第56話 エキドナ参上
今日も小さな街に行き、ゾンビの殲滅を行ってはいるのだが、いつまで掛かるのか先が見えてこない。
衛星画像も確認しているので、ゾンビの大移動は今の所、ドローンの罠に誘われている集団だけだ。その集団も、近くを通った時には殲滅して数を減らしている。
浩史は最近、ゾンビ戦ではレーダーの設定を変更して、敵を表示させないで街や村を回っている。
ゲームの時は、ゾンビの視力が高かったので、遠くに居ても俺達の姿を捕らえて、小走りで追い駆けて来た。獲物を見つけた瞬間に唸り声を上げて、仲間に知らせるので大量に集まってしまう。
慎重に隠れて進まないと、直ぐに大量のゾンビに囲まれて戦闘する破目になるので、緊張感があったが、死人虫は弱いし結構近寄れる。
そこで浩史は、レーダーを使わずに楽しんでいるのだが、俺と一緒だと縛りプレイにならないので、最近は別行動だ。
俺は村の罠に群がっているゾンビを、アサルトライフルのMDRで狙撃して倒している最中だ。
実は俺も少しだけ縛りプレイを行っている。縛りはゾンビに触られない事。触られたらそこでの殲滅は中止、次のポイントに移動してゾンビを倒す。もう1つは、建物の中にいるゾンビはナイフで倒す。
この村のゾンビを全滅させて、火事場泥棒を終えると、罠を回収して村に火を点け、村ごとゾンビを火葬する。
今日まで何度もゾンビを倒したが、この死人虫で一番嫌な所は、死体が腐らない、腐り難い点だ。子供の姿で目が濁り顔色が悪いだけ、倒すのに物凄く抵抗がある。
大人の死人虫なら腐ってなくても、何の抵抗もなく倒せるのだが、子供になるとグッとハードルが上がる。
最初は何とか助け様としたのだが、ポーションも医療カプセルも全く役に立たなかった。医療カプセルに入れる時には、カーボンナノチューブでグルグル巻きにした苦労だけが残った。
次の村に向かう途中に、フレイヤさんのビーコンからの信号が入って来た。浩史と話して2人で屋敷に行く事にした。
周りの敵を片付けて、転送でホームに戻りフレイヤさんの屋敷に転送した。裏庭の家から出ると浩史が一言、言い放つ。
「小っちゃ!!」
確かに小さい、俺達が想像した古代龍は、10階建てのビルを超える50m程と思っていたが、現物の古代龍は10mもない。尻尾まで含めても13m位の黒龍だ。
ワイバーンは尻尾まで入れて10mも無かったので、ワイバーンより一回り大きいが、幼龍と間違えそうだ。幼龍を見た事は無いけど。
フレイヤさんと古代龍エキドナが話し終わるのを待っていると、いきなりエキドナが飛び立った。更に少し上空に上がった時に半透明となった。
浩史がよく使うバニッシュは、光学迷彩で姿を完全に隠せるが、エキドナが使った物は少し注意深く目を凝らせば、そこに居る事が判ってしまう。半透明なので当たり前だが。
だが、遠くから見付ける事は困難だ。
俺は最初から見ていたので、少し遠くても目で追える。徐々に高度を上げるので、帰ってしまうのかと心配したが、一定の高さまで上がると、その場で留まっている。
もう結界を解く話は終わったのか?と思った瞬間、地面が揺れる。立ち止まって居たので気が付いたが、歩いていたら気が付かないレベルだ。
振動が収まると6個の黒い物体がエキドナの方に集まって行く。その物体を手で掴むとエキドナが降下して来た。
「終わったぞ」
「そうか、これで私は森から出る事が出来るのだな?」
「ああ、我も忘れておった。すまん」
「いや、私もこの森が気に入ってたからな」
「しかし、この1年でフレイヤの雰囲気が変わったな」
