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家族と絆

 夏休み。

 高松から岡山へと向かい、岡山空港から直行便で千歳へと飛行機で飛んだ。

 千歳空港へと到着すると、そこには深谷パパの親友の男性が待機しており、十勝の方へと車を出してもらう。


「ふぅ……」


 私は後部座席へと腰かけ、一息つく。


「大丈夫?」


 気にかけてくれる未散に、私は笑顔を返した。


「大丈夫だよ。……ちょっと疲れたけど」


「……そう」


 未散は安堵したように私の頭を撫でる。

 ここの所、ボディータッチというか、子ども扱いが加速したような気がする。

 いつの間にか知られてしまっていた学園の騒動も影響はあるんだろうけど、やっぱり最大はアレだろう。


「未散は嫌じゃない?」


「うん?」


 首を傾げ、未散が疑問を呈する。


 もう……分かってるくせに……。

 助手席に座るつかさが聞き耳を立てていることにも、私は気づいていた。

 その気遣いが、ありがたく、またもどかしい。


「私は姫の事好きよ」

 

 私の髪を梳きながら、未散は言った。

 とても穏やかな顔だった。

 『姫』を受け入れてくれている顔だった。


「ありがと……ね」


「うん」


 未散、そしてつかさに心からの感謝を。

 私は軽く目を瞑り、ここ数日の事を思い出した。






「どう? 美味しいでしょ?」


 私はドヤ顔で胸を張った。


「こ、これは……」


「……すごい……」


 恵と由奈ちゃんは目を真ん丸に見開いて、口に広がる甘美な味わいに浸っている。

 喫茶店『なごみ』

 ここは学園入学前に深谷ママに連れてきてもらってアノ昔ながらのレトロなお店だ。

 恵と由奈ちゃんと晴れて友人となった私は、親交を深めるために、『なごみ』を紹介していた。

 その私の選択は見事大当たりしたことは、二人の蕩けた表情を見るに間違いない。


「はー……これは、初めてだわ」


「…………」


 恵は関心しきり、由奈ちゃんは無言で一心不乱に食べている。

 注文したのは三人揃ってモンブランと紅茶のセット。

 私は手元にあるモンブランをフォークで一掬いして、口に放り込む。


「んんっー!」


 脳内を幸せ物質が駆け巡る。

 相変わらず、甘みの加減が絶妙だ。

 そして紅茶を一口。


「ほっ……」


 コーヒーや紅茶は喫茶店の花形だ。

 ここの紅茶は花形に相応しいだけのものをもっている。


 一体、どうやっていれてるんだろう……。


 疑問はつきない。

 一度、お家で茶葉から淹れてみた事はあるんだけど、苦みが強いばかりで、なかなか独特の風味というものがでない。

 茶葉の質が違うのはもちろんの事、淹れ方にも何か秘密があるんだろうなー。

 そんな事を考えていると――――


「ご馳走様!」


「……ゴチです……」


 二人はもうすでに、最後の一口を租借し終わっていた。

 可愛らしくゆっくり紅茶を啜る由奈ちゃんと、豪快に飲み干す恵。

 対照的なそんな二人だけど、完食するのはほぼ同時だった。

 完食すると同時に、二人は背もたれに体重を乗せる。


「あはは……、もう、はしたないよ」


 完全にリラックスしたように手足を伸ばす恵に、私は苦笑する。

 でも、気持ちは分かるかな。

 なんか、この店って落ち着くんだよね。

 静かな落ち着いた雰囲気がそう思わせるんだろうか。

 お客さんは多いんだけれど、皆静かだ。

 一人一人がこの店の雰囲気を大事にしているのかもしれない。


「いやー、それにしてもいいお店教えてもらったわー」


 恵が上機嫌に笑う。

 由奈ちゃんも、ニコニコと頷いている。


「気に入って貰えたならよかったよ」


 といっても、私も『なごみ』に来るのは二度目だ。

 だというのに、こんなに嬉しい気持ちになってしまう。

 『なごみ』……とんでもないお店だ。

 ファンになってしまった。


「また来ようよ!」


「……来ようっ!」


 そして、ここにも、また二人。

 私と同じ思いを共有してくれたなら、そんなに嬉しい事はないよ!






