第71話 ペット購入
ペット確保の為、明日の夜明け前に、ホームから出発してカーマン帝国まで行く事になった。カーマン帝国は北の砦から200km北上すると、低い城壁に囲まれた大きな街があり、中心に城がある。この街がカーマン帝都と呼ばれている。
浩史の言う通りに、北の砦を低空で抜けて北上する予定だ。ライトニングBは、ジェット音が大きい為、攻撃ヘリのヴァイパーで行く事にした。
「さて、行くか?」
「さっさと行こう。子供の狼が居るといいな~」
首輪も持ったし、帝都の近くに村があるので、最初はそこの村に行く事にした。
身分証は、ナミル王国のギルドカードを見せて、仕入れに来た事にする。商業ギルドに登録してギルドカードにも記載があるので1番無難だと思われる。
カーマン帝国に入ったら商人で通すつもりだ。商品としてバックパックには、塩と砂糖を詰めてある。
「俺達は商人。いいか?」
「ナミル王国で仕入れて、高く売れそうなカーマン帝都に行商に来たって設定は2度も聞いた。早く行こう」
俺が操縦で、浩史は火器管制システムにリンクして、万が一、龍に襲われた時に、直ぐ反撃出来る様にしている。
北の砦までは高度3000mで巡行したが、北の砦が近くなると高度400mまで下降して、砦上空を飛行した。
夜間飛行と高度400mの2つを踏まえると、多分、見付かってないと思う。まあ、見付かっても関係ないが。
レーダーには魔物も捉えたが、襲われなかったので、そのまま北上して村の近くに着陸する。日の出まで時間を潰して村に向かう。
「ナミル王国のギルドカードで、本当に村に入れるの?敵国だよ?」
そんな事は知っているし、村に入れるか何て知らない。しかも、俺がペットを欲しがっている訳じゃない。
「駄目なら買収する。それでも駄目なら他の村で、カード紛失やファンドラ国のギルドカードも試してみる」
「ファンドラ国のギルドカードには、冒険者ギルドしか登録してないよ?」
「その時は商人設定を変えて、冒険者設定にする。1つ目の村で入れる様に祈ってくれ」
浩史と話しながら、村の方に歩いて行く。
村には、当然、順番待ちをする人が並んでないので、門番にナミル王国のギルドカードを渡す。門番と言っても、門はなく、頑丈そうな柵があるだけだが。
門番が俺と浩史のカードを確認して、話し掛けて来た。
「ナミル王国の行商人か?」
「そうです。珍しい物がないか見て回っています。小耳に挟んだのですが、狼を使っていますか?」
商人で通りそうなので、ついでに狼に付いても聞いてみる。
「狼?…ルプスの事か?」
「ルプスと言う生き物は知りませんが、狼に似ているのですか?」
「ああ、人狼の先祖だと言われている動物だ」
人狼の先祖って狼?そうなると、この世界の狼は、ある程度、頭がいい事になると思うのだが?
「ルプスは、この村にも居るのですか?」
「居るぞ、この村も冬になると、雪が積もって移動に支障をきたすので、飼っているぞ」
「キター!」
俺の後ろで、ガッツポーズしている奴は放って置いて、話を進める。
「見てみたいのですが、どなたに聞けばいいのですか?」
「ルプスは村の財産だから、聞くなら村長か?あそこが村長の家だ」
村長の家を聞いて、お礼を言って村に入る。
村長を訪ねて行商人だと説明して、塩の小瓶を1つ渡し、ルプスを見せて欲しいと頼むと、快く承諾してくれた。聞けば、ナミル王国からの行商人は多いので、カーマン帝国の市民からは歓迎される様だ。
俺と浩史はルプス小屋の前に来て、村長が小屋に入り1匹のルプスを連れて来た。
「兄貴、狸が居る。デカい狸だけどルプスは?」
狸にしては手足が長いし、体格もガッチリしている。尻尾は柴犬の様に弧を描いて、大きさもハスキー犬並みだ。
「顔は狸に似ているが、あれがルプスだろ」
「狸が狼?」
「狸って言っても、顔の毛並み模様が狸に似ているだけで、体格は狼とか犬だろ」
目の下が黒く、顔だけを見れば狸だが、全体的な印象は犬に近いと思うけど?