「そうか?最近は色々な人に接する機会が多いからな」
「確かに人の気配が多いな。では、しばらく邪魔をするぞ」
「ああ、ゆっくりして行ってくれ」
「それで、お前達は我に何か用でもあるのか?」
俺達の方を向いてエキドナが問い掛けて来た。
エキドナのレベルは100で龍族、怒らせたら今の俺達では瞬殺だ。
「少しお話があります。今宜しいですか?」
「ああ、フレイヤとの話は終わった。それで要件は?」
「松岡正樹です。私達は異世界人です。気が付いたら世界に来ていましたので、元の世界に帰る方法を探す為に、情報を集めています。知っている事があれば教えて下さい」
「ほう、お前達は来訪者か。我が知っている事は、星の位置が関係して数十年に1度、異なる世界と繋がる事、世界から世界を渡る際に何かしらの力を備える事だ」
来訪者?異世界から来た人の呼び名か、今まで聞いた事が無い新しい言葉だ。
「そうですか、来訪者と名称を知っているなら、来訪者について知っているか、会った事があるのですか?」
「数人に会った事があるが、元の世界に帰る方法は我でも知らん」
「そうですか、今生きている来訪者は居ますか?」
「我は知らんが、ユランなら知っている可能性はある」
「ユランさんですか?何処にいらっしゃいますか?」
「ユランは我と同じ古代龍だ。居場所は知らん、別の大陸だとは思うが」
出会った来訪者は、要望があれば、その大陸で懇意にしている者に保護を頼み、様子を見にたまに赴く。今は誰も保護してない。
古代龍はマナが濃い場所を転々として、この闇の森もマナが濃く過ごし易いが、フレイヤさんも住んでいるので滞在は短い。
そのマナが濃い場所の数ヶ所が、ユランと被っているので、2体の古代龍が逢う時はよく逢うが、1年以上逢わない時もあるそうだ。
重要な事は、星の位置が関係して異世界と繋がる事、異世界人が来訪者と呼ばれている事だ。データベースの検索ワードに、星の位置や来訪者を入力する必要がある。
俺の話が終わったので、今は浩史がエキドナと話しているが、俺はフレイヤさんに呼ばれて、転送装置の使用方法やホームの案内をする事になった。
フレイヤさんにホームの説明をしながら、エキドナのレベルについて考える。
ゲーム感覚だと、龍と戦う時は同レベルなら5チーム30名で互角、プレーヤーが3レベル高いなら2チーム12名でプレーヤーが有利、1対1で戦うなら8レベル差を付けないと互角に戦えない。
エキドナのレベルが100、この世界の上限レベルは知らないが、レベル100が上限なら俺達がレベルを上げてもエキドナに勝てる可能性は少ない。
唯一可能性があるとすれば、強化魔法を使って戦う事だ。しかし、俺達が今使っている武器はこの世界では入手出来ないが、数点はショップで売っている。
1つのカテゴリーに対して、2つ程はレベルに合ったアイテムレベルの物が購入出来る。
ハンドガンならベレッタM92とM19リボルバー、アサルトライフルならM4とAK-47、どれも使い勝手が悪いし、好きではないので使いたくない。
「マサキ、聞いているのか?」
「聞いています。部屋は6号室を使って下さい」
フレイヤさんが1部屋欲しいと言うので、6号室に案内して部屋を見せる。
「ここか?一応、生活に必要な物は揃っているが、何とも地味だな」
「地味ですか?」
俺には普通の部屋に見える。
「全体的に地味だ」
それからは端末で、天蓋付きのベッド、ソファーセット、テーブルセット、本棚、机など次々に購入して配置した。
全て、俺が使っている物より1桁値段が違う。必要なのか?