「じゃあまた明日ね!」


「ん、じゃね」


「……バイバイ……」


 分かれ道で恵と由奈ちゃんと分かれる。


「……楽しかったなぁ……美味しかったなぁ……」


 今日あった事を思い返すだけで、自然と笑みが浮かんでくる。

 ずっとこんな日々が続けばいいと思う反面、少しだけ今を恐く思う私がいる。


 また、壊れたりしないよね?


 その不安は、私に付きまとって離れない。

 今度こそ大丈夫! と思いつつも、一度取りついたトラウマはそう簡単に消えない。


「ああ、そっか……トラウマなんだ……」


 短い期間だったけど、やっぱりあの裏切りは私にとってもトラウマになっていた。

 その事を、今になってようやく気付いた。


「たははっ、馬鹿だなー私って……」


 自分の事を分かっているつもりで、何も分かっていない。

 でも――――


 そんな馬鹿な私でもいいんだって、今なら思えるよ。


 ほんの僅かだけど、成長している。

 その実感があった。

 しばらく歩いて、家に到着する。

 小さいながらも庭付きで、その外観は深い紺、真新しい理想のマイホーム。

 今の私の家であり、幼馴染の家。

 

「…………」


 私は隣に視線を向けた。

 色違いの、真っ白な同じく真新しい家。

 私の、本当の家。

 そこは夕方にも関わらず、真っ暗で人の気配すらない。

 それも……語弊があるか。

 私が帰ってきて以来、その家に明かりや人の気配を感じたことはただの一度もない。


 父さん……母さん……幸也……。

 

 家族の事を思うと、手が震えた。

 最悪の可能性すら、脳裏に浮かぶ。


 まさか、皆、死――――


「まさか! そ、そんな訳、な、ないよ……ね?」


 声が揺れる。

 知りたい。

 知りたくない。

 そのどちらも、私の本心だ。

 知らなければ、『今』がずっと続いていくかもしれない。

 でも、そんなのはきっと嘘っぱちで、結局偽りの『今』でしかない。


 少し前の私なら、偽りでもいいと思ったかもしれない。

 でも、学園での騒動を経験した私には、もうそうは思えなかった。


 後になって後悔するのは、嫌だ……。

 遅かれ早かれ、いずれ真実を知る時はくるだろう。

 ならば、私は胸を張って今を生きたい。


 私は改めて蓮ではなく『姫』の家を見上げた。


「皆本当にありがとう……」


 私は――――全部、正直に話す覚悟を決めた。





「今日はエビフライよ」


「おー」


「……また揚げ物?」


 深谷ママの言葉に、返す二人の反応は正反対だ。

 つかさは素直に喜び、未散は口を膨らませている。


「一昨日は唐揚げだったじゃない……もうちょっとさぁー、カロリーの事も考えてよね……」


 未散はお腹を撫でながら、そう言う。

 さすが、モデルだけあって、そこらへんの管理には気を使っているみたい。


「文句があるなら食べなきゃいいじゃないの」


「だ、だって出されたら……その……」


 揚げたてのエビフライを前にして、未散は生唾を飲み込んでいる。

 私は素知らぬ顔で未散の隣に座った。


「あ! 姫! 姫も揚げ物ばっかじゃ困るでしょ?!」


 座った瞬間、未散がものすごい勢いで噛みついてくる。


「うーん、私は別に……元々太らない体質だし」


 むしろ、ちょっと無理して食べないと勝手に痩せてしまって困る。

 太りたくはないけど、貧相な身体も嫌だ。


「あんた女舐めてるの?」


「いや、そんな顔されても……」


 未散の顔がマジすぎて恐いよっ!

