第54話 生存者
感染エリア内の街や村に音源の設置、ゾンビを誘き寄せるLタイプドローンも全て設定して飛ばした。これでゾンビ狩りを本格的に始められる。
Lタイプドローンは徒歩よりも遅い、時速2kmに設定して大音量で音楽を流しながらファーノ拠点に戻って来る様にしてある。これで散らばっていたゾンビもファーノに集められる。速度が遅いので集めるまでに時間は掛かるが。
浩史は攻撃ヘリで街や村を回ってゾンビ狩りを行おうとしたが、今日はファーノの街を掃除する事にした。
罠で誘き出せなかったゾンビと、倒したゾンビの焼却がメインだ。浩史は渋ったが俺が譲らなかったので、火炎放射器を持って町中の探索を行う。
大半のゾンビは門から聞える音に誘われて、東西の門に集まっているが家から出られないゾンビも多く居た。
家の中で倒したゾンビも庭や道に出して火葬する。他にも音を出しそうな物は全て外すか壊したので、門から街中には入って来ないはずだ。
昼休憩はホームに戻って食事して、フレイヤさんの屋敷に向かい転送装置の場所を移動させた。
「進捗はどうだ?」
「今、裏庭に建てている家に転送装置を移動させました」
「死人虫の方だ」
「それなら拠点の街ファーノは今日中に制圧します。感染エリア内の街や村にも罠の設置は完了して、死人虫の誘導ドローンも稼働中です」
「街の名前をファーノにしたのか?」
「書庫の本に書かれていましたので、皆さんも憶え易いかと思いまして。古代龍はまだ来ませんか?」
「もうそろそろだと思うが、あくまでエキドナの気まぐれだからな」
「そうですか、早くフレイヤさんにも手伝って貰いたいのですが、古代龍の都合なので仕方ないですね」
「結界の解除が終われば、ここを押せばよいのだな」
フレイヤさんが、腰のポーチからビーコンを出して、ボタンを指で刺す。
「それでビーコンが作動して、俺達に知らせが届きます」
「距離が離れていても届くのか?」
「この大陸であれば届きます」
「便利だな、我らの魔法学でも出来なかったのに、カガクとは素晴らしいな。ついでにカガクで武器も作れないか?」
「どの様な武器ですか?」
フレイヤさんの要望を聞くと、剣か刀で魔法が掛け易い素材がいいと言われた。
魔法の事は全く知らないので、素材を指定して貰うと、ミスリルかオリハルコンを含んだ合金で作った物、その合金の方が硬化魔法の硬化度合いが違うと言われた。
ついでに硬化魔法と強化魔法の違いを聞くと、その言葉通りだと言われた。強化は全てに対して行われるが上昇数値は少ない。硬化はただ固くなるだけだが、上昇数値は大きい。
それと強化魔法と硬化魔法を同時には掛けられない。
フレイヤさんの宝物庫に在った剣について聞いてみると、老龍との戦争で一流品は全て持ち出して戦っていたので、今ある品はまあまあの剣しかない。
それでも冒険者からしたら喉から手が出る程、欲しい物の様だ。
そこで思い出したアイテムがある。以前にグロスターのダンジョンでミスリル製の剣を手に入れた事を思い出した。
ホームから剣を持って来てフレイヤさんに見せる。
「ミスリル製の剣か、魔法付与の印もあるな」
「魔法付与とは?」
「魔法の属性を与える事が出来る。火の属性は切ったら燃える、水の属性は凍る、風の属性は切れ味が良くなる、土の属性は強度が上がるだな」
「斬撃が飛ぶ事はありますか?」
「そんな物はない。魔法を撃て」
「それは残念です。その剣で良かったらどうぞ」
「いいのか?」
「エドモンさんから代金を貰いますからいいですよ」
「さっそく鞘を作らせるか」
「では、これからファーノに戻って制圧を再開します」
「そう言えば、ヒロシはどうした?」
「先に戻りました。今日中にファーノの街を制圧しないと、明日の予定が変更になります」
「明日の予定は?」
「感染エリア内の街や村の死人虫の殲滅と生存者の探索です」
「生存者か、どうだ、望みはあるのか?」
「正直、無理だと思っています。ファーノは全滅ですし、他の街や村にも罠の設置に行きましたが、死人虫で溢れ返っていました」
「見つけたら最優先で保護しろ。ファーノはしばらく私の管理下に置く」
「了解です」
ファーノの街に戻り、ゾンビを倒しながら財宝を集める。
「言われた通りに火事場泥棒して、金品を集めたよ」
「人聞きの悪い事を言うな。集めた金は、この街の復興に使う。そのままにして盗賊に盗まれたら街の復興が遅れる」
「復興に使うって、誰がやるの?」
「フレイヤさん。しばらくファーノを管理下に置くって」