部屋の模様替えに満足したフレイヤさんは、1部屋を丸々クローゼットにして、洋服、靴、帽子などを数多く購入した。
リビング、寝室、クローゼットが完成して、気が済んだのかフレイヤさんは満足そうだ。
今はフレイヤさんと一緒にファーノの拠点に来ている。
フレイヤさんが最初に行ったのは、屋敷の塀を土魔法で強化して、屋敷の安全を確保した。続いて街の防壁の方も強化していった。何度見ても魔法の凄さには憧れる。
今日一日では街の防壁の全てを強化出来ないので、東西の門とその周辺の強化に留まっているが。防壁の周りに幅3m、深さ3mの外堀を作り、防壁に厚みを持たせ高くした。
俺と浩史はドローンで集めたゾンビを倒しているが、予想以上に集まってしまったので倒すのに時間が掛かっている。
途中でフレイヤさんが合流して倒すスピードが劇的に速くなった。一度に50個の青白いフレイムボールを使い、次々にゾンビを灰にして行く。圧巻だ。
ミサイルを使えば、フレイヤさんと同等のスピードで倒せるが、周りの被害を考えるとミサイルは使えない。
俺達もフレイヤさんの横からゾンビを倒しているが、フレイヤさんに任せた方が速いので、やる気は起こらない。
エキドナも協力してくれたので、着々と防壁の強化は進み、門も跳ね橋に変える為、フレイヤさんの所に居るドワーフに作って貰い、エキドナに運んで貰った。
死人虫の方は、フレイヤさんも加わり殲滅スピードが上がった。見つけ方も、フレイヤさんの魔力に反応して、逃げるのが魔物、寄って来るのが死人虫なので、この特性を活かして選別方法を確立させた。
衛星で見付け難い森で確認したが、汎用ヘリのヴェノムにフレイヤさんを乗せて、ホバーリング中に魔力を放出して貰う。後はレーダーで赤点を確認すればいい。
フレイヤさんの魔力放出は半径2kmに届く様なので、この方法で確認をすると、大きな森でも短時間で確認が終了する。
エキドナが闇の森に来て、色々な話を聞かせて貰った。別の大陸で、異世界から来た者が勇者と呼ばれ、99階のダンジョンを攻略して、ダンジョンの大魔石を持ち帰った事、知識と魔法を使い、自転車や蒸気機関を開発した事、異世界料理と言われている食事もある様だ。
エキドナは又聞きなので、詳しく知りたいのなら、もう一体の古代龍ユランに聞く必要がある。
エキドナもユランと逢ったら、俺達の事を話して、闇の森に向かう様に話をして貰える事になった。
ファンドラ国での魔法実験も、短距離の召喚で生物以外なら、召喚出来る様になったと報告があった。
2つの魔法陣の間を、召喚魔法で行き来させられる魔法の様だ。距離を延ばせば輸送に使えるので便利そうだ。
俺と浩史は、暇な時間を利用してフレイヤさんとエキドナから、剣術を習っている。
始めは必要ないので断っていたが、浩史が聞き付けて習う事になった。ゲーム内の武器は装備スロットに選択しておかないと使えないので、この世界で手に入れた武器を持つ事で、この問題を解決出来た事、エキドナがアダマンタイン合金製の刀を数本持っていた事が大きい。
エキドナが何もない所から刀を取り出したので、召喚魔法か聞いたが違った。違う空間に入れてあるので自由に取り出せて、魔力で収納容量も変更出来る結界魔法の1つだった。
刀の他にも色々入れてあるが、宝石などの光る物が好きだと言っていた。
刀の話に戻るが、この大陸には刀が無い。俺も浩史も剣よりも刀が好きなので、今まで剣を使った事がない。ゲーム内の話だが。
刀であれば手加減も上手く出来るし、大量の敵を相手にしても弾切れになる事はない。切れ味は悪くなるが、突けば関係ない。
フレイヤさんからは剣術を習い、エキドナと実戦形式の練習、剣術と刀術では違うそうだが、切り裂く様に動きを変えて対応した。
死人虫の殲滅、刀の練習の間を縫って、以前にナミル王国のクロード外交大臣にヘリを見せると約束していたので、グロスターの郊外で浩史に汎用ヘリのヴェノムを操縦して貰い、夜間にホバーリング中のヘリからウインチを使って荷物の交換を行った。
一応、物資の補給を受けている設定になっているので、それらしい木箱を下ろして貰い、異世界について調べた報告書とナミル国王の書簡を引き上げて貰った。
この場にはクリフォード宰相、クロード外交大臣、コンラード将軍と護衛数名が来ていたが、3人からヘリを見学したいと強く希望されたが、着陸させると燃料の関係で、日本まで帰る事が出来なくなると納得して貰った。
代わりにグロスターから、ここまで乗って来たストライカーを見て貰った。
色々説明させられたが、無事にヘリのお披露目は終了した。何故こんな面倒な事を約束したのか、二度とこんな約束はしないと固く誓った。
アイテムレベル:レベル10毎にⅰ上がり0.2倍強くなる。現在はレベルⅸで2.6倍。
ベレッタM92:オートマチック式のハンドガンで9×19mmパラベラム弾を使用。端末ショップで購入出来る。
M19:リボルバー式のハンドガンで.38スペシャル弾か.357マグナム弾を6発装填出来る。端末ショップで購入出来る。
M4:1994年にアメリカ軍が採用したアサルトライフル、5.56×45mm NATO弾を使用。端末ショップで購入出来る。
AK-47:1949年にソビエト連邦軍が採用したアサルトライフル、7.62×39mm弾を使用。端末ショップで購入出来る。