「よし、飼おう!村長さん、子狸は居ませんか?」
「子狸?生まれて1ヶ月のルプスは居りますが」
全く違う名称で呼ばれて、戸惑っている村長だが、この場にはルプスしか居ないので話は通じている。
「兄貴、子犬って生後、何ヶ月で里親に貰われるんだっけ?」
「2・3ヶ月位じゃないか?正確には覚えてないぞ」
犬と同じでいいのか不明なので、村長にも聞いてみる。
「村長、子ルプスを引き取りたいのですが、もう少し待った方がいいですか?」
「1ヵ月でも大丈夫です。もう少し大きい方がいいなら、生後3ヶ月のルプスも居りますが、ルプスは冬の移動手段でもありますので、多くを譲る事は出来ません。それに…貴重な移動手段ですので」
村長の言いたい事は解るので、先に金額を提示する。余りに高い様なら、他の村も回って探す事になる。
浩史をルプス小屋で残して、候補を選んでいる間に、村長と俺は村長の家で価格交渉を始めた。
俺が考えている金額は、金貨1枚、元の世界で約10万位になるので、適当だと思う。この大陸にある5つの国では、硬貨の重さがと大きさが決まっている。この規格によって、偽造が難しく、どの国の硬貨でも使用出来る。
「こちらが提示出来る金額は、大銀貨3枚です。子ルプスを1匹、大銀貨3枚で如何ですか?」
大銀貨1枚は約1万円なので、最初の提示金額は3万。これで様子を見る。
「おぉ!是非お願いします。それで何匹必要ですか?」
失敗。もっと安くても良かった様だ。もしかして、その辺に生息しているのか?
「弟が選んでいますので、もう少しお待ち下さい。今の内にカーマン帝都についてお聞きしたいのですが?」
「帝都の何が知りたいのですか?」
少し警戒しているのか、村長の顔が強張った。
「帝都で商売を考えているのですが、不足している物や人気のある商品があれば教えて欲しいのですが、帝都にはよく行かれるのですか?」
「そんな事ですか、帝都に行く機会は多いですよ。
不足品は何と言っても食料でしょう。特に冬の間は、オークなどは冬眠してしまうので、食料となる魔物も減ります。
人気の商品は、気にした事がないので、申し訳ありませんが存じません」
オークが冬眠?そんな情報、聞いた事が無い。脂肪が多そうだから冬眠は出来そうだが。
「オークは冬眠するのですか?」
「知らなくても仕方ありません。この地方ならではの事で、冬になるとオークは冬眠します。もっとも、カーマン帝国の北にはオークは居ませんが、ブラックベアが居ます。この魔物も冬眠をします」
種類が違うのか、寒さで食べ物事情が違うのか、ちょっとオークでも探して見比べてみようかな。
村長からオークの話を聞いていると、浩史から通信が入った。
「商談は纏まった?」
俺も通信機能をONにして村長に話し掛ける。
「そろそろ、弟も選び終えたと思いますので、ルプス小屋の方へ場所を移したいのですが?」
「気に入って頂けたルプスが、多いといいのですが、参りましょう」
村長は沢山、売り付けたい様だが、俺としては多くて2匹、出来れば1匹。
ルプス小屋に行くと、浩史が転送用の首輪を大量に用意していた。因みに子ルプスの数は、生後1ヵ月が4匹、生後3ヶ月が3匹の7匹だが、浩史が取り出した首輪は10個位ありそうだ。
「村長さん、全員の子ルプスを」「浩史!少し話がある!」
笑顔の浩史が村長に、碌でもない提案する途中で俺が割り込んだ。7匹全部は引き取らない!
「兄貴、何?」
「2匹までだ!」
「いやいや、兄弟を引き離すのは忍びないから、一家丸ごと行こうかと」
兄弟全員ではなく、一家?親も連れて行く気か?それにしては、首輪の数が多くないか?