「フレイヤさん、政治には関わらないって言ってなかった?」
「復興するまでじゃない」
「フレイヤさんなら、いい領主になると思うから、続けてくれるといいね」
「いい領主か、初めて会った時は殺されかけたけどな」
「殺したかな?」
「俺達が弱かったら、間違いなく殺されてた」
それからも金品を集めながら、ゾンビを倒して火葬した。日が暮れる前には街の制圧は完了して、ゾンビも全て倒し終えた。また集まっては来るのだが。
日が暮れたので、浩史がライトニングBを転送させ、感染エリア内の街や村で生存者の確認を行う。
レーダーの設定を変更して、魔物の反応である赤点と俺達が仕掛けた罠などの黒点を表示させずに、人の反応の黄点とチームの反応の青点を表示させる。
黒点にはドローンも含まれるので、表示させると生存者を見逃す恐れがある。青点は表示の切り替えが出来ないので常に表示される。
これで街や村の上空を低速で飛行して反応を探す。
「兄貴、反応あったよ」
「本当に?」
「11個の黄点が集まってる。近くに着陸して転送装置を設置する」
「了解。設置が終わったら連絡して」
転送装置の設置が終わったので、転送して浩史と救出を開始する。
生存者に駆虫薬を届ける為に、ヘリで生存者が避難している建物の上に俺が下りる。生存者に駆虫薬を飲ませて、転送装置でフレイヤさんの屋敷に送る。浩史にヘリで迎えに来て貰い脱出。
浩史にヘリを飛ばして貰い、生存者の居る建物300m上空でホバーリングしている。もう少し低空でもいいが、ゾンビに気付かれると面倒なので、風切音も考慮して絶対気付かれない300mにした。
「ここから降りるの?300m下の揺れは物凄く大きいと思うけど?」
「俺が重りになるから少しは抑えられる。降りるぞ」
ラペリングで降下するが、思ったよりも振れが大きくなる。結果は少し離れた建物に下りれた。
「だから言ったのに。早く目的の建物に行ってね」
返す言葉もないので、黙って生存者の元に急ぐ。
大半のゾンビは、罠の方に誘き出されているので、邪魔になりそうなゾンビを倒して、家から降りる。家から家に飛び移ってもいいが、着地した時に屋根を突き破って、大きな音が出てゾンビの注意を引くのも嫌なので地面に降りた。
これだけのゾンビに囲まれて、生存者が居ると思わなかった。こんな事なら罠の設置の時に、レーダーの設定を変更して生存者の確認をしておけば、二度手間にならなかったのだが。
やってしまったミスを悔やんでも始まらないので早く救出する事にしよう。
目的の家に到着したがノックをしても、レーダーの黄点に動きが無い。仕方ないのでナイフでドアをこじ開けて中に入る。
1階に2人、2階に9人と別れていたので、1階から説明をする事にした。ドアの前に立って小声で話し掛けるが返事がない。
中を覗くと2人がベッドで寝ている。大人の女性と男の子だったので、女性を揺すってみたが反応がない。試しに男の子も揺すったが反応はなかった。
浩史と話した時には、症状が昏睡なら射殺すると話したが、実際には襲われてもないし、女性と子供なので射殺する事に物凄く抵抗がある。出来れば殺したくない。
「浩史、昏睡の女性と子供を見つけたけど、フレイヤさんの所に連れて行ったら治ると思う?」
「無理でしょ。それよりポーション打ってみたら?」
「ポーションで病気は回復しないぞ」
「体内の損傷は回復すると思うけど、他には、ホームの医療カプセルに入れてみる。それ位しか思いつかない」
「医療カプセルは後で考えるとして、最初はポーションから試してみる」
「兄貴はもう少し時間が掛かるでしょ。次の場所で生存者の捜索をしてていい?」
「いいよ。周りの敵を倒して転送装置を使わずに転送するから」
通信を切って、腰のポーション装置からポーションを2本取り出す。
最近はポーション装置を使っていないが、ケーム中は攻撃を受けて手足が損傷する事もよくあった。コンバットアーマーは自動修復するが、体の損傷はオートリジェネのスキルを選択していないと回復しない。
腰に取り付けてあるポーション装置を触ると、装置がポーションを注射してくれるが、俺は面倒だったのでオートリジェネを選択していた。
それでも手足が無くなれば、直ぐに回復するポーションを使っていたし、戦闘不能になると、チームメイトが10秒以内にポーション装置を触れば、ポーションが注射され瀕死の状態だが復帰出来た。
ゲームの設定では、行動不能が死んだ事になるのか、仮死状態にあるのかは不明だが、ポーションを注射すれば意識は回復する。
