あの魔物は、あの場にいた連中を皆殺しにするためだけに呼び出されたのだろう」
「何のために?」
「不明だ。単なる空間の歪み、出現条件の変化など、魔物側にも想定外の事態が起こったという可能性もある」
二人とも無言で考え込んでしまった。当然俺には何も思いつくことはない。エルノアも、何も言ってこない。グリムがわからないことを、俺たちがわかるはずもない。
ただ、ひとつ疑問に思っていることがあった。
「なあ、フロアキーパーって何で四階層から下にはいないんだ?」
いないことを聞いたのは昨日だが、あれからずっと気になっていた。
階層を守るはずの番人が不在のダンジョン。もうダンジョンとして放棄されているんじゃないのか。
「ダンジョンの主に聞く以外、理由はわからんだろう。守る必要がない階層なんじゃないか?」
「それだよ。守る必要がないってことは、もうダンジョンとして機能してないか、放棄されてるってことだろ。でも、五階層ではあんな魔物も出たし、九階層には大量の敵、十階層は罠まで張ってあった」
「君は意外と鋭いな。僕が思うに、あの十階層の部屋には何かが隠されていた。階層の番人がいない代わりに、魔物を出現させてそれを守っていたとしたら? 鎧の魔物が迷宮から姿を見せ、幼竜が出現し、巨眼生物が罠を張ってまでやろうとしていたこと……今となっては、知る術も無いな」
「悪い事の前兆でなければ良いのだが……」
結論は出ないまま、解散となった。騎士団で引き続き調査するということだが、俺からすると既に最下層である十階層まで到達してしまった以上、もうあの迷宮に用事は無い。
また異変が起きた時には国から依頼が出るだろうし、その時に調査結果を聞けば十分だな。
「今回は世話になったな。報酬を受け取ってくれ」
王が机の上に置いていた小箱を俺の前まで滑らせてくる。白金貨六枚だ。銀よりも白く鮮やかに輝く白金の硬貨だ。一つ五千G相当で、合計三万G。
エルノアに白金貨二枚を渡し、残りは自分の物にする。グリムに渡すと突き返されるからな。
今後のことを考えると、この資金は非常に大事だ。この国を出て、新たなダンジョンを目指すために、別の町で活動することになる。食事と、宿屋に泊まる金は最低限必要だし、回復薬などの購入にも当てないといけない。
王と別れ、大広間に戻るとサリナが待っていた。今回のお礼を互いに言い合うと、赤髪の兵士は自分の仕事へと戻って行った。
「さて、俺たちも今後のことを話合おうか。いくつか相談したいことがあるしな」