 そんな会話を繰り広げている間に、つかさも未散ママもテーブルにつく。


「じゃあ、頂きましょうか!」


 深谷ママのその一声で、未散からの阿修羅のごとき視線が止み、誰もが眼前の揚げたてエビフライに意識が向く。

 私は唾液を飲み込んで、手を合わせた。

 全員で、まるで示し合せたかのように――――


「「「頂きますっ!!」」」





「ふぅ……美味しかったぁ……」


 満足、満足。

 なんか今日食べてばかりの気がするけど、気にしない。

 問題は隣だ。

 未散がズーンと落ち込んでいた。


「……全部……全部食べちゃった……」


 未散は呆然としていた。

 なにせ、未散はエビフライを食べ始めると止まらなくて、つかさと同じくらいの量を食べていたからだ。

 私の倍近く食べてたんじゃないかな……。


「た、食べちゃったものは仕方ないって!」


 未散の肩をポンポン叩いて励ます。

 ギョロリと睨まれた。


「どれだけ食べても太らない人はいいわね……私がどれだけ努力してプロポーションを維持してると……うわーんっ!」


 未散が泣き出す。

 だけど、家族は皆慣れっこなのか、特に視線を集めることはない。

 スルーされていることに気づいた未散はピタリと泣き止み、つかさの背中に乗っかった。


「あんたのせいよ!」


「ええー! なんで!?」


 つかさの首を冗談交じりに未散は締める。

 つかさは未散のあまりに理不尽さに呆れながらも、笑っていた。


「またダイエット付き合うから」


「約束よ!?」


「うん」


 相変わらず仲がいいな、この兄弟は。

 

 ジャー!


 台所から水音が聞こえ、私は慌てて立ち上がった。


「ママさん! ごめんなさいっ! 私も手伝います!」


 台所に向かうと、深谷ママが洗い物をしている。


「あら? ゆっくりしてていいのよ?」


「いえ! お手伝いさせてください!」


 食費も払っていないのに、洗い物もせずに怠けていられるほど、私の神経は太くないのだ。

 むしろ、家事は全部任せてもらってもいいくらいだけど、……まぁ、そこは、私の能力的に無理かな……うん。


「そう? じゃあこれ拭いてくれる?」


「はいっ」


 流し終わった食器を受け取り、それを私が布巾で拭く。

 拭いていると、キュッキュっという心地よい音がして、なんだか気持ちがよくなってくる。

 もしかして、私って綺麗好きだったのかな?


「じゃあ僕部屋に戻るから」


 一声かけて、リビングからつかさが自室に戻ろうとする。

 いつもなら「おやすみ」なり、なんなり返す場面。

 だけど、今日はそうもいかない用事がある。


「つかさくん!」


「ん、何?」


 背中に声をかけると、つかさが立ち止まった。

 私の方を振り返り、先の言葉を待っている。


「後で話があるから、もうちょっと待っててくれない?」


「部屋でじゃダメ?」


「うん、皆にしなくちゃだから……」


「……そっか。分かったよ」


 つかさは一瞬考えて、すぐ頷く。

 リビングに戻り、未散の隣に座ってテレビを見始める。

 さっきの会話が聞こえていたのだろう。

 未散がチラチラと私の様子を伺っていた。


「皆って事は、私もなのね?」


 もちろん、深谷ママもだ。


「はい。大丈夫ですか?」


「ええ、もちろんよ」


 深谷ママは微笑んで肯定する。

 その笑みを見て、ほんの僅かだけ、私の中で躊躇が生まれた。

 本当に話してもいいのかな?

 信じてくれるかな?

 気持ち悪がられないかな?

 怒られないかな?

 そういった心配事。

 だけど――――


 うん、だよね。

 あの笑顔に、もうこれ以上嘘はつきたくない。




 洗い物を終え、三人にリビングに集まってもらう。

 真剣な話だと察してくれたのか、テレビはいつの間にか消されていた。


「で、話って?」


 切り出したのは未散。

 相変わらずの躊躇のなさに惚れ惚れする。


「あー、うん……えっとね」


 だからといって、私がスパッと切り出せるかは別の話。

 私の将来が懸っているといってもいい告白なのだ。

 どうしても言い淀んでしまう。


「もしかして、学園のアノ騒動の事?」


「何? その騒動って?」


「つかさがクラスメートとのいざこざに巻き込まれたんだよ」


「え!? なに! その話知らないんだけど?!」


 未散とつかさは勝手に盛り上がっている。

 深谷ママだけが静かに私の言葉を待っている。


「ちょ、ちょっと! 学園の事は今関係ないから!」


 今更蒸し返してほしくない話題だ。

 って! 未散、そんなに見ないでよ!

 興味津々な未散を宥め、ようやく本題に入る。


「……私……言わなくちゃいけない事があります」


「改まって……なんなの?」


 視線が私に集中する。

 挫けそうになるけど、負けない勇気を私はここ数ヶ月で一杯もらった。

 だから、私は言えるはずだ!


「今まで黙っててごめんなさいっ! 私は記憶喪失なんかじゃありません! 私の本当の名前は一之瀬いちのせ れん。隣に住んでお世話になった一之瀬家の長男ですっ!」





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