エピペンの様に、ポーションを押し付ければ注射されるので、子供の方から試してみると、直ぐに意識を取り戻した。
「だれ?」
「助けに来た。これは駆虫薬だ、飲んで」
「これで、たすかるの?」
「助かるよ。隣の人も助けるから、自分で飲める?」
「うん」
隣の女性にもポーションを打って意識を回復させる。
「あなたは?」
「救出に来た冒険者だ。説明は後にして駆虫薬を飲んでくれ」
「これを飲めば助かるのですか?」
「分からない」と子供には聞かれない様に小声で話す。
「私よりも、この子に飲ませて下さい」
「もう飲ませた。早く飲んでくれ、この後も予定が詰まっている」
2人に駆虫薬を飲ませて、動けるか聞いたがベッドから立ち上がって、ふらふらしていたが少ししたら問題なく動ける様になった。
2人と2階に上がり、女性から他の人達に説明をして貰い、全員に駆虫薬を飲ませた。
「これからどうする?」と代表してエルフの男が質問して、11人の視線が俺に集まる。
「皆さんが落ち着いたら外の様子を見て来ます」
「何処かの軍隊でも来てくれるのか?」
「いえ、俺1人です」
俺の返事を聞いた大人達の表情が暗くなる。子供達も大人の顔色を窺い表情が暗くなる中、1人の女の子が男の子に話し掛けた。
「おにいちゃん、おなかすいた」
「もう少しだから、我慢しろ」
食料は備蓄してあったが、立て籠って底をついた様だ。
「食料はある。用意するから少し待って」
アイテムBOXからウォーターケースと携帯食ケースを取り出して、水を配る。
「その箱は何処から出て来たのだ」とエルフ男が質問して来た。
「マジックアイテムです」と答えたが明らかに怪しんでいる。
エルフ男は無視して、バックパックから携帯コンロと鍋を取り出してお湯を沸かして、温めた携帯食を配る。
一度、外の様子を見て来ると伝えて、1階に下りて転送装置を設置してフレイヤさんの屋敷に跳んだ。
執事のエドモンさんにフレイヤさんを起こして貰い、大人7名、子供4名の生存者を告げる。
「生存者が居たのか!」
「はい、それで2名が昏睡状態でしたが、私の世界のポーションを使い、昏睡から回復させて駆虫薬を飲ませました。経過観察して下さい」
「それは問題ない。死人虫の感染が判るマジックアイテムが、宝物庫に保管されていたから使える様にした」
「それは凄いですね。ファンドラ国で複製出来ませんか?」
「4台見つかったので、1台をジャックに持たせて複製を急がせている。マサキも1台持って行け」
見せて貰った死人虫検知のマジックアイテムは、B5程度で厚みが20㎜のガラスと鉄を重ね合わせた板の様な物だった。使い方の説明を聞いて、ケースに収納してバックパックに入れる。
裏庭の家の見張りを任されたモーリスさんに挨拶して、ホームに戻ってブレスレットを用意して生存者の元に戻る。
2階に上がり声を掛けてドアを開けて貰う。
外の様子はどうだったとエルフ男に聞かれたが大丈夫だと適当に答えて、死人虫検知板の使い方を説明する。
使い方は簡単で、検知板に手の平を重ねるだけ。その状態で数秒待つとガラスの様な部分が光る、緑なら正常で、赤なら感染。駆虫薬を飲ませた後は3時間後に検査しないと、正しい結果が出ない。
最初は、駆虫薬を飲んで貰ったが感染しているのか不明だった、2階の9人に試して貰った。結果は緑で正常だった。
後の2人は、感染していたが駆虫薬を飲んだので、約1時間後に検査予定だ。試しに検査したら赤だった。1時間後に緑になる事を祈る。
「兄貴、生存者を4名見付けた、麻痺は無いけど駆虫薬は飲んで貰った。次はどうする?」
浩史から通信が入り、新たな生存者が見付かった。
浩史に今までの流れを説明して、フレイヤさんが待機しているので、屋敷に連れて行くように指示した。一応、死人虫検知板の使い方も話して、生存者には必ず検査を受ける様にさせた。
俺が話さなくても、フレイヤさんが調べると思うけど、念の為。
少しして浩史から連絡があり、4人の生存者は緑だったので、フレイヤさんに預けて生存者の捜索を開始すると言われた。
1時間経ったので、2人に死人虫検知板を使って再検査した所、2人とも緑で正常に戻っていたので、全員をフレイヤさんの屋敷に転送させた。
その後も浩史の捜索により、2か所で合計41名の生存者が見付かった。麻痺や昏睡の者も居たが、駆虫薬とポーションの治療は有効だったので、生存者全員が助かってフレイヤさんに保護された。




