第61話 使えない刀
フレイヤさんとジャック卿を訪ねて、ファーノに来た。
理由は、ナミル王国に宣戦布告した事と説明して、フレイヤさんとファンドラ国が敵に回らない様にする為だ。
フレイヤさんは大して心配していないが、ファンドラ国とナミル王国で条約が結ばれていたら、大変なのでそこら辺を確認しないとファンドラ国とも戦う事になってしまう。
本来なら、宣戦布告する前に確認しなければいけない事だったが、昨日寝る前に気が付いたので、急いで確認しに来たが、そんな条約は結んでいないし、ナミル王国とも対して仲が良くないと言われた。
但し、ネイビスファー共和国はナミル王国と友好協定を結んでいるので、もし戦争となればネイビスファー共和国も参戦してくる可能性があると言われた。
エキドナとフレイヤさんが出て来ない時点で、俺の勝ちは決定しているし、ファンドラ国との友好関係が崩れないなら、何の問題はない。
嫌がらせとして思い付いたのは、カーマン帝国との国境にある砦の破壊。さぞ慌てふためくだろうが、カーマン帝国まで出て来ると状況が複雑になり過ぎるので、この案はお蔵入りだ。
噂によると、オーガの進行に備えて、ナミル王国の第2騎士団が、近日中にグロスターまで遠征に来るそうだ。グロスターに居る騎士と冒険者ではオーガに勝てそうも無いので当然だが。
昨日の朝に、ナミル王都から50人以上の移動が確認されたので、この情報は間違いないが、200人の部隊が5組で1000人規模の移動だった。1部隊だけ移動速度が速かったので、明日の朝には到着すると思われる。
オーガ集団との戦闘で、どの程度の被害が出るかで、開戦するかしないかにも影響を与えると思う。ナミル王国としても連戦は避けたいだろう。
俺としては戦争をしたい。この世界に来て、しっかり見て回ったのはナミル王国とファンドラ国の2国だが、ファンドラ国には奴隷制度が無い。大人の奴隷なら未だしも、子供の奴隷を見るのは不愉快だ。
そこで思い付いたのは、戦後の条約を結ぶ時に、ナミル王国に認めさせたい事がある。戦勝国として求める事は、奴隷の廃止、孤児院の費用、アルクドロ教の財産没収及び現司祭の逮捕、貴族と大店に重い課税、戦争賠償金、大使館と外交特権。こんな所か?
浩史とマツオカチームは、ファンドラ王都のダンジョンに行って、レベル上げと宝石や魔石の確保をしている。少し前に浩史と話している時に、現状で1番効率がいいGの稼ぎ方が、宝石ではないかと結論が出た。
そこで俺と浩史もダンジョンに入る為、空いた時間を利用してファンドラ国で冒険者登録をした。
ナミル王国では、ダンジョンに入れる条件が冒険者ギルドの階級で決まっていたが、ファンドラ国では魔法騎士との模擬戦で強さを示せば、冒険者でなくともダンジョン資格を貰える。俺達はそれを知らずに冒険者登録をしてしまった。
ダンジョン資格は、魔法騎士団詰所で発行していたので、貰っていたダンジョンの入場許可書を見せると模擬戦をパスして、ギルドカードにダンジョン入場許可の刻印を入れて貰えた。
これでファンドラ国のギルドカードには、商業ギルド露店資格、冒険者ギルドG+級、ダンジョン入場許可の刻印が入った。
一応、商業ギルドで露店資格も取って、畳1畳分の場所を確保した。ファンドラ王都は馬車道と歩道が別れていて、歩道も広く作ってあるので露店を開くには申し分ない。
ダンジョンは王都から徒歩30分程度なので、露店で何を売るか考えながら歩いているとダンジョンに到着してしまった。
到着したので露店の事は保留にして、浩史に通信を入れた。
「浩史、今何階に居る?」
「兄貴、ダンジョンに到着した?」
「到着した、で何階?」
「今63階だから、63階への階段で待ち合わせるのは?俺達はレベルを上げながら62階への階段に引き返すから、兄貴は魔物を無視して急いで来て」
「分かった」
「それと、どうもグロスターのダンジョンと魔物のレベルが違うみたい」
「どの程度?」
「グロスターだと、その階層の最高レベルは、階数を2で割って5を足したレベルだけど、ファンドラ王都のダンジョンは5じゃなくて8を足したみたい」
「誤差の範囲だろ」
