結局サイゼリヤが最高
正直に言おう。おれは生まれてこの方大した努力をしたことがない!!
努力は嫌いだ!!!
努力なんてクソ食らえだ!!!!
一生働きたくない!!!!!
「何言ってんのよ。学校行くわよ」
おっと、おれの魂の叫びが誰かに邪魔されたようだぞ。
「またなんかベラベラ喋ってたわね。気持ち悪い」
幼なじみの榊原ひめのだ。幼なじみといっても、アニメやラノベなんかにありがちな主人公にゾッコンな美少女なんかじゃない。中学に上がったころからやけに俺に冷たくなっちまった。昔は違ったんだけどな。やれやれ。顔自体は悪くないし、あと声が豊崎愛生にクリソツなんだけど、まあそんぐらいだな。胸もパティ・ウォータースくらいしかないし。幼なじみと言うより、腐れ縁ってやつだ。
ひめのに叩き起こされた俺は、のそのそと布団から這い出て、朝食もそこそこに家を飛び出た。朝8時。遅刻ギリギリだ。
「おはよ」
「ん?ああ、おはよう」
「今朝もへんな寝言言ってたわね」
「知ってるよ」
魂の叫びを寝言だなんて。センスがねえぜ。
「あれは俺の魂の叫びだよ。寝言なんかで片付けないでくれ」
「またバカなこと…本気なの?」
「本気も本気だよ。世界中に伝えたいんだ、この想い。もちろん、ひめのにも」
「…/////」
ひめのの頬が急に赤らんだ。どうしたんだろう。言い忘れてたけど、最近よくわからないタイミングで急にひめのの頬が赤くなることがある。おかしなやつだよ全く。
と、その時だった。
いつもの通学路のまんなかに、ちょうどソニー・シャーロックのアフロ頭くらいのブラックホールが突如として現れたのだ。
「なに…あれ…」
ひめのにも見えてるってことは、俺が寝ぼけてるわけじゃないみたいだな。ちくしょう、なんだありゃ。見るからに人を異世界へ引きずり込んだりしそうじゃんか。なんかシューシュー言ってるし。
しかし、俺はここでブラックホールを避ける、あるいは除去するなどということは一切しない。反努力論者たるオレからすれば、そんなことは断じてしてはならんのだ。努力しないのにもそれなりの覚悟がいるんだ。
「あっ、ブラックホールね」
何事もないかのようにブラックホールを通り抜けようとする俺。
「待って!それって明らかにブラックホールみたいじゃない!異世界に吸い込まれちゃうわ!たぶん」
ひめのが涙目でおれの手を掴んでくる。なんだよ、俺のことなんかどうでもいいんだろ。
「まあ、それはそれで」
「そんなのいやよ!私はあなたとこの世界でずっと一緒にいたい!あなたが好き!!あなたと結婚したいし、あなたの子を産みたいし、あなたと一緒の墓に入りたい!!お願い、帰ってきて!!」
色々言われたが、すでに俺の体の3分の2くらいがこのブラックホールみたいなのに吸収されている。すごい力なもんだから、抵抗しようにもどうにもならない。全然通り抜けらんなかった。やっぱりブラックホールだったのか、これ。やれやれ。
泣き叫ぶひめのの声を遠くに感じながら、いよいよオレの頭がブラックホールに飲み込まれてゆく。近くで見ると、ブラックホール表面はまるで黒い煮汁が煮えたぎっているみたいになっていて、キモい。ブチュブチュいう音がする。
「あばよ」
渾身のカッコつけをキメた3秒ほどのち、オレはブラックホールっぽい何かの中にすっぽりと入ってしまった。元気でやれよ、ひめの。
ブラックホールの中は生暖かくて、ふわふわして気持ちいいし、内装はとてつもなくサイケデリックなのが鼻につくけど明るさはちょうどよい。おまけに充電器とwifi完備ときたもんだから至極快適であった。
ゆらゆらと漂いながらソーシャルネットワーキングサービス等をして暇をつぶしていると、前方に光が見えてきて、瞬く間に俺はそこへ吸い込まれていった。
つづく