「誰が面倒を見るんだ、2匹にしとけ」
「ファーノ街の孤児院にも、子供にいい影響を与えるから、プレゼントしようと思って」
勝手に決めていいのか?でも、上手く話を持って行けば、面倒事はファーノの孤児院に引き取って貰えるかも。
「じゃあ、孤児院のだけにして、浩史もファーノに通えば?ホームの庭より、ファーノの孤児院の方が広いぞ」
「ホームからだと、5分も掛からずファーノの孤児院に行けるか…」
よし!いい流れだ。
「行き成り違う環境に連れて行って、対応出来なかったら死ぬぞ」
「それを言われると…、ファーノの孤児院だけにして、様子を見るか。じゃあ、生後1ヶ月の一家にしよう」
父ルプスはどれか判らなかったので、母ルプスと同い年の、大人しい雄ルプスを選び、村長に金貨2枚を渡した。6匹×大銀貨3枚で、金貨1枚と大銀貨8枚で良かったが、育て方などを、聞きに来る必要があるかもしれないので、多少多く渡した。
6匹のルプスに首輪を嵌め、村を出てから近くの森に行き、浩史と一緒にファーノに転送した。孤児院への説明は浩史に任せる事になるので、上手く説得して欲しい。
俺は、浩史と別れて、カーマン帝都に向かった。目的は、カーマン帝都にも転送装置を置く拠点が欲しいので、手頃な家を借りる予定だ。
今は1人で帝都まで歩いているが、子ルプスは可愛かった。昔、飼っていた犬を思い出す。テリアと柴犬の雑種だと思うが物凄く可愛かった。俺が小学校に上がった時に、ペットショップで3000円だった。
見掛けて直ぐに、お小遣いを持って浩史と一緒にペットショップに行き、浩史も気に入ったので飼う事にしたが、ペットショップの店員に保護者が必要だと言われたので、共働きの両親の代わりに、俺達の世話をしていた祖母を説得しようとしたが、祖母も犬は好きだった様で、説得には時間が掛からなかった。
俺が大学に上がる時に祖母も亡くなり、24歳の時には飼い犬も老衰した。2人には出来る限りの世話も出来たし、高年だったので大して落ち込む事もなく、日常に戻る事が出来た。
飼い犬が死んだ時に嫌な思いをしたので、ペットを飼うつもりは余り無かったが、子ルプスが可愛かったので、1匹位ホームで飼えば良かったかな?村中で世話をしていたので、誰にでも人懐っこくて、俺も飼ってもいいかと思ったが、元の世界に帰る事になると連れては帰れない。
まぁ、デボラ達も飼いたいと言うのなら、ホームで飼ってもいいかな。
帝都に到着して、門衛にナミル王国のギルドカードを見せると、多少、質問されたが無事に帝都に入れた。
門衛に商業ギルドの場所を聞き、小さな倉庫を借りて、商業ギルドに登録して露天商の資格を得た。後で浩史にも登録させないと。
商業ギルドの露天商は俺達にとって都合がいい。店を構えて営業しないと不審に思われるけど、露店なら大して気にも留めないし、税を払っていれば誰からも文句が出ない。
これでカーマン帝国のギルドカードも手に入れ、行動拠点も出来たので、後は、マガスカ連合に拠点を作れば、この大陸の主要な国には、直ぐに行く事が可能になる。だが、拠点を作る為だけにマガスカ連合に行くのは面倒だ。
周りの目を気にしなければ、数時間で行く事が出来るので、早急に拠点を作る必要もないし、少しはルプスと遊びたいので、暫くは予定を入れない様にしないと。
しかし、カーマン帝都の街を実際に見て、思っていたより活気がない。毎年のナミル王国との戦闘で、国が疲弊しているのか?露天商の税と倉庫の家賃は、ナミル王国の2倍位に設定されていた。
浩史からの連絡がないので、適当に帝都の様子を見て回ったが、物乞いが多く、道にゴミが散らかっていた。
浩史から連絡が入り、ファーノ孤児院の方は孤児達が大喜びして、ルプスを受け入れて貰えたので、倉庫に転送して、商業ギルドで露天商の登録を行った。
カーマン帝国では、未だに奴隷制度が存在するので、帝都ではよく子供の奴隷も見掛ける。不愉快なので極力来ない様にしたい。