「そうかな、計算方法が違うんじゃない」
「正しい計算方法を調べる気はない。大体、この世界にはレベルの概念が無いから、調べている研究者も居ない。子供達には俺達と行った階より下には立ち入らない様に言い聞かせるしかないと思うけど」
「まあ、そうだね」
「じゃあ、急いで階段まで行くよ」
浩史がデータベースに上げた地図を頼りに、魔物の姿が見えた瞬間に蜂の巣にして、魔石も拾わずに合流場所まで向かった。
63階層へ続く階段を下りて来たが、暫く待っても浩史達の姿は見えないし、レーダーにも確認出来ない。
俺達のレーダーは半径600mだが、ダンジョンでは階層が違うとレーダーには映らない。普通の建物なら600mまでなら構造も人も把握出来る。やっぱりダンジョンは特殊だ。
しかし遅い!もう30分以上待ったがレーダーに反応なし。
「浩史、今何処?」
「兄貴、不明。転移の罠に引っ掛かって、飛ばされた。上への階段を探しながら魔物を倒してる。合流は無理そうだから、兄貴は63階の地図を完成させておいて」
「そっちは大丈夫なのか?」
「最悪、子供達は転送装置でホームに帰すから問題ない」
「そうか、それなら俺もホームに戻って子供達と入れ替わりで、そっちに行こうか?」
「俺一人でも余裕だから、兄貴は地図をお願い」
「危なくなったら、転送装置を放置してもホームに帰れよ」
俺はデータベースから63階の地図を確認して、空白地帯へと向かう。
今度は魔物を倒して、魔石を回収しながら地図が完成する様に、歩いているが魔物のレベルは最高で39だ。
今まで見た事ない魔物にも遭遇した。種族はケルベロスとバーザーカー、ケルベロスは3つの頭の犬だったが、バーサーカーは筋肉の塊で牙がある赤鬼?角があれば赤鬼だが角は無い。
力比べをしてみたが、驚いたのは力がレベル85の俺と、ほぼ互角。更に驚いたのは動作が遅い、物凄く遅い。攻撃を受けても防御しながら、ゆっくり近付いて攻撃をしてくるが攻撃に当たる気がしない。
ゴブリンでも避けられるスピードだった。これならバーサーカーよりゴブリンの方が強い?
ケルベロスはケルベロスで、犬の頭が3つもあるので攻撃し難い。見知らぬ他人を殺すよりも心が痛む。
さっき浩史にも聞いたが、浩史はケルベロスに攻撃してないし、戦いを見ても居ない。見るのが嫌なので子供達に任せっきりにしていた様だ。
63階の魔物は全て刀で倒しているが、数体切り殺したら切れ味が悪くなった。アルコールを含ませたタオルで、数回拭いて切れ味が戻ったが、また数体切ると切れ味が悪くなった。
手入れの頻度が頻繁で全く使い物にならない。突きだけで戦闘をする事も考えたが、動作が限られて使えない、それなら力で強引に切ろうと思ったが、馬鹿々々しくなりアサルトライフルに戻した。
これまで刀の練習した事は何だったのか、剣術の対応も少しは理解出来たので、全くの無駄ではないが、使う機会は無さそうだ。
63階を探索し終えて小部屋を3つ発見した。経験上、どの部屋にも宝箱があってもおかしくないので、1つ1つ回って確認をする。
俺は罠の解除が出来ないが、警戒する罠は1つ、転移の罠。魔物がこの部屋に転移して来るなら問題ないが、俺が転移してしまうと、自分の居場所が分からなくなるので帰るのに時間掛かる。
浩史もこの罠に掛かり集合場所に来れなかったので、1日で2人共が同じ罠に掛かる事は避けたい。
1つ目の小部屋には宝箱があり、罠は転移魔法陣が描かれていた。持って来た箒で宝箱の周りを掃いて、砂の下に魔法陣があるのか確認すると、転移系と思われる魔法陣があったので、C4を少し遠くに設置して爆風で宝箱を吹き飛ばす。
浩史には宝箱の中身が分からないから、止めてくれと言われているが、ここには居ないので、小部屋の外に出て構わず起爆スイッチを押す。
小部屋に入ると、光っていた魔法陣が消えていく。魔物が居ないので冒険者を転移させる魔法陣だったのだろう。吹き飛んだ宝箱を開けると、割れたガラスの瓶が転がっていた。
この小部屋には宝箱が無かった事にして、次の小部屋に向かう。
幸い残り2つの小部屋にも宝箱があり、罠もガスと矢が飛んで来る物だったので、ネックレスと宝石を問題なく回収出来た。
63階の地図も完成したので、引き上げ様とした所で浩史から通信が入った。
「兄貴、まだ63階に居る?」
「今62階への階段だけど、助けがいる?」
「助けは要らないけど、やっと俺も63階に上がれた」
「子供達は?」
「もう帰したよ」
「じゃあ、階段で待ってるよ」
「そうして」
浩史達は転移罠で65階へ飛ばされていたが、64階まではマツオカチームのレベル上げをして、子供達をホームに帰して1人で63階まで上がって来た様だ。
暫く待っていると浩史と合流出来たので、2人で60階まで行く事にした。
「兄貴、刀使ってないの?」
「直ぐに切れ味が悪くなるから使ってない。手入れも面倒だし」
「確かにねー、魔法が使えないと刀は不便だね」
「デボラとレオンも魔法使えないだろ?」
「あの2人は剣だし、ガードが専門だから、切れ味は余り気にしてないね」
「イリアとロンは?」
「火の魔法で剣を加熱してるよ。そうすると切れ味が戻るみたい」
「便利だな、流石魔法だ」
魔法で刀の手入れが出来るとは、便利過ぎる。
浩史達も60階に来てから外れの小部屋は無かったので、発見した小部屋の数だけ宝箱を発見した。宝石と魔石は全て浩史が貰い、それ以外はマツオカチームの物となった様だ。
始めは、マジックアイテムや武器、防具も浩史に受け取って欲しいと言っていたが、流石にそこまでは受け取れないので、必要ない物だと納得して貰った様だ。
ホームに帰ったら俺が発見したネックレスもお礼として渡そう。
さて、今日も日課の木材移動を行っていたが、またしても警告メッセージが送られて来た。ホームに戻って確認すると、案の定、集落を作っていたオーガの進行だった。
「どうする?フレイヤさんに頼む?」
「今回は様子を見る。コトカ村の方に進むなら、俺が囮になって進行方向を逸らす」
「兄貴がどうやって囮になるの?」
「単純に姿を見せてから逃げる」
「そんなので進行方向を操れるの?」
「じゃあ、木刀を持って行って、先頭の奴らを殴るか?怒って追っかけて来るだろ」
「どうだろう?」
「進行方向がコトカ村なら逸らす。俺で駄目ならフレイヤさんに頼む事になるかな、暫くは様子見だ」
衛星からの高感度映像をリアルタイムで見ながら休憩をする。
オーガ共は真っ直ぐに、騎士と冒険者の監視チームを目指して進んでいる。
監視チームもオーガの進行を発見して、発見合図のフレイムボールを数発撃つと馬に乗り逃げ出して行く。この分なら追いつかれる心配もないし、進行方向もコトカ村から逸れている。
「大丈夫そうだな」
「そうだね、運が悪くなければ、グロスターまで無事に辿り着けそうだね」
「後2往復だから、材木運びを終わらせて来る」
「兄貴は見ないの?」
「浩史が見てて、問題があれば連絡して」
「いいけど、面白そうだよ。命懸けの鬼ごっこだし、鬼はオーガだよ」
「どうでもいい。それより攻撃衛星がもう直ぐ完成するから、完成したら直ぐに打ち上げて、チャージに3日掛かるから」
「ホームでチャージしてから打ち上げる?」
「勿体ないから太陽光でいい、当分使わないし」
「序でに、ダンジョンの宝石も端末ショップで売って、兄貴の方に入金しとくよ」
「そうして」
材木を積み込んでグロスターに転送すると、何やら街が騒がしい。合図の魔法が確認されたのだろう。
オーガ進行で被害を受けそうな村の人達は、既にグロスターに避難しているし、進行を遅らせる物はないので、オーガ共は監視チームを追いかけて、最短でグロスターに辿り着くだろう。
過去に魔物が街を襲撃した話を聞く限りでは、警戒してない場合は、近くの村が襲われて、その村で食料が無くなるまで滞在、遅くても1日、早いと数時間で次に移動すると言われている。
では警戒していた場合は、食料となる村人は防御力が高い領主の街に避難している。ここら辺ならグロスターだ。当然、魔物も一直線に領主の街を目指して来る。そして街の近くの森に留まり日が沈んだら街を襲う。
この話が合っているなら、明日の夜にはオーガがグロスターを襲う。第2騎士団は間に合うのか?




